ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ

文字の大きさ
26 / 26

愛された王子様

しおりを挟む
ダリルの魔法で麻痺状態にされてしまってから二時間が経とうとしていた。

あのあと、僕は王城の一室に運び込まれ、医師による診察を受けたが、クライドの言っていた通り時間が経てば後遺症もなく元に戻るだろうと診断される。

アルフレッドは一旦ホールへ戻り、夜会の主役としての役目を終えてから、再び僕のもとを訪ねてくれた。
ようやく麻痺の効果が切れた僕は、ベッドに寝かされたまま、母上の私室での出来事をアルフレッドとアイザックの二人に話して聞かせる。

母上とダリルの仕打ちにアイザックは憤慨するも、アルフレッドが側にいるため、必死に怒りを抑えているようだった。

「それにしても、いつの間に僕とアイザックの婚約が認められていたんです?」

父にはまだ婚約の話すらしていないはずなのに……。
一通り話し終えた僕は、気になっていたことをアルフレッドに尋ねる。

「正確にいうと、まだ認められていない」
「え?」
「今日が終わるまではまだ時間がある。本日中に承認されれば問題はない」
「…………」

まさか、後出しジャンケンのような真似をするとは……。

アルフレッドいわく、婚約誓約書に日付を記入する必要はあるが、時間を記入する欄はないのだという。

必要なのは、今日から僕がアイザックの婚約者であるという事実。
そうすれば、ダリルの行為を罪として咎めることができるからだ。

「しかし、父上にはまだ婚約の許しを得ていないのです」
「……私から話を通しておこう。そもそもディアナ妃を放置し続けた父上にも原因があるのだ。否とは言わせない」
「兄上……」
「婚約誓約書の件はクライドに任せておけ。お前はゆっくり休むといい」

そう言って、アルフレッドは立ち上がる。

「あ、あの、助けてくださってありがとうございました。僕はずっと兄上から嫌われていると思っていて……その、驚きました」

王都からの追放を言い渡された時、蔑むような視線を僕に向けていたアルフレッドの表情かおを思い出す。
正直なところ、まさかアルフレッドが僕を助けてくれるとは思わなかったのだ。

「まあ、あながち間違いではない。私はお前を無能だと思っていたからな」
「うっ…………」

それなら、どうして僕を助けてくれたのか……。

「助けた理由を知りたければクライドに聞くといい」

それだけ言うと、今度こそアルフレッドは部屋を出ていった。
残されたのは、僕とアイザックの二人だけ。

「サミュエル……」

ベッドに寝転んだままの僕の顔にアイザックが手を伸ばす。
そして、僕の目の下を指で優しくなぞった。

「怖い思いをさせたな。俺がもっと早く駆け付けていたら……」
「何を言ってるんだ。アイザックは僕を助けてくれたじゃないか」
「いや、でも……」

珍しく落ち込んだ様子のアイザック。

たしかに、母上に傷跡を醜いと言われたことも、ダリルの執着をの当たりにしたことも……どれもが恐ろしい出来事だった。

だけど、自分の中でその恐怖が膨れ上がることはない。

それは、アイザックが醜い傷跡を持つ僕を受け入れ、あいあいされる喜びを教えてくれたから……。

──だから、僕はもうアイザックに救われているんだ。

僕は身体を起こすと、今度は僕がアイザックに向けて手を伸ばす。
そして、驚くアイザックの頬にそっと触れた。

「だったら、これからもずっと僕の側にいてくれ。僕はアイザックがいなくなることが一番怖い」

それ以外はたいした恐怖じゃないと笑ってみせる。

「サミュエル……」

感極まったような声で、僕の名前を呼ぶアイザック。
そんな彼をいとしいと思う気持ちが急激に込み上げる。

気づけば、僕はアイザックの首の後ろに手を回し、彼と見つめ合っていた。
互いの視線が絡み合い、身体の奥に熱が灯る。

「アイザック……」

思わず、何かを強請ねだるような甘い声が出てしまう。

「サミュエル、これ以上は……」

僕から目を逸らし、苦しそうな表情になるアイザック。

キスをするのは神の前で婚姻の誓いを交わしてから。
その約束を、アイザックは律儀に守り続けてくれている。

だけど、この時の僕はどうしてもアイザックと触れ合いたくて……。

「大丈夫。神様にバレなければいいんだ」

そんな馬鹿みたいな言葉をアイザックの耳元で囁く。
そのままベッドに倒れ込み、神様にバレないよう二人シーツにくるまって、僕からアイザックにキスを求めたのだった。





翌日、僕とアイザックの婚約が正式に発表された。

婚約誓約書には昨日の日付がしっかりと記載され、ダリルは処分が決まるまで貴族牢に収監されることが決まる。

おそらく、命を奪うような刑に処されることはないだろうが、貴族として表舞台に立つことは難しくなるだろう。

「これで殿下もひと安心ですねぇ」 
「ふんっ」

僕の向かいに座り、のんびり紅茶を飲むクライド。
対する僕は不機嫌さを隠すことなく鼻を鳴らした。

「おや、拗ねていらっしゃるんですか?」
「うるさい。アルフレッド兄上の犬め!」

そう、僕の従者であるはずのクライドが、実はアルフレッドの命令でオールディス辺境伯領に同行していたことが発覚したのだ。
そして、辺境伯領での僕の様子を、アルフレッドに逐一報告していたらしい。

