異世界農家のスローライフ

asahi

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東の森に潜むもの

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朝日が差し込む森の中。悠馬は森の東側を目指して準備を進めていた。
前日にゼムからもらった古い地図には、「光りの泉」と呼ばれる場所が描かれており、その周辺にはまだ誰も足を踏み入れたことがなかった。

「よし、ルーファス、今日も頼むな」

「ウォゥン!」

霧狼シエルも静かに頷き、ピコとポコは羽をばさばさと広げて、森の空気に身を預けた。
今日の探索にはリリーナも同行する予定だったが――

「悠馬……ごめんなさい。今日はちょっと体が重くて……」

「無理しなくていいよ。少し休んでて」

「うん。でも、なんだかお腹のあたりがほんのり温かくて……不思議な感じなの」

その言葉が気になりながらも、悠馬は出発を決意した。

東の森へ向かう道は、これまでの道よりも湿気が多く、地面には苔が広がっていた。
チュンが高い枝の上から見張り役を務め、ユノとルナは悠馬のリュックにおとなしく収まっている。

「こうして見ると、森にもいろんな顔があるな……」

途中、サンルージュとは別の果実を発見したり、鳥の巣を見かけたりと、新たな発見が次々とあった。
だが、しばらく進むと急に空気がひんやりと冷たくなり、霧が濃くなり始めた。

「シエル、霧が出てきたな。大丈夫か?」

シエルは静かに歩を止め、耳を立てた。

「ルーファス……警戒して」

その瞬間、茂みの奥から低いうなり声が響いた。

「グルルル……」

ルーファスが前に出て、悠馬をかばうように立ちはだかる。霧の奥から姿を現したのは――

大きな猫のような魔獣だった。
全身は黒に近い深い紺色の毛並みで、額には光る三日月の模様が浮かび上がっている。瞳は金色に輝き、悠馬たちを鋭く見据えていた。

「……なんだあれ」

植物図鑑にも記されていない魔獣。ルーファスと対峙してもまったく怯えず、威圧感だけが静かに辺りを包む。

「待って、攻撃する様子がない……?」

シエルが一歩前に出ると、その魔獣は悠馬たちに背を向け、ゆっくりと森の奥へ歩いていく。そして、時折振り返りながら、まるで「ついてこい」と言わんばかりに足を止めた。

「……ついて行ってみよう」

猫の魔獣を追って森を進むと、突然視界がひらけた。
そこは大きな池が広がる場所だった。木々の隙間から光が差し込み、池の水面はまるで鏡のように森を映していた。

「ここが……光りの泉……?」

池の中央には小さな島があり、その上には白い花が一面に咲き誇っていた。
そしてその中に、青白く光る石のようなものが浮かんでいた。

「魔石……? いや、これは……」

シエルがその場で伏せ、ルーファスもぴたりと動きを止める。
猫の魔獣は池のふちに座り、その光をじっと見つめていた。

「この石、魔素が濃すぎる……下手に触ったら危ないかも」

近寄ろうとしたそのとき――

「悠馬!!」

声がした。振り返ると、そこにはリリーナが立っていた。息を切らして、でもしっかりと立っていた。

「おい、大丈夫か!? 無理しちゃ――」

「違うの。……私、分かったの」

「え?」

リリーナがそっとお腹に手を当てた。

「……私、赤ちゃんがいるの。きっと間違いないわ」

その瞬間、周囲の光が強くなった。池の中央に浮かぶ石が、一瞬だけ柔らかな光を放ち、森全体に温かさが満ちた。

猫の魔獣は静かに頷くように目を閉じると、そのまま霧の中に姿を消した。

帰り道、悠馬はそっとリリーナの手を握った。

「びっくりしたけど……うれしいよ。本当に、ありがとう」

「ううん、私のほうこそ……悠馬がいてくれて、よかった」

家に戻ると、みんなが二人を迎えてくれた。ピコは高く飛び跳ね、ポコは楽しそうに羽ばたき、モカとノアはそっと近づいて鼻を寄せた。

「リリーナ、おめでとう!」

ゼムの声が響く。すでに帰っていたゼムが、焚き火のそばで笑っていた。

「ほっほっほ、森の祝福を受けたのじゃな。よきこと、よきこと!」

「ゼムさん……!」

「ほれ、これも持って行け。これは“祝福の薬草”じゃ。妊婦にとって何よりの守りとなるぞ」

彼の手には、青紫の花を編み込んだ小さな束が握られていた。

「ありがとうございます……!」

その夜、家の中では祝福の宴が開かれた。
ルナはピコの羽の中で丸まり、チュンはリズムよく囀り、ノアはポコと一緒に遊んでいた。

そして、焚き火の向こうで悠馬とリリーナはそっと寄り添っていた。

「これから、もっとがんばらないとな」

「私も……もっと強くなりたい。家族を守るために」

悠馬は笑って言った。

「その気持ちがあれば、もう十分強いよ」

静かな森の中で、命の芽吹きがまたひとつ、確かに根を下ろしていた――
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