怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#5 過去との対峙

#5ー17 起死回生の一手

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 目の前に、かつての『先輩』が立っている。自信に満ち溢れた、憑き物が取れたような顔をして、そこに立っている。
「八神君!腕と足が無くなっちゃってる!大丈夫!?」
「クソ痛い……けど……生きてます」
 そう言うと、七海さんは目の前の敵を見据える。
「じゃあ、後はお姉ちゃんに任せなさい!何でか私、今なら何でもできる気がしちゃうんだ!」
 奴は心底嫌そうな顔をしながら、吐き捨てるように俺達に言った。
「人間如きが……粋がるな」
 そう言うと、奴は七海さんに襲い掛かった。しかし、七海さんはそれを弾き、建物の外まで奴を吹き飛ばした。どうやら、オオクニヌシとしてのパワーは健在らしい。霊力抜きでこの力とは、とんでもないな。
 七海さんは直ぐに建物から出て、奴を追い掛ける。外からは、奴と七海さんの叫び声が聞こえて来る。どうやら二人が戦っているらしい。
 俺は七海さんを追い掛けようとしたが、片手片足が使えないので、立ち上がれもしない。俺は残された四肢で、床を這って進む。片足片手が無いだけで、ここまで動き辛いとは……いや当たり前だけど、こんな経験無いし、考えた事も無かった。
 やっと七海さんがぶち抜いた壁の穴まで辿り着くと、俺は外を見た。七海さんと奴が殴り合っている。一見、七海さんが優勢だが、霊力が使えない七海さんがいくら殴っても、奴を完全に殺し切る事はできない。妖怪は、霊力を使って殺さなければ、いずれまた復活する。
 奴の肉体は七海さんと同化している。希望的観測にはなるが、ここで奴の精神を殺せば、肉体の主導権は七海さんに戻る。そうすれば、面倒な呪いを使う事も、七海さんが暴走する事も無くなる。だが、七海さんは霊力を使えない。やはり、どこかで俺が霊力を使用するしか無い。
「七海さん!」
 俺が名前を叫ぶが、七海さんは反応を示さない。聞こえてないのか?一回外に出なければ。その前に一回、試してみたい事がある。いやまあまさかとは思うが、一応試してみない事には何も無い。
「お……」

「お姉ちゃん」

「何かな八神君!」
 まじかこの人。本当に『お姉ちゃん』に反応するとは思わなかった。どんだけそのキャラに執着してるんだ。
 いや、驚いている場合ではない。さっさと七海さんに霊力を使わせてもらわねば。
「七海さん。重要な話です。『霊力の使用を許可する』と言ってください」
「え?何?ラノベ?」
 違う違うそんなんじゃない。
 待て。一般人からしたら、これが普通の反応だ。ここは落ち着いて、少し強引にでも話を進めねば。
「説明は後です。早く、『霊力の使用を許可する』と……」
「させると思うのか?」
 不味い。奴が来てしまった。どうやら、俺が霊力の使用を七海さんに願っているのに気付いたらしい。いや、そうでなくても、七海さんがこっちに来て、かつ何かに気を取られている状況を逃さないつもりだろう。時間を使い過ぎた。
「八神君に手は出させない!」
「どこまでも忌々しい小娘があ!」
 奴と七海さんは再び外に出る。俺は霊力を使えないまま、その場でそれを呆然と見つめる。俺は何もできないのか。霊力さえあれば、こんな傷があっても動けるのに。あんな敵に負けないのに。一般人の七海さんに、あんな危険な事をさせないのに。
 どうすれば良い。何ができる。俺だけは、さっきと何も変わっていない。何もできない、ただの木偶の坊だ。七海さんが一言。たった一言だけでも、霊力の使用を許可してくれるなら、こんな事にはなってないのに。
 このままでは、持久力で勝てない。七海さんは改造を受けているが、相手は妖怪だ。見た感じ、七海さんは燃費が悪い代わりに身体能力が高い。短期決戦なら勝てるが、奴はそれに気付いている。だから自分に有利な長期戦に持ち込もうとしている。現に、攻撃を防ぎながら逃げている。このままでは駄目だ。いずれ限界が来る。決定打が出せない。駄目だ。霊力さえあれば。
 案外早く、その瞬間は来た。奴の拳は七海さんの体を捉え、七海さんは空中から叩き落とされる。七海さんの体は地面に叩き付けられ、赤い液体が七海さんの口から流れ出る。
「七海さん!」
「八神君!」
 俺が名前を呼ぶのと、七海さんが俺を呼ぶのは、ほぼ同時だった。
 七海さんは俺を方に顔を向けて、俺に一言、声を届ける。
「信じるよ!」
 それを聞いた奴は、七海さんの口を塞ごうと走る。しかし、奴が七海さんに届く前に、七海さんは、俺に許可を下した。

「『霊力の使用を許可する!』」

 瞬間、俺の体の内から、懐かしい力が湧き出て来る。俺は、それが何か、どうやって使うのかを知っている。俺は外れた肩を戻し、片足で立ち上がった。
 そこからは早かった。俺はその片足だけで地面を蹴り、奴目掛けて飛んだ。勿論、奴に避ける術は無い。俺の蹴りは見事に奴の胴に直撃し、自分よりも一回りも二回りも大きい体を叩き伏せた。
 片足だけでバランスを取る事が少し難しいと感じた俺は、奴のデカい腹の上に、堂々と座った。
 そして、俺は奴を見下しながら、思い付く限り最高の煽り文句を言ってやる。
「四肢の内二つを取られた人間に見下される気分は如何かな?」
「小僧おおお……」
 ご自慢のフィジカルが詰まったその体も、こうなってはただの木偶の棒だな。こうはなりたくない物だ。
 俺は奴を見下しながら、ニヤリと笑ってやる。

「さあ、質問……いや、拷問の時間かな?耐えてくれよ?」

 奴の顔は、愉快に歪んだ。
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