異世界農家のスローライフ

asahi

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森の奥、光の中で

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「リリーナ、こっちに見たことない実があったよ」

朝霧が残る森の中、悠馬はゼムからもらった植物図鑑を片手にリリーナを呼んだ。ページの一部には鮮やかな赤い実が描かれていて、それにそっくりな果実が目の前に実っていた。

「これ……“サンルージュ”じゃないかしら? 魔素を蓄える果実だって図鑑に書いてあるわ」

「うん。火属性の魔法に反応して発熱する特性があるって……これ、うまく使えば保存食の加熱とかにも使えるかも」

悠馬がその果実を一つそっともぎ取ると、近くにいたシエルが興味深げに鼻を近づけてきた。

「霧狼って、こういう魔素に敏感な生き物なんだろうな」

「クゥン……」

シエルがかすかに鳴くと、ルーファスもそれに応じるように森の奥をじっと見つめた。

「どうした?」

悠馬の問いに、リリーナが少し緊張した面持ちで答えた。

「……なにか、気配がある。あまり敵意は感じないけれど、警戒はしたほうがいいわ」

その瞬間、モカの鳴き声が響いた。

「メェェッ!」

ノアが何かに驚いたように跳ね、その視線の先、森のさらに奥に動く影が見えた。

「ちょっと様子を見てくる」

悠馬は斧を腰に差し、ルーファスとともに慎重に足を進めた。霧が濃くなる森の奥――そこは今まで誰も踏み込まなかった場所だった。

しばらく進むと、目の前の茂みからがさりと音がし、ひょっこりと姿を見せたのは――

「……うさぎ?」

だがそれは、ただのうさぎではなかった。毛並みはふかふかの真っ白で、耳がまるで翼のように広がっており、ほのかに光を放っていた。

「モフウサギ……?」

植物図鑑のページをめくると、そこに似た姿が載っていた。

《光魔素を宿す兎型魔獣。強い癒しの気を持ち、周囲の動植物を穏やかにする》

「すごい……でも、傷ついてる?」

そのモフウサギは足を引きずるようにして動いており、近づいた悠馬の手のひらにすがるように身を預けた。

「リリーナ! ちょっと来てくれ!」

呼びかけに応じてリリーナが駆けつけると、その表情はすぐに優しいものに変わった。

「大丈夫よ。傷は浅いわ、包帯を巻けば治るはず」

彼女がモフウサギを丁寧に抱き上げると、モカとユノも近づいてきて心配そうに見守った。

モフウサギは「ルナ」と名付けられた。

「ねえ、ルナって“月”って意味だったんだよな? この子の光って、月明かりみたいだし」

「うん。ぴったりの名前だと思うわ」

傷の手当てを終えたルナは、ユノと仲良く寄り添いながらすやすやと眠っていた。

「また家族が増えたな……」

「ふふっ、森って、本当に不思議な出会いがたくさんあるのね」

翌朝、ゼムが再び森の入口に現れた。

「ほっほっほ、またひとつ新しい仲間が増えたようじゃな」

「ゼムさん、おかげさまでサンルージュを見つけられたし、新しい魔物とも出会えました!」

悠馬が嬉しそうに報告すると、ゼムは大きく頷いた。

「そりゃ良かった。おぬしらの暮らしは、まるで絵物語のようじゃのう」

「それはゼムさんの支援があってこそですよ。図鑑、ほんとに役に立ちました」

ゼムは袋から取り出した数枚の羊皮紙を悠馬に手渡した。

「これも持って行け。“幻樹”の種と“エルフの涙”という薬草の記録じゃ。もし見つけられれば、大金にもなるぞい」

悠馬とリリーナは顔を見合わせた。

「これからも、森の中を少しずつ開拓していこう。ルナのいる光の場所みたいな、まだ見ぬ秘密がきっとある」

「ええ。森は、私たちにたくさんの出会いと可能性をくれるものね」

その日の夜、悠馬たちは囲炉裏の火を囲んで過ごしていた。ルナはユノとノアに挟まれて眠り、ピコとポコは火を囲んで羽を寄せ合い、ルーファスとシエルはそれを静かに見守っていた。

「……ねえ悠馬」

「ん?」

「私、夢を見たの。まだ見ぬ場所で、新しい命と出会って、そこで私たちが……赤ちゃんを抱いてたの」

「そっか……」

悠馬はリリーナの手をそっと握った。

「いつか、きっと叶うよ。その夢」

夜の静けさに、焚き火のぱちぱちという音と、モフウサギ・ルナの微かな寝息が溶けていった。
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