61 / 169
#5 過去との対峙
箸休め 『お姉ちゃん』と『後輩』
しおりを挟む
私が八神君と会ったのは、もう四年も前になる。八神君が私と同じバイトの場所に来たのが最初。身形を意識して整えて、でもやっぱりお金が無いみたいな、そんな感じの印象だった。
八神君のイメージは、『顔が良くて』『無愛想』。バイト仲間ともつるまないし、シフトが終わったら直ぐに帰る。『自分は一人でも十分だ』という余裕とも、『そんな時間は無い』という焦りにも見えた。
私は八神君を知りたくて、仲良くなろうとした。私が笑ったら、パパもママも笑ってくれた。クラスの皆もそうだった。チヤホヤされたとかじゃないけど、少なくともその一時は、平和になった。
「こんにちは八神君!良ければこの後、一緒に出掛けない?」
「先約があるので、遠慮します」
即答だった。ショックだった。そんなに私の事が嫌いか。
その後も、何度か外出に誘っては断られ、ついでに塩対応を受けるというやり取りを続けた。話し掛けている内に段々と……みたいな事も無くて、『事実は小説よりも奇なり』という言葉は、ごく一場面にしか使われない事を実感した。
私はある日、毎日言っている『先約』が何なのかを知る為に、彼を尾行した。その日も「先約があるので」と言って断られた日だった。
ただ、何も無かった。何事も無いただの友人付き合いとか、家族との団欒とか、そんな事じゃなく、本当に何も無かった。真っ直ぐボロいアパートに帰って、その後は一度、近くの川に向かっただけ。川で何をしていたかは知らない。見えなかった。
何も無い。なのに来ない。これはもう、ただ単に行きたくないという意思の表れである。そう考えた私は、なんとかして八神君をその気にさせる為に、ほぼ毎日と言って良い程、彼に話し掛けた。態度は変わらなかった。
「合コン行かない?」
「先約があるので」
「買い物付き合って!君荷物持ちね!」
「先約があるので」
「水着選んで!」
「先約があるので」
途中からもう、殆ど色仕掛けみたいな事をしだしたけど、それでも八神君は変わらなかった。
私は八神君と居る時、自分を『お姉さん』と呼んだ。意味は無い。先輩面したかっただけ。年上だと意識させたかっただけ。たったそれだけ。
私は、自分が八神君のタイプじゃないのではと思い、好みの女性像を聞いた。ただ、返って来たのは以外な解答だった。
「金があって、節約できて、後贅沢を言わない人」
なんと彼、ヒモ志望だった。この時の私はそう解釈し、勝手にちょっと引いた。顔が良いのを自覚してるなコイツとか、結構失礼な事を考えた。ゴメン。
そんな私達の関係に変化が生じたのが、八神君が私と同じバイトを始めてから、丁度一年経った頃だった。
八神君が居ない違和感を抱えた私は、店長に事情を聞いた。
「ああ彼?昨日辞めたよ。なんでも、諸々の事情で引っ越しするとか」
私はそれを聞くと同時に、とても不安になった。店長が何か言っていたような気がするけど、全く覚えていない。
八神君に何かあったんじゃないかと思った私は、取り敢えず同じバイト先の子に話を聞く事にした。
「顔が良くて眼福だった」「居なくなって悲しい」「こんな事なら押し倒してたら良かった」
オイ最後の子。オイ。いやまあ同感ではあるけども。
そんなこんなで、皆に聞き込みを続けていると、案外早く進展があった。それは、ここでバイトをしている中でも、若干ヤンチャな子達に話を聞いた時だった。
「八神?アイツなら、俺の知り合いにシメられてましたよ」
その子に詳しく話を聞くと、どうやら、『七海に話し掛けられて調子乗ってる』みたいな感じの難癖を付けられて、バイト終わりに、時々私刑に遭っていたそうだ。
私のせいだ。私が話し掛け続けたから。恨んでいるだろうか。謝らせてほしい。どうしよう。悲しい。どうすれば良いんだろう。どこに居るんだろう。会いたい。一回だけで良い。偶然でも良い。会いたい。
私はそれから、八神君の居場所を探す為に、様々な事をした。ネット上に写真は上がっていないかとか、誰か知っている人は居ないか。勿論、以前尾行したあの家にも行ったが、誰も居なかった。当たり前かも知れないが、もしかしたら大学に行く為に引っ越したのかもとか思ったんだ。
結論から言うと、私はここまでの三年以上、八神君の住所を知る事ができなかった。私は諦めの境地で、若干遠くの町を歩いていた。
その時、奇跡とも言える事は起きた。
「八神くん、次はどこへ行く?」
「もう食べれないですよ先生」
私は彼の声を聞いた。すぐさま声の方向を向くと、そこにはかなり様変わりした、それでも見間違える訳の無い、八神君の姿があった。
