怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#5 過去との対峙

#5-22 内通者

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 俺は、倒壊した屋敷に来ていた。証拠があるとするなら、恐らくあの地下室。俺はそのまま、地下室へ向かった。
 瓦礫で埋もれていて、何もできないかと思ったら、丁度人一人分の隙間があった。それも、明らかに誰かが動かした形跡がある。ここに誰かが来ていたのは明白だ。
 俺はそこを通って、地下室へ進む。少し進むと、直ぐに広い所に出た。あの壊れ方で、まさかここまで設備が残っているとは。
「おやおや。金剛級退魔師様が、こんな廃墟に一体何の御用で?」
 不意に、声が聞こえた。声がした方を見ると、やはり、春樹さんが立っていた。
「やっぱアンタだったか。アイツに情報を流した内通者は」
「ご明察。まあ、分かりますよね。あのクソ科学者、少しは隠す素振りをしろと言ったのに……」
 どうやら、仲間と言う程でもないらしい。利害、目的の一致に因る強力関係だろう。
「なんでそこまでペラペラ話せる?この状況で、勝機があるとでも?」
「ああ。金剛級のアンタでも無理な、最後の切り札がな」
 そう言うと、春樹はリモコンを操作して、唯一残っていた巨大なディスプレイに、ニ十分のカウントダウンを始めた。
「このカウントダウンは、この施設に隠していた、最終兵器の軌道までのカウントダウンだ。これが軌道したが最後……」

「この村の住人は、全員オオクニヌシになる」

 馬鹿な。時系列を考えれば、そんな物が作れよう筈も無い。もしそれが本当なら、七海さんがオオクニヌシになってから数日で、その過程を完全にコピーした事になる。そんな事が不可能なのは、学の無い俺でも分かる。
 待て。そう言えばあの科学者は、いくつかの被検体を確保していた。何も七海さんだけが、あの体になった訳じゃない。とすると、考えられる可能性は一つ。
「不完全な状態でオオクニヌシにして、暴れさせるだけ暴れさせてから、全員殺すって算段か!」
「ご名答!さらに、ここに完全なオオクニヌシになる薬がある……」
 奴はそれを飲み込み、薬が入っていた試験官を投げ捨てた。
「ふふふ……金剛級と言っても、白金級の私がオオクニヌシになれば、ニ十分程度の足止めはできる……『岩戸家の天才』も、ここを察知できないよう、結界を張った……」
 成程。奴は俺を倒す必要が無い。そして、ニ十分耐えれば奴の勝ち。俺と先生の二人に勝てる見込みは無くとも、俺一人だけなら勝てるかも知れない。そうなった時、奴にとっての最善手はコレになる。まあ合理的なんだろう。
 しかし、奴は一つ見込み違いをしている。俺は奴の懐に入り、半分異形と化した奴のみぞおちを殴る。霊力を流して強化した体に、霊力を込めて威力を上げた一撃だ。電車を横転させるだけの威力があるらしいこの拳は、当然奴を吹き飛ばした。
「俺は強い。お前が考えてる百倍強い。だから、負けない」
 奴は壁に叩き付けられ、土煙が舞う。あの科学者にも、一応は効いていた。コイツには効かないかも知れないが、牽制にはなるだろうか。
 奴は土煙から出て来た。そして、高笑いした。
「ハハハハハ!まるで痛くない!金剛級の一撃でさえ、今の私には効かない!これで、私は全てを手に入れられる!」
 まあ、こうなるだろうなとは思っていた。科学者とは素体が違う。アッチは雑魚だが、こっちは白金級だ。元が良ければ、それだけ変化した後も良くなる。
 しかし、『全てを手に入れる』とは大きく出たな。俺と先生を別々に相手しようとしてる癖に。
「貴様にようやく復讐できる!何年も何年も努力しても手に入らなかった物を全てかっさらって行った貴様に!金剛級の地位を手に入れる為、私がどれだけの事をしたか!」
「知るかそんな物」
 全く。それだけの動機で、よくぞここまでやれた物だ。その情熱を活かせば、金剛級にも成れたかも知れないのに。まあ、目の前で欲しかった物を盗られるのは、かなりキツイ物だ。やる気も失せるわな。
 だからと言って、今回のは看過できない。俺は奴に向かって、堂々と中指を立ててやる。
「そんな事言ってる暇あんなら脳トレしやがれ!その面倒臭えおつむも少しはマシになるだろうよ!」
 奴は怒ったのか、額に血管を浮かばせた。
「黙れよ小童があ!貴様に私を殺せる訳が無いだろうがあ!そういう事は私を殺してから言いやがれえ!」
「上等だクソ野郎!先生に危害加えようって奴が、明日の朝日拝めると思うなあ!」
 奴と俺は同時に前へ踏み出し、拘束で拳を合わせた。生まれた衝撃は、この地下に張り巡らされた結界に吸われて、建物へ負荷は掛からないようだった。この建物を壊せれば、先生も流石に気付くと考えてたのに。残念だ。
 俺は奴の拳をいなしながら、隙を見て急所を叩く。しかし、奴は効いている素振りを見せない。お互いに攻撃が決まらず、膠着状態が続いた。
 大きな隙ができた一瞬で、俺は奴の顔面を、可能な限り全力で殴る。これは流石に効いたらしく、奴は体制を崩した。
「小細工しかできんのか小童!」
「その小細工すら破れない癖によく言うぜ!」
 俺達はお互いに距離を取って、術式の勝負に移る。俺は原稿用紙と万年筆を構え、奴は体の周りに炎を出現させた。事前に渡されていた情報には、『炎を操る術式』と書かれていた。
 俺は原稿用紙に霊力を込め、奴に投げ付ける。奴は炎でそれを相殺しようとするが、何枚かは奴の体を切り裂いた。直ぐに傷は消えたが、体力は消費するだろう。しかし、奴の体力が切れる前に、原稿用紙が無くなる。どうにか、逆転できる手を探さねば。

 タイムリミットまで、後十六分。
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