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#6 存在してはいけない駅
#6ー8 お遊戯
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『だるまさんが転んだ』。きっと日本に住む誰もが、このゲームをした事があるだろう。しかし、それは子供の時の話で、大人になってもやっているという人は少ないだろう。
だが、今俺は、紛れも無い『だるまさんが転んだ』をしている。そう、今年で二十一になるこの俺は、小さな子供と『だるまさんが転んだ』をしているのだ。
だが、これは決して楽しい物ではない。もし負けたら、こけしとして永久保存されるのだ。捨てられる可能性もある。これも仕事。我慢だ。羞恥心とか一旦忘れろ。
「だるまさんがころんだ」
この子供は人間ではない。それは先程の光景を見れば明らかな物だが、問題は『何なのか』である。正直、ゲームで負けた相手を玩具にする怪異とか、全く聞いた事が無い。それに、少し様子を見て感じたのだが、怪異や霊とは、コイツは若干違いがある。印象の話になるが、どちらかと言うと、神や神格を得た妖怪のような雰囲気だ。
だが、それはこれが終わった後問い詰めれば良い話だ。もし神の類なら、対話位できる筈だ。今はなんとかミスらないように、このゲームをクリアすれば良い話だ。
コイツはそこそこ、色んな手を使って来る。緩急を付けたり、早口で言ったり、まあ面倒臭い。そりゃ負けたくないだろうし、多少の工夫は当たり前だとは思うが、それでも長引くのは少し、まあ、恥ずかしい。いや誰に見られるとかじゃないんだけどさ。
まあ、大した工夫でもない。俺は少しずつ確実に進む事にした。そうすれば、案外早く終わった。俺は子供の背中に触れた。
「これで、俺の勝ちかな?」
「わ!負けちゃった!お兄ちゃん強いね!」
うん。これで良かったようだ。これで一件落着だと良いんだがな。
「負けちゃったから、お姉ちゃん達は一回、元に戻すね」
そう言って、子供は大量のこけしを、俺に差し出して来た。それを地面に立てると、こけしは煙を立てて、人の形に戻った。
「うわあ!って、あれ?」「どうなってるの?」
どうやら、こけしにされていた人の状態は、こけしになる直前で固定されていたらしい。これなら、依頼人の娘さんも無事だ。
ん?待て。直前で固定という事は、慣性の法則みたいな事もあり得る。そして、先生と七海さんはあの子供に殴り掛かろうとしていた為、勢いもある。それも相当な。もしそれが一般人に当たったら……
しかし、その心配は杞憂に終わった。何故なら、七海さんと先生がぶつかった相手は、一般人ではなく俺だったからだ。
「ぐはあっ!?」
「わっ!ゴメン八神君!」
「これは……どういう状況だ?」
うん。俺の腕が持って行かれそうになっただけで、一般人への被害は無い。良かった良かった。
俺は今の状況を飲み込めていない二人に、現在に至るまでの状況を説明した。
「……なら、あの子供に色々聞こう。もし会話できたら、この場に居る全員を無事に帰してくれるかも知れない」
「それが一番早いですよね。この状況を見るに、危害を加える性質は無さそうです」
「うう……悔しい……」
悔しがる七海さんを無視して、俺と先生はあの子供の所へ向かう。先生が話し掛けようとした瞬間、子供は手を挙げて、空に巨大な時計を出現させた。
「次のゲームが始まるって事かな?」
「そうだよ。次は『おにごっこ』。一分数えるから、皆逃げて!」
そう子供が宣言すると、空の時計の針が動き始めた。時計の針が一周するまで、自由に逃げて良いらしい。
「皆さん!少し聞いてください!これから鬼ごっこが始まります!迷子にならないように逃げてください!」
俺が周囲の人間にそう説明すると、やけに古風な、と言うか、侍の恰好をした男が、一歩前に出た。