私は八神君に声を掛けようとして、そこで足を止めた。女性が居る。どう見ても中学生だけど、確かに女の子だ。『先生』と呼んでいるのはよく分からないけど、話し掛けるのを躊躇った。
私は話し掛けられもしないのに、二人を追い掛けた。どうやら外食帰りのようで、二人は電車に乗って、どこかへ帰って行った。
時々見失いそうになりながら着いた先は、どうやら事務所のようだった。『岩戸探偵事務所』とある。ここで働いているのだろうか。私は住所をメモしてから、自分の家に帰った。
家に着いた私は、様々な疑問と、喜びに悶えていた。どうして急に居なくなったんだろう。あの子は誰なんだろう。でも、会えた。やっと会えた。どうしよう。
私は答えも出せないまま、頭の中を疑問で埋め尽くした。気持ち悪くなって来た所で、私はベッドから降りて、自分でもよく分からない何かを吐き出した。
明日、会いに行こう。それだけを決めた私は、嫌にスッキリした頭のまま眠った。
翌日、会いに行った時、君はとても驚いた顔をしてたね。迷惑だったかな。ごめんね。
でも、なんだかんだで受け入れてくれたよね。嬉しかった。
あの一件で、私の体は、結構違う何かになっちゃったんだと思う。色々な事が分かるし、色々な事ができるようになった。
けど、私は八神君の『お姉ちゃん』だから、君をずっと見ていたい。これから先の事を、見てみたい。
だから、私はこの日常を、絶対に手放したくないんだ。
八神君のイメージは、『顔が良くて』『無愛想』。バイト仲間ともつるまないし、シフトが終わったら直ぐに帰る。『自分は一人でも十分だ』という余裕とも、『そんな時間は無い』という焦りにも見えた。
私は八神君を知りたくて、仲良くなろうとした。私が笑ったら、パパもママも笑ってくれた。クラスの皆もそうだった。チヤホヤされたとかじゃないけど、少なくともその一時は、平和になった。
「こんにちは八神君!良ければこの後、一緒に出掛けない?」
「先約があるので、遠慮します」
即答だった。ショックだった。そんなに私の事が嫌いか。
その後も、何度か外出に誘っては断られ、ついでに塩対応を受けるというやり取りを続けた。話し掛けている内に段々と……みたいな事も無くて、『事実は小説よりも奇なり』という言葉は、ごく一場面にしか使われない事を実感した。
私はある日、毎日言っている『先約』が何なのかを知る為に、彼を尾行した。その日も「先約があるので」と言って断られた日だった。
ただ、何も無かった。何事も無いただの友人付き合いとか、家族との団欒とか、そんな事じゃなく、本当に何も無かった。真っ直ぐボロいアパートに帰って、その後は一度、近くの川に向かっただけ。川で何をしていたかは知らない。見えなかった。
何も無い。なのに来ない。これはもう、ただ単に行きたくないという意思の表れである。そう考えた私は、なんとかして八神君をその気にさせる為に、ほぼ毎日と言って良い程、彼に話し掛けた。態度は変わらなかった。
「合コン行かない?」
「先約があるので」
「買い物付き合って!君荷物持ちね!」
「先約があるので」
「水着選んで!」
「先約があるので」
途中からもう、殆ど色仕掛けみたいな事をしだしたけど、それでも八神君は変わらなかった。
私は八神君と居る時、自分を『お姉さん』と呼んだ。意味は無い。先輩面したかっただけ。年上だと意識させたかっただけ。たったそれだけ。
私は、自分が八神君のタイプじゃないのではと思い、好みの女性像を聞いた。ただ、返って来たのは以外な解答だった。
「金があって、節約できて、後贅沢を言わない人」
なんと彼、ヒモ志望だった。この時の私はそう解釈し、勝手にちょっと引いた。顔が良いのを自覚してるなコイツとか、結構失礼な事を考えた。ゴメン。
そんな私達の関係に変化が生じたのが、八神君が私と同じバイトを始めてから、丁度一年経った頃だった。
八神君が居ない違和感を抱えた私は、店長に事情を聞いた。
「ああ彼?昨日辞めたよ。なんでも、諸々の事情で引っ越しするとか」
私はそれを聞くと同時に、とても不安になった。店長が何か言っていたような気がするけど、全く覚えていない。
八神君に何かあったんじゃないかと思った私は、取り敢えず同じバイト先の子に話を聞く事にした。
「顔が良くて眼福だった」「居なくなって悲しい」「こんな事なら押し倒してたら良かった」
オイ最後の子。オイ。いやまあ同感ではあるけども。
そんなこんなで、皆に聞き込みを続けていると、案外早く進展があった。それは、ここでバイトをしている中でも、若干ヤンチャな子達に話を聞いた時だった。
「八神?アイツなら、俺の知り合いにシメられてましたよ」
その子に詳しく話を聞くと、どうやら、『七海に話し掛けられて調子乗ってる』みたいな感じの難癖を付けられて、バイト終わりに、時々私刑に遭っていたそうだ。
私のせいだ。私が話し掛け続けたから。恨んでいるだろうか。謝らせてほしい。どうしよう。悲しい。どうすれば良いんだろう。どこに居るんだろう。会いたい。一回だけで良い。偶然でも良い。会いたい。
私はそれから、八神君の居場所を探す為に、様々な事をした。ネット上に写真は上がっていないかとか、誰か知っている人は居ないか。勿論、以前尾行したあの家にも行ったが、誰も居なかった。当たり前かも知れないが、もしかしたら大学に行く為に引っ越したのかもとか思ったんだ。
結論から言うと、私はここまでの三年以上、八神君の住所を知る事ができなかった。私は諦めの境地で、若干遠くの町を歩いていた。
その時、奇跡とも言える事は起きた。
「八神くん、次はどこへ行く?」
「もう食べれないですよ先生」
私は彼の声を聞いた。すぐさま声の方向を向くと、そこにはかなり様変わりした、それでも見間違える訳の無い、八神君の姿があった。
私は八神君に声を掛けようとして、そこで足を止めた。女性が居る。どう見ても中学生だけど、確かに女の子だ。『先生』と呼んでいるのはよく分からないけど、話し掛けるのを躊躇った。
私は話し掛けられもしないのに、二人を追い掛けた。どうやら外食帰りのようで、二人は電車に乗って、どこかへ帰って行った。
時々見失いそうになりながら着いた先は、どうやら事務所のようだった。『岩戸探偵事務所』とある。ここで働いているのだろうか。私は住所をメモしてから、自分の家に帰った。
家に着いた私は、様々な疑問と、喜びに悶えていた。どうして急に居なくなったんだろう。あの子は誰なんだろう。でも、会えた。やっと会えた。どうしよう。
私は答えも出せないまま、頭の中を疑問で埋め尽くした。気持ち悪くなって来た所で、私はベッドから降りて、自分でもよく分からない何かを吐き出した。
明日、会いに行こう。それだけを決めた私は、嫌にスッキリした頭のまま眠った。
翌日、会いに行った時、君はとても驚いた顔をしてたね。迷惑だったかな。ごめんね。
でも、なんだかんだで受け入れてくれたよね。嬉しかった。
あの一件で、私の体は、結構違う何かになっちゃったんだと思う。色々な事が分かるし、色々な事ができるようになった。
けど、私は八神君の『お姉ちゃん』だから、君をずっと見ていたい。これから先の事を、見てみたい。
だから、私はこの日常を、絶対に手放したくないんだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
新しい家族は保護犬きーちゃん
ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝🐶初めて保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。
過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。
初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃん
がもたらす至福の日々。
◇
✴️保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾
✴️日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾
✴️🐶挿絵画像入りです。
✴️拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇♀️
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
黄泉津役所
浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。
だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。
一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。
ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。
一体何をさせられるのか……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる