怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#6 存在してはいけない駅

#6ー4 暇潰し

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 あれからという物、義明君は律儀に、毎日七海さんを迎えに来ている。それも、約束の時間と、一分の誤差も無く。
 幸いな事に、二人は気が合うようだった。初対面の時こそ気まずそうだったが、帰って来る頃には、もう仲良さそうに話していた。戦闘面での相性も良いらしく、良いコンビになりそうだ。
 そして、俺と先生はと言うと、少し手合わせする事が多くなった。俺は以前の一件で、自分の力不足を痛感した。素手での殴り合いという点において、俺は恐らく、金剛級の中でも下の方だ。俺は術式を絡めた戦い方が主軸だが、殴り合いを強要される状況に置かれても、確実に勝てるようにもしないといけない。浩太さんや修司くん、或いは別の近接主体の金剛級と手合わせできれば良いのだが、彼らは今忙しいらしい。
 因みに今も、俺と先生は殴り合いをしている。
「やはり威力が難点か!?」
「霊力の出力は十分……流し方か?」
 俺と先生の違いは、戦闘経験は勿論そうだろうが、霊力操作の細かさにある。俺は常に全身に霊力を流し、全身に霊力を纏わせるような使い方をするが、先生は必要な部分にだけ霊力を流し、使う時にだけ霊力を纏わせている。こうする事で、燃費を良くした状態で、最大限の威力が出せる。
 なら俺もそうすれば良いという話なのだが、それが簡単ではないのだ。霊力の細かい操作には、かなりの集中力が要る。それを行いつつ、更に必要な部分の判断、相手の行動の予測など、様々な事をやっていては、頭がパンクする。霊力を纏うのは、ミスれば俺でも霊力を消費する。先ずは一つを確実にやれるようにならねば。
「前よりも部位を絞れてはいるが、まだ遅いな」
「ですよね。一歩前進……とすら言えません」
 先生は「そう落ち込むな八神くん!」と言って俺を励まし、ついでに昼食の催促をする。
「やはり筋肉を付けた方が良いんじゃないか?影響はあると思うぞ」
「前にも試しましたけど、そもそも食べられないんじゃ、肉の付けようが無いですね。俺のこの筋肉も、霊力の強化でそれっぽく見えるだけですし」
 そんな事を話していると、玄関のチャイムが鳴った。どうやら帰って来たらしい。
「ただいまー!」
「お帰りなさい。義明君もお疲れ」
「ははは。これ位なら大丈夫ですよ」
 今日は怪異の殲滅だったか。この二人なら、大して時間も掛からなかっただろう。だがまあ、二人は俺と違って、霊力で体を強化すれば、しっかり霊力は減る。しっかり労るべきだ。
「お姉ちゃんの分のお昼もできてますよ。そうだ。義明君もどうかな?」
「滅相も無い!」
「そう言わないでよ義明君。八神君のご飯、美味しいよ」
 最初は断ろうとしていた義明君だったが、七海さんの押しに負けてしまったのか、最後は「じゃあ、頂きます」と言ってくれた。
 どうやら相当空腹だったらしい義明君は、先生と遜色無い量のご飯を、易々と平らげてしまった。いや普通に作ってあったから良かったけど、まさかここまでとは。
「すみません。最近任務続きで……」
「構わないよ。疲れている時は休むのが一番だ。忙しいのは分かるが、自身を蔑ろにしては意味が無い」
 昼食を食べ終わった義明君は、「これ位はやらせてください」と、自分から皿洗いを申し出た。あんな傲慢だった義明君が、今では立派に白金級の退魔師としてやって行けている事が嬉しいよ。
 それも終わった義明君は、どうやら予定があるらしく、さっさと帰ってしまった。まあ、彼なりに色々やる事があるのだろう。止めはしない。
 昼下がり。俺はやる事を済ませてから、先生と手合わせをする。細かい霊力の操作は、ここに来てからずっと練習している事でもあるが、未だに上手く行かない。俺は先生に一撃も当てられなまま、お互い疲れ果てるまで戦い続けた。
「う~ん……移動する時足だけってのを、無意識でできるようになるまで続けるかな」
「私も基本、体が覚えるまで反復するのを繰り返してたしな。結局、それが一番手っ取り早い」
 日常生活からやってみようかな。俺の体質なら、無限に練習を続けられる。
 二時辺りで、七海さんは再び外に出る。協会に張り出されている案件を、片っ端からこなしているらしい。それも実質単独で。白金級以上の案件は受けないように言っているが、それでも凄い事だ。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気を付けるんだぞ!」
 ここ最近は、ずっとこの繰り返しだ。特別行動班加入試験まで、後一週間。七海さんに実戦経験を積んでもらうのを兼ねた、暇潰しだ。
 起きる。朝食を作る。手合わせする。昼食を作る。ブログ、投稿している小説の更新。また手合わせ。夕食を作る。時々協会や岩戸家の仕事をこなす。そうしていると、一週間とは案外早く過ぎ去る物で、七海さんの特別行動班加入試験が、遂に明日まで迫っていた。
「で、かつ丼と」
「ウチではこれが恒例なんだ。ていうか、こういう時以外だと、あまりかつ丼は食べないな」
「普段から作りませんしね。丼ものは旨いですけど、俺あんま食えませんし」
 俺達は手を合わせ、「いただきます」と言って、かつ丼を食べ始めた。うん。しっかりできてる。一切れとそれに対応する量の米なら、俺でもなんとか食える。たまにの贅沢だ。
「最近思ったんだけどさ、協会が言う『神秘学』って、一般で言うのと違う意味で使われてるんだね」
「その辺りは俺も曖昧なんですよね。確か『我々にとっての神秘とは、通常の感覚で認知できる物だから』とかなんとか……」
「私も気にした事無かったな。大した問題じゃないと思ってるし」
 他愛も無い話を続けながら、俺達は夕食を食べる。やはり米は良い。なんか落ち着く。
 夜も更けて行き、月が真上に上がる頃。俺は空を眺めながら、今までの事を少し懐かしんでいた。普段ならこんな事も無いのだが、今日はそういう気分だった。七海さんと会った時、先生と出会う前、後の事、それから今に至るまでの道のり。思い返すと、自然と力が湧いて来る。
 明日は朝早くから七海さんの試験だ。俺も早く起きなければ。俺はそんな事を考えながら、自室に戻った。
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