「待て貴様!一体どういう事か説明してもらおうか!」
成程。見た感じ、本物の侍らしい。まあ、侍が居た時代からあった神隠しだろうし、居たとしても不思議じゃないか。
だが、言い争っている暇は無い。一人でも残ればクリアだが、全員逃げきれないリスクもあるのだ。他の人はもう行ったから良いが、さっさと逃げてもらわないと。
「あ~まあ簡単に説明すると、あの子供の遊びに付き合ってもらいます。あの子供から、暫く逃げ続ければ勝ち。捕まったら負けです」
「だから何故そうしなければならないのかと聞いている!叩き切るぞ!」
この老害が。さっさと逃げれば良い物を。面倒だし置いて行くか。俺は「まあご自由に」とだけ言って、先生達の所に行った。
「さ、行きましょう」
「ああ」
「もう二十秒過ぎてるし、急がなきゃね」
俺達は騒ぐ侍を置いて、田んぼの方へ走り出した。俺達は一応、子供をギリギリ視認できる場所まで進んで、そこで開始を待つ事にした。
「どうするんだ?逃げると言っても、一応現在位置を確認できるものが無いとキツイぞ。ただでさえ何も無いのに」
「鬼ごっこだし、あの子からギリギリの所で逃げ続ければ……」
「あの子供の身体能力が分からない以上、多少距離を取った方が良いでしょうね。残れる確率は増やしたいです」
そうこう話している内に、上空の時計が鐘のような音を発した。スタートの合図だろう。子供は適当な方向に歩き出した。時計の針が三つに増えているのを見るに、逃げ続ける時間は一時間といった所か。
「八神くん、駅の方角は分かるかい?」
「分かりますよ。でも、今確認すると奴に勘付かれます」
俺の言葉に、先生は少し考える素振りをした。十秒程でその体制を解いた先生は、俺の方を見て笑った。
「じゃあ、やっちゃおう」
「は?」
その言葉の意味が分からなかった俺は、一度聞き返す。だが、文脈から考えれば、その意味は分かる事だった。
「奴に、私達の位置を知らせよう」
俺はこの時、先生がそこそこギャンブラー気質なのを思い出した。
だが、今俺は、紛れも無い『だるまさんが転んだ』をしている。そう、今年で二十一になるこの俺は、小さな子供と『だるまさんが転んだ』をしているのだ。
だが、これは決して楽しい物ではない。もし負けたら、こけしとして永久保存されるのだ。捨てられる可能性もある。これも仕事。我慢だ。羞恥心とか一旦忘れろ。
「だるまさんがころんだ」
この子供は人間ではない。それは先程の光景を見れば明らかな物だが、問題は『何なのか』である。正直、ゲームで負けた相手を玩具にする怪異とか、全く聞いた事が無い。それに、少し様子を見て感じたのだが、怪異や霊とは、コイツは若干違いがある。印象の話になるが、どちらかと言うと、神や神格を得た妖怪のような雰囲気だ。
だが、それはこれが終わった後問い詰めれば良い話だ。もし神の類なら、対話位できる筈だ。今はなんとかミスらないように、このゲームをクリアすれば良い話だ。
コイツはそこそこ、色んな手を使って来る。緩急を付けたり、早口で言ったり、まあ面倒臭い。そりゃ負けたくないだろうし、多少の工夫は当たり前だとは思うが、それでも長引くのは少し、まあ、恥ずかしい。いや誰に見られるとかじゃないんだけどさ。
まあ、大した工夫でもない。俺は少しずつ確実に進む事にした。そうすれば、案外早く終わった。俺は子供の背中に触れた。
「これで、俺の勝ちかな?」
「わ!負けちゃった!お兄ちゃん強いね!」
うん。これで良かったようだ。これで一件落着だと良いんだがな。
「負けちゃったから、お姉ちゃん達は一回、元に戻すね」
そう言って、子供は大量のこけしを、俺に差し出して来た。それを地面に立てると、こけしは煙を立てて、人の形に戻った。
「うわあ!って、あれ?」「どうなってるの?」
どうやら、こけしにされていた人の状態は、こけしになる直前で固定されていたらしい。これなら、依頼人の娘さんも無事だ。
