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#7 人類保護連盟
#7ー15 謎の傷
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苦しい。
私の中に存在している何かが、私の体を突き破りながら、外に出ようとしているようだ。
私はその痛みに耐えようと、体を丸めて、呻き声を上げる。
何かの声が聞こえる。
誰かの声。聞き覚えのある、どこか安心する声。
私はその声がする方へ手を伸ばしながら、その声の主を呼ぶ。
「先生!先生先生先生!」
「八神……くん?」
彼はその言葉に安心したように、一瞬頬を緩める。しかしそれを許さないように、再度表情を引き締める。
私も、自分の状態を理解するより早く、自分の体に走る激痛を抑え込むようにもがく。すると、八神くんは、それまでしていた『何か』を止めた。それと同時に、私の体に走る激痛も消えた。
「八神くん……何が……」
「先生……良かっ……た……」
その言葉を最後に、八神くんは倒れた。直ぐ後ろに居た七海や、柊誠、春日部日向、そして医療班の面子が、八神くんの体に近付く。私は状況を理解できずに、壊れた部屋で、何も言えずにいた。
私は暫くして、何が起こったのかの説明を受けた。どうやら、私が持っている霊力が、何かの想定外に因って、暴走してしまったようだ。恐らく、私達が気絶する前に食らった、謎の音波が原因だろうとの事だった。
八神くんは、私から溢れ出す霊力を、自身の術式で原稿用紙に封じ込める事で、被害を最小限に抑えようとしていたようだ。私の霊力量は、協会の中でも群を抜いて多い。そんな物を、個人で無理矢理抑え込もうとした結果、八神くんは今、倒れてしまったようだ。
私の中から溢れた霊力は、私が取り込む事で、今はもう無くなっている。私の過去とか書かれていたら最悪だ。他の奴等もそうだが、特に八神くんには知られたくない。これで良かったんだ。
私はいつもこうだ。八神くんを巻き込んで、無理をさせて、傷付ける。今回もそうだ。私がもっとしっかりしていれば、あんな武器の攻撃を食らわなければ、こうなる事も無かった。
私はフラフラと診察室を出た。私は八神くんの顔を見に行く気分にもなれず、一人で事務所に帰ろうとした。
しかし、それを止めたのは、七海だった。
「待って咲良さん!」
「七海……」
私は七海に肩を掴まれ、その顔を見る。心配してくれているようだ。
「どこ行くの?」
「事務所に帰る。大丈夫。ちょっと疲れてしまってね」
私が笑うと、七海は何か、悔しそうな、悲しそうな顔をした。
「大丈夫な訳無いでしょ」
「大丈夫。私は七海よりもかなり強……」
「今!どんな顔してるか分かってるの!?」
そう言うと、怒った七海は私の体を持ち上げて、どこかに運ぶ。私は抵抗する気も起きずに、されるがままにしている。暫くすると、私は突然、床に座らされた。
「八神君、連れて来たよ」
七海の言葉に、反射的に視線が上がる。そこには、ボロボロになった八神くんが居た。
「八神くん……」
「先生、無事で何よりですよ」
八神くんは、その恰好に似合わない笑顔で、私を迎えた。
俺は、目の前に居る先生の姿に驚いた。先生は、いつもの雰囲気とはかけ離れた、しょぼくれた顔をしていた。俺は先生に、笑顔を向けた。
先生はとても疲れたようだった。霊力を消耗しているようには見えないので、多分精神的な面で疲れてしまったのだろう。
「八神くん……済まなかった。今回も君に、無理を強いてしまった」
「そんな事言わないでください。俺も少し疲れただけで、大した怪我もありませんし」
身体中痛いし、多分切り傷だらけだとは思うが、これ位の怪我なら、霊力で強化すれば十秒も経たずに治るだろう。この程度の怪我、今までに何度も負って来た。本当に大した事じゃない。
「いつもいつも……無理させてばっかりで……」
「大丈夫ですよ。笑ってください。先生には笑顔が似合うんですから」
泣いてる顔は、この人には似合わない。俺は痛む体を無理矢理動かし、先生の頭を撫でる。いつもなら『子供扱いするな!』と言って殴られるが、この時の先生は何も言わず、ただ俯くだけだった。
俺は無理矢理体を動かした結果、全身に激痛が走り、呻き声と共に体を丸めた。先生は驚いて顔を上げ、俺が寝ているベッドに駆け寄った。
「八神くん!?」
「うう……大丈夫ですよ。でも今日は少し、協会本部に泊まります。お姉ちゃん、先生をよろしくお願いします」
「分かったよ。こういう事は、お姉ちゃんに任せなさい」
七海さんと先生が部屋を出た後、俺は霊力で身体を強化して、治癒能力を高めようとした。強化した体なら、この浅い切り傷なら治せる。
だが、この時は何故か、上手く行かなかった。
霊力に依る身体の強化は成功している。無論、治癒能力の底上げもできている。だが、この体に刻まれた、無数の切り傷は、以前として、俺の体に残っている。
治ってはいる。ただ、その速度が異様に遅いのだ。この調子では、恐らく丸一日あっても治り切らないだろう。先生の術式ではない。先生の術式に、そういう性能は無い筈だ。なら、何か別の要因がある筈。だが、そんな物に心当たりが無い。身体強化が成功している以上、連盟の武器の影響が残っている訳でもない。七海さんのリンゴは市販の物だから、毒を盛られた可能性も無い。残った者は先生だけだが、先生にこんな事はできない。なら何が原因だ?
