怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#4 浮気調査

#4ー6 最終日

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 金曜日。怜子さんとの契約が切れる日。俺は、一人で樹さんを尾行していた。

 今朝、先生は起こさず、朝食だけを机に置いて来た。先生は、いつも通り遅く起きるだろうが、流石に朝食は欠かさないだろう。
 俺の朝食はと言うと、コンビニで買った総菜パンを、一つ口に放り込んだ。元からあまり食べる方ではないし、俺にとってはこれだけ食えば十分だ。
 樹さんは、この一週間ずっと、ほぼ同じ時間に家を出ている。規則正しい生活は、健康にも良いとはよく言われる事だが、彼はそれを忠実に行っているのだから驚きだ。先生は本当に一回見習え。
 彼は、いつもの駅に降り、少し歩いて会社に向かう。歩きが入ると言っても、まだ時間は早い上、彼は歩くのが早い為、同じ時間に出勤している人は少ない。
 彼が会社に着くと、俺は一旦やる事が無くなる。なので、俺は辺りを散歩する。川沿いでは、犬の散歩をしたりウォーキングをしたりと、色んな人が居る。こないだは、ベンチで寝てる人も居た。逞しい人だ。
 昼も、コンビニの総菜パンを買う。コンビニは偉大だ。これ一つあるだけで生活の利便性が高まる。因みに、先生には朝食と一緒に金も置いておいた。置手紙もあるし、どうせどこかのファストフード店に行くだろう。
 樹さんが会社から出て来る事は無い。彼には、怜子さんからの愛妻弁当が渡されているらしい。ラブラブな夫婦で羨ましい限りだ。
 彼が勤務する会社が定時になった頃、俺はもう一度あの会社に向かう。ここ最近は残業をしていて、会社を出るのも遅くなる事が多かったが、今日は定時ピッタリに会社を出た。
 彼は、少なくとも一周間振りに、早い時間に寄り道せず、家に帰った。
 彼が自宅に着いて少しすると、家の中からあの二人がでてきた。どこかに出かけるのだろうか。一応尾行しよう。小説のネタにできる物があるかも。

 私は、荒木玲子。この間、岩戸探偵事務所に依頼して、夫の樹様が浮気していないかを調査してもらった者です。
 樹様は、ここ最近帰りが遅くなる事が多かったのです。浮気じゃないかと思い、遅くなる理由を聞いたのですが、樹様は『残業』としか答えてもらえず……なんとかこの不安を拭いたいと思った私は、探偵さんを頼る事にしたのです。
 依頼をしに行ったあの日、私は不安で取り乱してしまい、天気を土砂降りの大荒れにしてしまいました。彼等は、泣き喚く私を慰めてくれました。きっとご迷惑をおかけしたので、今度会ったら謝っておきましょう。
 樹様にも、この事を聞かれました。何せあの日は晴れの予報。私に何かあったのではと心配してくださった樹様は、『大丈夫だったか』と聞いてくれました。勿論誤魔化しましたが、少し嬉しかったです。
 そして、私は今、樹様にディナーのお誘いを受けました。何でも、話があると。このタイミングで話とは、とても不安が高まります。もし、離婚を持ち出されたら、私はきっと、この島国を海に沈めてしまいます。とても悲しくなります。
 しかし、お誘いを受けたからには、妻として、しっかり覚悟を決めて臨みます。
 少し話しながら歩いて移動していると、何時の間にか、この辺りの土地神様の神域に入りました。私達のように、妖怪や人から成った者ではなく、最初から神として生を受けた方の神域です。凄いです。
 そこは繁華街のような見た目で、周囲には、私達のような神格持ちの方や、妖怪、中には人間まで居ます。とても賑わっていて、樹様と結婚するまで、田舎の山で暮らしていた私は、目が回ってしまいそうでした。
 それでも、樹様を心配させないようにと、頑張ってついて行くと、大きなホテルが見えてきました。どうやら、今日のお食事はここでするようです。
 そこで出て来たお料理は、味も見た目も良く、とても良い気分になりました。
 そして、料理を食べ終わると、樹様は急に神妙な面持ちになって、家を出る前に言っていた、『話』をなさるようです。
「怜子。話なんだが、君は、今日が何の日か、覚えているかい?」
「はい。私達が出会い、そして、結婚した日です。忘れられる理由がありません」
 樹様は、この答えを聞くと、私から目を逸らすように、外を見ながら、話しました。
「ああ、今日は結婚記念日。私達の人生において、最も祝福されるべき日だ」
 樹様は、毎年この日が訪れると、ささやかながら、とても素晴らしい物をプレゼントしてくださいました。それはもう、満面の笑みで。
 しかし、今年はどうやらいつもと様子が違うようです。いつもなら、結婚記念日は、日常の延長にあるような、そんな物でした。勿論、外食とかではありませんでした。それが、今年はこんなホテルのレストランで、わざわざ『話がある』と仰っています。きっと何かあったのでしょう。
「しかし、今年は特別だ。何故か分かるかい?」
 今年は?一体どういう事でしょう。今年に何かあるのでしょうか。思いつかない私は、「分かりません」と答えました。樹様は、少し肩を落とし、「まあ、私も覚えていない位だ。仕方が無い」と仰っています。
「今年は、節目だ。特別な日にしたかったんだ。結果、長い事残業を繰り返し、君に心配をかけた。済まないと思ってる。だが、今年はいつもと違う。なんせ今年は……」

「私と君が結婚して、丁度百年が経つ年なのだ」

 そうでした。何故忘れてしまっていたのでしょう。たった百年、瞬く間に変わる人間の社会で、たった百年過ごしていただけで、忘れてしまっていました。
「私も忘れていた。だが、友人がその事を思い出させてくれた。百年の節目に、君に愛を伝えたい」
 百年というのは、妖怪にとってあまり長い期間ではありません。神格持ちとなれば尚更です。しかし百年とは、昔から何かの節目として扱われてきました。彼は、その節目の年に、改めて、私に愛を伝えてくれると仰るのです。
 気付けば、外の雲は晴れていました。私は、とても幸せな者です。こんな幸せがあって良いのでしょうか。
 樹様は、懐から一つの、古びた箱を取り出しました。開けてみると、その箱の中には、紫色に輝く、石があります。
紫妖石しようせき。君が昔、『綺麗』と呟いた物だ。あの時と同じ物ではないが、何とか入手した。受け取ってくれ」
「はい……はい……」
 気付けば、私の目からは涙が零れていました。そして樹様は、私の目を見て、こう言いました。

「未来永劫、愛してる」

 私は、自身が世界一の幸せ者であると感じ、頷きました。
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