『理由を知りたければクライドに聞くといい』

アルフレッドが僕を助けてくれたのは、クライドの報告によって、僕が王家に仇なす存在にならないと判断されたからだった。

僕が改心したことや、アイザックとの婚約を望んでいること、ダリルが何やら企んでいるかもしれないことなど……それらの情報がアルフレッドに共有されていたおかげで、僕はダリルの魔の手から救出されたとクライドの口から聞かされる。

「まあ、アルフレッド殿下の犬にでもならないと、あなたと共に辺境の地へ行くことは叶いませんからねぇ」
「むぅ………」

それはたしかにそうなのだが、てっきりクライドは僕を慕っているのだと思い込んでいた。
だから、追放先にまで付いてきてくれたのだと……。

そう伝えると、「自意識過剰ですね」とクライドに呆れられてしまった。

「だったら、もうお役御免なのだろう?」

アルフレッドが僕のことを認めてくれたのだ。
これでクライドが僕に同行する理由はなくなる。

「いえ、これからも殿下とご一緒するつもりですけど?」
「…………」

こいつ、本当は僕のことを慕っているんじゃないだろうか……。

「やっぱり、僕は殿下の側にいるくらいが丁度いいんですよ」

そう言って、クライドは胡散臭い笑みを浮かべ、僕は溜息を吐きながらもそれを受け入れるのだった。


◇◇◇◇◇◇


アルフレッドの立太子の儀から半年……つまり僕たちが婚約をして半年が経ち、僕とアイザックは神の前で永遠の愛を誓った。

式と披露宴を終えて夜を迎えると、僕はふわふわとした幸せな気持ちでアイザックが部屋を訪れるのを待つ。

今夜は初夜。
つまり、夫となったアイザックと初めて二人きりの夜を迎えるのだ。

(ふふっ、楽しみだなぁ)

実は、婚約をしてからアイザックと何度もキスをする関係になってしまっていた。

あの日、自分からキスを強請ってしまったこともあり、ダメだダメだ……と思いながらも、つい誘惑に負けてしまう。
それに、キスにも様々な種類があるとアイザックに教えられ、上手になったと褒められるのも悪い気がしなかった。

(これからは、堂々とキスをしてもいいんだ)

明日は二人とも休暇を貰ったので、たくさんお喋りをして、いっぱいキスをして、ちょっとくらい夜更かしをするのもいいかもしれない。

そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえ、寝衣姿のアイザックが現れた。

「ずいぶん機嫌がいいんだな」

そう言うアイザックも、機嫌がよさそうに見える。

「俺たちの休暇だけど、今日から七日間をぶん取ってきた」
「本当か!?」
「さすがに式の翌日だけじゃ味気ないだろ?」

アイザックはニヤリと笑う。

騎士団長を務めるアイザックが、長期休暇を取ることは難しい。
それにもかかわらず、僕と過ごすために無茶をしてくれたのだ。

「だったら、二人で遠出をするのはどうだろう?」

浮かれた気持ちのまま、僕は七日間の過ごし方を提案する。
そう、新婚旅行というやつだ。

しかし、アイザックの口からは予想外の言葉が飛び出した。

「何言ってんだ……。今夜から七日間、あんたをこの部屋から出すつもりはないからな」
「え………?」
「結婚したら覚悟しとけって言っただろ?」

そんなことを言われた記憶はないのだが……。

「初夜についてねや教育で学ばなかったのか?」
「ええっと、『アイザックに任せておけばいい』ってクライドが……」

僕の答えを聞いたアイザックはひどく野生的な笑みを浮かべる。

「だったら、教えてやるから……俺に任せて?」

欲望を孕んだアイザックの強い視線に、僕の背筋が粟立あわだつ。
そして……宣言通り、僕はその身をってアイザックから愛を教え込まれるのだった。


===========================

これにて完結になります。
最後まで読んでいただきありがとうこざいました!

しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

パンちゃん1号

楽しく😆いっきに読ませていただきました😚監禁の7日間はどうだっのかなあ😆チョロ王子様執着愛重めにどっぷり愛され幸せいっぱい体力ボロボロかなあ😚😚

2025.05.05 ヒラヲ

一気読みありがとうございます🙇
監禁の7日間は誰も部屋に入ることは許されず、食事も着替えもお風呂も全てアイザックがお世話するという徹底ぶりで、ドロッドロに愛され尽くしたそうですよ💕
ちなみに8日目はツヤツヤしたアイザックが騎士団に復帰しましたが、チョロ王子は休日延長となりました😂
(やはり体力は大事ですね💖)

解除
しゃす
2025.03.02 しゃす

完結おめでとうございまーす㊗️🎉
チョロ王子、7日間しっかり愛💕🥰を受け止めてね🫶🏻‎💗

2025.03.02 ヒラヲ

こちらこそ最後まで読んでいただきありがとうございます🙇
チョロ王子は7日間(初夜込み)しっかり愛されますので、色々がんばってほしいと思います🫶
(この日のために見習い騎士として体を鍛えたのかもしれません……)

解除
しゃす
2025.02.28 しゃす

チョロ王子いいぞ‼️
アイザック頑張れ‼️

2025.02.28 ヒラヲ

二人に応援ありがとうございます✨
これからの二人の行方も見守っていただけますと嬉しいです(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)

解除

あなたにおすすめの小説

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。

Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」 *** 地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。 とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。 料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで—— 同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。 「え、これって同居ラブコメ?」 ……そう思ったのは、最初の数日だけだった。 ◆ 触れられるたびに、息が詰まる。 優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。 ——これ、本当に“偽装”のままで済むの? そんな疑問が芽生えたときにはもう、 美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。 笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の 恋と恐怖の境界線ラブストーリー。 【青春BLカップ投稿作品】

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。