怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#5 過去との対峙

#5-6 人類の可能性

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 入って直ぐの階段の横の、一番奥の下の方。そこには隠し通路があり、地下室へと繋がっている。
 隠し方も見事な物で、地下室の存在と行き方を知らない人間ならば、この壁紙が剥がれた状態であっても分からないだろう。まだ彼等が生きていた、または死んで直ぐの、壁紙が剥がれていない時であれば、この情報を持っていても分からなくなりそうだ。
 俺達はそのまま隠し通路を通り、秘密の地下室に向かった。
 しかし、途中で足が止まる。
「結界!?」
「ああ。どうやら、敵は相当手強いようだぞ」
 神隠しや、神域とは違う、他者の侵入を防ぎ、外部を完全にシャットアウトする為の、後付けの、術に依る結界。これを使えるのは、結構力のある存在の証とも言える。
 俺達は結界に隙間を作り、そこから侵入する。その後も、何枚か結界が重ねてあったが、隙間を作るだけなら出来るので、俺達は難無く地下室に辿り着いた。
 しかし、そこの光景は、想像していた物は勿論、過去の記憶で見た場所とも違う、どこか近未来的な構造物が多く存在していた。
「何だこれ?」
「多分、怪異の体の一部でしょう。いくら霊力を使わなければ死なないと言っても、これは悪趣味ですね」

「悪趣味とは失礼だなあ」

 その空間にあった物を観察していると、不意に男性の声が聞こえた。
 俺達は、声がする方を向き、少し身構える。すると、白衣と髭が特徴的な男性がでてきた。
「これらの美しさを理解できないなんて、君達は審美眼を磨いた方が良いんじゃないか?」
「正直、これが美しいと思える感性は欲しくないな」
 怪異か?いや、気配が違う。人間だ。人間が何故怪異を保存している?協会に属していないのか?
 彼はそのまま話を続ける。立ち振る舞いや恰好から、とても気味の悪い何かが感じ取れる。
「君達は、何故人間が進化しないのか気にならないのかい?」
 進化?普通進化とは、突然変異や環境への適応に依って促される。ただでさえ短い人間の歴史の中で、生物として大きな変化がある方がおかしい。
 しかし、彼が言っているのは、『人間』の本質についての話だったらしい。
「何故何の生産性も無い争いを続けるのか、何故同じ過ちを繰り返すのか。確かに人間は他の動物よりも知能に優れ、文明の力に依って、生態系の頂点に君臨した。しかし、それは『人間』という種全体の話。個人で見ればどうだ?くだらない争い、諍い、与えられる環境に満足し、考える事を放棄した豚共。人という物の考え方は、石器を使っていたサルの頃から、少しも変化していない!」
 確かに、深刻な問題だ。戦争や内乱と言った、国やグループ単位の争いだけでなく、イジメや嫌がらせ、誹謗中傷。個人から個人に向けられた槍は、数えるのも嫌になるような数程ある。それが減っていないから、彼は怒っているのだろう。
「ならば、どうするべきか。争いを無くす方法を考えたんだ私は。武器を無くす方法は無いか、人間の攻撃的な面を無くすにはどうすれば良いか。考えて考えて考え抜いた結果、私は一つの答えを得た」
 そう言って彼は、自身の後ろに隠れていた、一つの柱状の物を、俺達に見せた。暫くは何か分からなかったが、この暗さに目が慣れてきたのか、『それ』の正体が見えた時、俺は背筋が凍るのを感じた。

 それは、行方不明になった、七海先輩だった。

 立ち尽くし、何も言えないでいる俺達に向かって、彼は話を続けた。
「この世から、人と人の争いを消す方法。それは、『全人類が束になって、ようやく敵う外敵の存在』だ」
 そう言いながら、彼はそのカプセルに抱き着く。
「少なくとも、これで国同士の争いは無くなる。そこから、『協力した』という事実から、個人間の争いも減るだろう。これが、私の考え得る『最善策』だ!」
 何を言っているんだ?人は直ぐには学ばない。『自分達が敵わない』と人々が認識するまでに、どれだけの犠牲が出る事か。それを考えていないのか?それに、もしそんな物があったとして、彼等は本当に手を結ぶだろうか。歴史は重い。それまでに積み重ねた怨嗟は消えない。
 そして、結論だとでも言うように、彼は俺達にカプセルを見せびらかした。
「『ヴェノム』を見た事はあるか?あれと同じさ。人と人ならざる、力を持った『何か』を合成させて、対抗手段の無い存在を作り出す。その完成例がコイツさ!被検体A~Cは、体が未成熟だった為に死んでしまってね。D~Fは体の劣化から、変化の負荷に耐えられなかったのさ。そして七体目。ようやく若い肉体を持った人間が来た!」
 成程。あの村では、若い人間は限られている上、若い人間は、ほぼ全員が退魔師。抵抗されたらどうしようもない。だから、外から来た七海先輩に目を付けたという訳か。
 しかし、どうしてこうなったかを理解した途端、俺は目の前に居る男を殺す為に、考えを巡らせる。
 先ず、奴の実験成果の戦闘能力。全くの未知数。何せ前例が無い事だ。比較も予測もできない。いくら通常兵器で死なないと言っても、退魔師への対策をしなければ無意味だ。それ相応の戦闘能力を有している事が予測される。白金級がやられている事を鑑みると、金剛級はありそうだ。
 次に、奴本体の戦闘能力。ここは弱いだろう。白金級がやられているのは事実だが、こいつの霊力量は少ない。協力な術式を持っていても、精々青銅級程度だろう。そして、奴本体を叩けば、恐らくあの生物兵器も動かないだろう。起動する為の機会が直接取り付けられていないので、恐らく奴がどうこうしないと無理だろう。
「コイツの出来は素晴らしいぞ!既に投入された、戦闘能力を有していた実験体A~Cは殺している上、なんと再生能力まで……」
「いい加減黙れよクソ野郎」
 俺は体に霊力を巡らせ、身体能力を底上げしてから、奴に殴りかかる。
 しかし、これがダメだった。俺は突然横から襲ってきた衝撃をもろに受け、壁に叩きつけられた。どうやら、壁から銃弾のような物が飛んできたらしい。個人が勝手に改造できる域を超過してるぞ。
 俺は痛む体を押さえながら、何とか奴とカプセルの方を向く。
「おいおい説明中だろう?仕方ない。ここからは諸々すっとばして、体験会といこうじゃないか!」
 そして、奴は懐に忍ばせていたスイッチを押し、カプセルの中の『それ』を起動する。
 『それ』は呻き声を上げながら、カプセルから一歩ずつでてくる。

「さあ!『人造生物兵器オオクニヌシ』、お披露目といこう!」
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