しかし、ずっと悩んでも何も出て来ない。俺は取り敢えず、英気を養う為に、寝てしまう事にした。
その日は、悪夢を見なかった。
私の中に存在している何かが、私の体を突き破りながら、外に出ようとしているようだ。
私はその痛みに耐えようと、体を丸めて、呻き声を上げる。
何かの声が聞こえる。
誰かの声。聞き覚えのある、どこか安心する声。
私はその声がする方へ手を伸ばしながら、その声の主を呼ぶ。
「先生!先生先生先生!」
「八神……くん?」
彼はその言葉に安心したように、一瞬頬を緩める。しかしそれを許さないように、再度表情を引き締める。
私も、自分の状態を理解するより早く、自分の体に走る激痛を抑え込むようにもがく。すると、八神くんは、それまでしていた『何か』を止めた。それと同時に、私の体に走る激痛も消えた。
「八神くん……何が……」
「先生……良かっ……た……」
その言葉を最後に、八神くんは倒れた。直ぐ後ろに居た七海や、柊誠、春日部日向、そして医療班の面子が、八神くんの体に近付く。私は状況を理解できずに、壊れた部屋で、何も言えずにいた。
私は暫くして、何が起こったのかの説明を受けた。どうやら、私が持っている霊力が、何かの想定外に因って、暴走してしまったようだ。恐らく、私達が気絶する前に食らった、謎の音波が原因だろうとの事だった。
八神くんは、私から溢れ出す霊力を、自身の術式で原稿用紙に封じ込める事で、被害を最小限に抑えようとしていたようだ。私の霊力量は、協会の中でも群を抜いて多い。そんな物を、個人で無理矢理抑え込もうとした結果、八神くんは今、倒れてしまったようだ。
私の中から溢れた霊力は、私が取り込む事で、今はもう無くなっている。私の過去とか書かれていたら最悪だ。他の奴等もそうだが、特に八神くんには知られたくない。これで良かったんだ。
私はいつもこうだ。八神くんを巻き込んで、無理をさせて、傷付ける。今回もそうだ。私がもっとしっかりしていれば、あんな武器の攻撃を食らわなければ、こうなる事も無かった。
私はフラフラと診察室を出た。私は八神くんの顔を見に行く気分にもなれず、一人で事務所に帰ろうとした。
しかし、それを止めたのは、七海だった。
「待って咲良さん!」
「七海……」
私は七海に肩を掴まれ、その顔を見る。心配してくれているようだ。
「どこ行くの?」
「事務所に帰る。大丈夫。ちょっと疲れてしまってね」
私が笑うと、七海は何か、悔しそうな、悲しそうな顔をした。
「大丈夫な訳無いでしょ」
「大丈夫。私は七海よりもかなり強……」
「今!どんな顔してるか分かってるの!?」
そう言うと、怒った七海は私の体を持ち上げて、どこかに運ぶ。私は抵抗する気も起きずに、されるがままにしている。暫くすると、私は突然、床に座らされた。
「八神君、連れて来たよ」
七海の言葉に、反射的に視線が上がる。そこには、ボロボロになった八神くんが居た。
「八神くん……」
「先生、無事で何よりですよ」
八神くんは、その恰好に似合わない笑顔で、私を迎えた。
俺は、目の前に居る先生の姿に驚いた。先生は、いつもの雰囲気とはかけ離れた、しょぼくれた顔をしていた。俺は先生に、笑顔を向けた。
先生はとても疲れたようだった。霊力を消耗しているようには見えないので、多分精神的な面で疲れてしまったのだろう。
「八神くん……済まなかった。今回も君に、無理を強いてしまった」
「そんな事言わないでください。俺も少し疲れただけで、大した怪我もありませんし」
身体中痛いし、多分切り傷だらけだとは思うが、これ位の怪我なら、霊力で強化すれば十秒も経たずに治るだろう。この程度の怪我、今までに何度も負って来た。本当に大した事じゃない。
「いつもいつも……無理させてばっかりで……」
「大丈夫ですよ。笑ってください。先生には笑顔が似合うんですから」
泣いてる顔は、この人には似合わない。俺は痛む体を無理矢理動かし、先生の頭を撫でる。いつもなら『子供扱いするな!』と言って殴られるが、この時の先生は何も言わず、ただ俯くだけだった。
俺は無理矢理体を動かした結果、全身に激痛が走り、呻き声と共に体を丸めた。先生は驚いて顔を上げ、俺が寝ているベッドに駆け寄った。
「八神くん!?」
「うう……大丈夫ですよ。でも今日は少し、協会本部に泊まります。お姉ちゃん、先生をよろしくお願いします」
「分かったよ。こういう事は、お姉ちゃんに任せなさい」
七海さんと先生が部屋を出た後、俺は霊力で身体を強化して、治癒能力を高めようとした。強化した体なら、この浅い切り傷なら治せる。
だが、この時は何故か、上手く行かなかった。
霊力に依る身体の強化は成功している。無論、治癒能力の底上げもできている。だが、この体に刻まれた、無数の切り傷は、以前として、俺の体に残っている。
治ってはいる。ただ、その速度が異様に遅いのだ。この調子では、恐らく丸一日あっても治り切らないだろう。先生の術式ではない。先生の術式に、そういう性能は無い筈だ。なら、何か別の要因がある筈。だが、そんな物に心当たりが無い。身体強化が成功している以上、連盟の武器の影響が残っている訳でもない。七海さんのリンゴは市販の物だから、毒を盛られた可能性も無い。残った者は先生だけだが、先生にこんな事はできない。なら何が原因だ?
しかし、ずっと悩んでも何も出て来ない。俺は取り敢えず、英気を養う為に、寝てしまう事にした。
その日は、悪夢を見なかった。
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※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
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