ん?待て。直前で固定という事は、慣性の法則みたいな事もあり得る。そして、先生と七海さんはあの子供に殴り掛かろうとしていた為、勢いもある。それも相当な。もしそれが一般人に当たったら……
しかし、その心配は杞憂に終わった。何故なら、七海さんと先生がぶつかった相手は、一般人ではなく俺だったからだ。
「ぐはあっ!?」
「わっ!ゴメン八神君!」
「これは……どういう状況だ?」
うん。俺の腕が持って行かれそうになっただけで、一般人への被害は無い。良かった良かった。
俺は今の状況を飲み込めていない二人に、現在に至るまでの状況を説明した。
「……なら、あの子供に色々聞こう。もし会話できたら、この場に居る全員を無事に帰してくれるかも知れない」
「それが一番早いですよね。この状況を見るに、危害を加える性質は無さそうです」
「うう……悔しい……」
悔しがる七海さんを無視して、俺と先生はあの子供の所へ向かう。先生が話し掛けようとした瞬間、子供は手を挙げて、空に巨大な時計を出現させた。
「次のゲームが始まるって事かな?」
「そうだよ。次は『おにごっこ』。一分数えるから、皆逃げて!」
そう子供が宣言すると、空の時計の針が動き始めた。時計の針が一周するまで、自由に逃げて良いらしい。
「皆さん!少し聞いてください!これから鬼ごっこが始まります!迷子にならないように逃げてください!」
俺が周囲の人間にそう説明すると、やけに古風な、と言うか、侍の恰好をした男が、一歩前に出た。
「待て貴様!一体どういう事か説明してもらおうか!」
成程。見た感じ、本物の侍らしい。まあ、侍が居た時代からあった神隠しだろうし、居たとしても不思議じゃないか。
だが、言い争っている暇は無い。一人でも残ればクリアだが、全員逃げきれないリスクもあるのだ。他の人はもう行ったから良いが、さっさと逃げてもらわないと。
「あ~まあ簡単に説明すると、あの子供の遊びに付き合ってもらいます。あの子供から、暫く逃げ続ければ勝ち。捕まったら負けです」
「だから何故そうしなければならないのかと聞いている!叩き切るぞ!」
この老害が。さっさと逃げれば良い物を。面倒だし置いて行くか。俺は「まあご自由に」とだけ言って、先生達の所に行った。
「さ、行きましょう」
「ああ」
「もう二十秒過ぎてるし、急がなきゃね」
俺達は騒ぐ侍を置いて、田んぼの方へ走り出した。俺達は一応、子供をギリギリ視認できる場所まで進んで、そこで開始を待つ事にした。
「どうするんだ?逃げると言っても、一応現在位置を確認できるものが無いとキツイぞ。ただでさえ何も無いのに」
「鬼ごっこだし、あの子からギリギリの所で逃げ続ければ……」
「あの子供の身体能力が分からない以上、多少距離を取った方が良いでしょうね。残れる確率は増やしたいです」
そうこう話している内に、上空の時計が鐘のような音を発した。スタートの合図だろう。子供は適当な方向に歩き出した。時計の針が三つに増えているのを見るに、逃げ続ける時間は一時間といった所か。
「八神くん、駅の方角は分かるかい?」
「分かりますよ。でも、今確認すると奴に勘付かれます」
俺の言葉に、先生は少し考える素振りをした。十秒程でその体制を解いた先生は、俺の方を見て笑った。
「じゃあ、やっちゃおう」
「は?」
その言葉の意味が分からなかった俺は、一度聞き返す。だが、文脈から考えれば、その意味は分かる事だった。
「奴に、私達の位置を知らせよう」
俺はこの時、先生がそこそこギャンブラー気質なのを思い出した。
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※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
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