怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#5 過去との対峙

箸休め 『お姉ちゃん』と『後輩』

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 私が八神君と会ったのは、もう四年も前になる。八神君が私と同じバイトの場所に来たのが最初。身形を意識して整えて、でもやっぱりお金が無いみたいな、そんな感じの印象だった。
 八神君のイメージは、『顔が良くて』『無愛想』。バイト仲間ともつるまないし、シフトが終わったら直ぐに帰る。『自分は一人でも十分だ』という余裕とも、『そんな時間は無い』という焦りにも見えた。
 私は八神君を知りたくて、仲良くなろうとした。私が笑ったら、パパもママも笑ってくれた。クラスの皆もそうだった。チヤホヤされたとかじゃないけど、少なくともその一時は、平和になった。
「こんにちは八神君!良ければこの後、一緒に出掛けない?」
「先約があるので、遠慮します」
 即答だった。ショックだった。そんなに私の事が嫌いか。
 その後も、何度か外出に誘っては断られ、ついでに塩対応を受けるというやり取りを続けた。話し掛けている内に段々と……みたいな事も無くて、『事実は小説よりも奇なり』という言葉は、ごく一場面にしか使われない事を実感した。
 私はある日、毎日言っている『先約』が何なのかを知る為に、彼を尾行した。その日も「先約があるので」と言って断られた日だった。
 ただ、何も無かった。何事も無いただの友人付き合いとか、家族との団欒とか、そんな事じゃなく、本当に何も無かった。真っ直ぐボロいアパートに帰って、その後は一度、近くの川に向かっただけ。川で何をしていたかは知らない。見えなかった。
 何も無い。なのに来ない。これはもう、ただ単に行きたくないという意思の表れである。そう考えた私は、なんとかして八神君をその気にさせる為に、ほぼ毎日と言って良い程、彼に話し掛けた。態度は変わらなかった。
「合コン行かない?」
「先約があるので」
「買い物付き合って!君荷物持ちね!」
「先約があるので」
「水着選んで!」
「先約があるので」
 途中からもう、殆ど色仕掛けみたいな事をしだしたけど、それでも八神君は変わらなかった。
 私は八神君と居る時、自分を『お姉さん』と呼んだ。意味は無い。先輩面したかっただけ。年上だと意識させたかっただけ。たったそれだけ。
 私は、自分が八神君のタイプじゃないのではと思い、好みの女性像を聞いた。ただ、返って来たのは以外な解答だった。
「金があって、節約できて、後贅沢を言わない人」
 なんと彼、ヒモ志望だった。この時の私はそう解釈し、勝手にちょっと引いた。顔が良いのを自覚してるなコイツとか、結構失礼な事を考えた。ゴメン。

 そんな私達の関係に変化が生じたのが、八神君が私と同じバイトを始めてから、丁度一年経った頃だった。

 八神君が居ない違和感を抱えた私は、店長に事情を聞いた。
「ああ彼?昨日辞めたよ。なんでも、諸々の事情で引っ越しするとか」
 私はそれを聞くと同時に、とても不安になった。店長が何か言っていたような気がするけど、全く覚えていない。
 八神君に何かあったんじゃないかと思った私は、取り敢えず同じバイト先の子に話を聞く事にした。
「顔が良くて眼福だった」「居なくなって悲しい」「こんな事なら押し倒してたら良かった」
 オイ最後の子。オイ。いやまあ同感ではあるけども。
 そんなこんなで、皆に聞き込みを続けていると、案外早く進展があった。それは、ここでバイトをしている中でも、若干ヤンチャな子達に話を聞いた時だった。
「八神?アイツなら、俺の知り合いにシメられてましたよ」
 その子に詳しく話を聞くと、どうやら、『七海に話し掛けられて調子乗ってる』みたいな感じの難癖を付けられて、バイト終わりに、時々私刑に遭っていたそうだ。
 私のせいだ。私が話し掛け続けたから。恨んでいるだろうか。謝らせてほしい。どうしよう。悲しい。どうすれば良いんだろう。どこに居るんだろう。会いたい。一回だけで良い。偶然でも良い。会いたい。
 私はそれから、八神君の居場所を探す為に、様々な事をした。ネット上に写真は上がっていないかとか、誰か知っている人は居ないか。勿論、以前尾行したあの家にも行ったが、誰も居なかった。当たり前かも知れないが、もしかしたら大学に行く為に引っ越したのかもとか思ったんだ。
 結論から言うと、私はここまでの三年以上、八神君の住所を知る事ができなかった。私は諦めの境地で、若干遠くの町を歩いていた。

 その時、奇跡とも言える事は起きた。

「八神くん、次はどこへ行く?」
「もう食べれないですよ先生」
 私は彼の声を聞いた。すぐさま声の方向を向くと、そこにはかなり様変わりした、それでも見間違える訳の無い、八神君の姿があった。
 私は八神君に声を掛けようとして、そこで足を止めた。女性が居る。どう見ても中学生だけど、確かに女の子だ。『先生』と呼んでいるのはよく分からないけど、話し掛けるのを躊躇った。
 私は話し掛けられもしないのに、二人を追い掛けた。どうやら外食帰りのようで、二人は電車に乗って、どこかへ帰って行った。
 時々見失いそうになりながら着いた先は、どうやら事務所のようだった。『岩戸探偵事務所』とある。ここで働いているのだろうか。私は住所をメモしてから、自分の家に帰った。

 家に着いた私は、様々な疑問と、喜びに悶えていた。どうして急に居なくなったんだろう。あの子は誰なんだろう。でも、会えた。やっと会えた。どうしよう。
 私は答えも出せないまま、頭の中を疑問で埋め尽くした。気持ち悪くなって来た所で、私はベッドから降りて、自分でもよく分からない何かを吐き出した。
 明日、会いに行こう。それだけを決めた私は、嫌にスッキリした頭のまま眠った。

 翌日、会いに行った時、君はとても驚いた顔をしてたね。迷惑だったかな。ごめんね。

 でも、なんだかんだで受け入れてくれたよね。嬉しかった。
 
 あの一件で、私の体は、結構違う何かになっちゃったんだと思う。色々な事が分かるし、色々な事ができるようになった。

 けど、私は八神君の『お姉ちゃん』だから、君をずっと見ていたい。これから先の事を、見てみたい。

 だから、私はこの日常を、絶対に手放したくないんだ。
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