18 / 25
東の森に潜むもの
しおりを挟む
朝日が差し込む森の中。悠馬は森の東側を目指して準備を進めていた。
前日にゼムからもらった古い地図には、「光りの泉」と呼ばれる場所が描かれており、その周辺にはまだ誰も足を踏み入れたことがなかった。
「よし、ルーファス、今日も頼むな」
「ウォゥン!」
霧狼シエルも静かに頷き、ピコとポコは羽をばさばさと広げて、森の空気に身を預けた。
今日の探索にはリリーナも同行する予定だったが――
「悠馬……ごめんなさい。今日はちょっと体が重くて……」
「無理しなくていいよ。少し休んでて」
「うん。でも、なんだかお腹のあたりがほんのり温かくて……不思議な感じなの」
その言葉が気になりながらも、悠馬は出発を決意した。
東の森へ向かう道は、これまでの道よりも湿気が多く、地面には苔が広がっていた。
チュンが高い枝の上から見張り役を務め、ユノとルナは悠馬のリュックにおとなしく収まっている。
「こうして見ると、森にもいろんな顔があるな……」
途中、サンルージュとは別の果実を発見したり、鳥の巣を見かけたりと、新たな発見が次々とあった。
だが、しばらく進むと急に空気がひんやりと冷たくなり、霧が濃くなり始めた。
「シエル、霧が出てきたな。大丈夫か?」
シエルは静かに歩を止め、耳を立てた。
「ルーファス……警戒して」
その瞬間、茂みの奥から低いうなり声が響いた。
「グルルル……」
ルーファスが前に出て、悠馬をかばうように立ちはだかる。霧の奥から姿を現したのは――
大きな猫のような魔獣だった。
全身は黒に近い深い紺色の毛並みで、額には光る三日月の模様が浮かび上がっている。瞳は金色に輝き、悠馬たちを鋭く見据えていた。
「……なんだあれ」
植物図鑑にも記されていない魔獣。ルーファスと対峙してもまったく怯えず、威圧感だけが静かに辺りを包む。
「待って、攻撃する様子がない……?」
シエルが一歩前に出ると、その魔獣は悠馬たちに背を向け、ゆっくりと森の奥へ歩いていく。そして、時折振り返りながら、まるで「ついてこい」と言わんばかりに足を止めた。
「……ついて行ってみよう」
猫の魔獣を追って森を進むと、突然視界がひらけた。
そこは大きな池が広がる場所だった。木々の隙間から光が差し込み、池の水面はまるで鏡のように森を映していた。
「ここが……光りの泉……?」
池の中央には小さな島があり、その上には白い花が一面に咲き誇っていた。
そしてその中に、青白く光る石のようなものが浮かんでいた。
「魔石……? いや、これは……」
シエルがその場で伏せ、ルーファスもぴたりと動きを止める。
猫の魔獣は池のふちに座り、その光をじっと見つめていた。
「この石、魔素が濃すぎる……下手に触ったら危ないかも」
近寄ろうとしたそのとき――
「悠馬!!」
声がした。振り返ると、そこにはリリーナが立っていた。息を切らして、でもしっかりと立っていた。
「おい、大丈夫か!? 無理しちゃ――」
「違うの。……私、分かったの」
「え?」
リリーナがそっとお腹に手を当てた。
「……私、赤ちゃんがいるの。きっと間違いないわ」
その瞬間、周囲の光が強くなった。池の中央に浮かぶ石が、一瞬だけ柔らかな光を放ち、森全体に温かさが満ちた。
猫の魔獣は静かに頷くように目を閉じると、そのまま霧の中に姿を消した。
帰り道、悠馬はそっとリリーナの手を握った。
「びっくりしたけど……うれしいよ。本当に、ありがとう」
「ううん、私のほうこそ……悠馬がいてくれて、よかった」
家に戻ると、みんなが二人を迎えてくれた。ピコは高く飛び跳ね、ポコは楽しそうに羽ばたき、モカとノアはそっと近づいて鼻を寄せた。
「リリーナ、おめでとう!」
ゼムの声が響く。すでに帰っていたゼムが、焚き火のそばで笑っていた。
「ほっほっほ、森の祝福を受けたのじゃな。よきこと、よきこと!」
「ゼムさん……!」
「ほれ、これも持って行け。これは“祝福の薬草”じゃ。妊婦にとって何よりの守りとなるぞ」
彼の手には、青紫の花を編み込んだ小さな束が握られていた。
「ありがとうございます……!」
その夜、家の中では祝福の宴が開かれた。
ルナはピコの羽の中で丸まり、チュンはリズムよく囀り、ノアはポコと一緒に遊んでいた。
そして、焚き火の向こうで悠馬とリリーナはそっと寄り添っていた。
「これから、もっとがんばらないとな」
「私も……もっと強くなりたい。家族を守るために」
悠馬は笑って言った。
「その気持ちがあれば、もう十分強いよ」
静かな森の中で、命の芽吹きがまたひとつ、確かに根を下ろしていた――
前日にゼムからもらった古い地図には、「光りの泉」と呼ばれる場所が描かれており、その周辺にはまだ誰も足を踏み入れたことがなかった。
「よし、ルーファス、今日も頼むな」
「ウォゥン!」
霧狼シエルも静かに頷き、ピコとポコは羽をばさばさと広げて、森の空気に身を預けた。
今日の探索にはリリーナも同行する予定だったが――
「悠馬……ごめんなさい。今日はちょっと体が重くて……」
「無理しなくていいよ。少し休んでて」
「うん。でも、なんだかお腹のあたりがほんのり温かくて……不思議な感じなの」
その言葉が気になりながらも、悠馬は出発を決意した。
東の森へ向かう道は、これまでの道よりも湿気が多く、地面には苔が広がっていた。
チュンが高い枝の上から見張り役を務め、ユノとルナは悠馬のリュックにおとなしく収まっている。
「こうして見ると、森にもいろんな顔があるな……」
途中、サンルージュとは別の果実を発見したり、鳥の巣を見かけたりと、新たな発見が次々とあった。
だが、しばらく進むと急に空気がひんやりと冷たくなり、霧が濃くなり始めた。
「シエル、霧が出てきたな。大丈夫か?」
シエルは静かに歩を止め、耳を立てた。
「ルーファス……警戒して」
その瞬間、茂みの奥から低いうなり声が響いた。
「グルルル……」
ルーファスが前に出て、悠馬をかばうように立ちはだかる。霧の奥から姿を現したのは――
大きな猫のような魔獣だった。
全身は黒に近い深い紺色の毛並みで、額には光る三日月の模様が浮かび上がっている。瞳は金色に輝き、悠馬たちを鋭く見据えていた。
「……なんだあれ」
植物図鑑にも記されていない魔獣。ルーファスと対峙してもまったく怯えず、威圧感だけが静かに辺りを包む。
「待って、攻撃する様子がない……?」
シエルが一歩前に出ると、その魔獣は悠馬たちに背を向け、ゆっくりと森の奥へ歩いていく。そして、時折振り返りながら、まるで「ついてこい」と言わんばかりに足を止めた。
「……ついて行ってみよう」
猫の魔獣を追って森を進むと、突然視界がひらけた。
そこは大きな池が広がる場所だった。木々の隙間から光が差し込み、池の水面はまるで鏡のように森を映していた。
「ここが……光りの泉……?」
池の中央には小さな島があり、その上には白い花が一面に咲き誇っていた。
そしてその中に、青白く光る石のようなものが浮かんでいた。
「魔石……? いや、これは……」
シエルがその場で伏せ、ルーファスもぴたりと動きを止める。
猫の魔獣は池のふちに座り、その光をじっと見つめていた。
「この石、魔素が濃すぎる……下手に触ったら危ないかも」
近寄ろうとしたそのとき――
「悠馬!!」
声がした。振り返ると、そこにはリリーナが立っていた。息を切らして、でもしっかりと立っていた。
「おい、大丈夫か!? 無理しちゃ――」
「違うの。……私、分かったの」
「え?」
リリーナがそっとお腹に手を当てた。
「……私、赤ちゃんがいるの。きっと間違いないわ」
その瞬間、周囲の光が強くなった。池の中央に浮かぶ石が、一瞬だけ柔らかな光を放ち、森全体に温かさが満ちた。
猫の魔獣は静かに頷くように目を閉じると、そのまま霧の中に姿を消した。
帰り道、悠馬はそっとリリーナの手を握った。
「びっくりしたけど……うれしいよ。本当に、ありがとう」
「ううん、私のほうこそ……悠馬がいてくれて、よかった」
家に戻ると、みんなが二人を迎えてくれた。ピコは高く飛び跳ね、ポコは楽しそうに羽ばたき、モカとノアはそっと近づいて鼻を寄せた。
「リリーナ、おめでとう!」
ゼムの声が響く。すでに帰っていたゼムが、焚き火のそばで笑っていた。
「ほっほっほ、森の祝福を受けたのじゃな。よきこと、よきこと!」
「ゼムさん……!」
「ほれ、これも持って行け。これは“祝福の薬草”じゃ。妊婦にとって何よりの守りとなるぞ」
彼の手には、青紫の花を編み込んだ小さな束が握られていた。
「ありがとうございます……!」
その夜、家の中では祝福の宴が開かれた。
ルナはピコの羽の中で丸まり、チュンはリズムよく囀り、ノアはポコと一緒に遊んでいた。
そして、焚き火の向こうで悠馬とリリーナはそっと寄り添っていた。
「これから、もっとがんばらないとな」
「私も……もっと強くなりたい。家族を守るために」
悠馬は笑って言った。
「その気持ちがあれば、もう十分強いよ」
静かな森の中で、命の芽吹きがまたひとつ、確かに根を下ろしていた――
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる