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#7 人類保護連盟
#7ー20 呆然
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翌日。俺達は何もできず、ただ町を歩いていた。
「取り敢えず、異端審問会に連絡はしました。情報はくれるそうです」
「会も寛容になったんだね。好都合だけど、少し申し訳無い気分だ」
昨晩の爆発は、火遊びをしていた外の人間の仕業と解釈されたそうだ。俺達は直ぐにあの場を去ったので、この話に、俺達の名前が出る事は無かった。
ギエルの行方は掴めていない。あの場所を調べて、ギエルがあそこに来ていたのだけは分かった。しかし、途中で変な術でも使ったのか、追跡できなかった。結局俺達は、何もできず、小旅行と化したこの遠征を楽しむしか無かった。
「そう言えば、八神くんの術を無効化なんてできるの?」
「俺は過去を見てる訳じゃなくて、土地や物に残された記憶を呼んでるだけですからね。俺が干渉する物に、予め細工をしておけば、不可能ではないでしょう。まあ、やられた事は無かったんですけど」
俺が来る事も想定して術を使ったのだろう。そもそもが力のある鬼だ。情報を手に入れれば、協会が黙っている訳が無い。自分達の本拠地を掴まれたくないだろう向こうが、対策をするのは当たり前だ。
しかし、どこから情報を手に入れたんだろうか。協会はこの件の情報を持っていなかった。可能性として一番ありそうなのが、異端審問会にも連盟のスパイが居る事だ。これなら多分、俺達よりも遥かに早くこの場所に辿り着ける。一体どこまで、連盟の手は伸びているのだろう。
「結局、私達にこれ以上できる事は無い。撤退だ八神くん」
「そうですね。これ以上ここに居るのは損です」
長期遠征の予定だったのが、たった一日で終わってしまうとは思っていなかった。残念という訳でもないが、何もできなかった以上、少しばかり心残りがあるな。
俺達は荷物を纏め、電車に乗り込んだ。帰る途中、俺はずっと、連盟の事を考えていた。
帰ったその日、俺は早速、異端審問会の連中と話をしていた。
「敵に先を越されて、みすみす帰って来るとはねえ。金剛退魔師が聞いて呆れる」
「アンタらもアレを殺せなかったんだ。お互い様だろ」
お相手は不快そうに顔を歪めている。しかし、渡すと一度言ったからか、俺に一つの封筒を渡して来た。俺はそれの中身を空け、情報を確認する。そして俺は、自分の目を疑った。
「私達が知っているのは、そこに書いてある通りだけだ」
「いやいやマジかよ……似てる思想だとは思ってたけどさ……」
そこには、『洗礼名『ギエル』……三年前に会を追放。その後、事故により消息不明』という文があった。
会の連中が帰った後、俺は協会の休憩室で、頭を抱えていた。ギエルは以前、異端審問会メンバーだった。しかし三年と少し前、会の思想に反する、妖怪に対する虐殺、そして神への冒涜を行い、会を追放される。その後、三年前の飛行機事故の結果、その体は飛行機諸共海に沈み、消息が不明となっていたらしい。しかし、今頃になってその姿を現し、人類保護連盟の主として、現代社会を崩壊させようとしている。
ここまではまだ良い。だが最も謎なのは、会に所属していた頃のギエルは、退魔師としては三流だったらしい。それが今では、協会の最高戦力と比肩するであろう実力になっている。ここがおかしいのだ。
オオクニヌシのシステムが完成したのは、おおよそ五か月程度前。連盟の行動が五か月前から始まったと考えると妥当だとは思うが、春日部家との交渉は更に以前、一年前から始まっていたと聞く。オオクニヌシとなって力を手に入れたとは考えられない。そもそも、オオクニヌシになった所で、あそこまで強くはなれないだろう。
もし俺のように、誰かに師事してもらったのなら分かるが、それなら何かしら情報が掴める筈。第一、たった二年であそこまで強くなれるような修行を受けさせる人間は、恐らく存在しないだろう。詰まる所、力の出所が分からないのだ。
無論、あの実力を昔からずっと隠し続けていた可能性はある。だが、会に所属する選択肢を取っている以上、それは余り考えられない。
情報を手に入れた筈が、更に謎が深まった。しかし一応、役に立つ情報もある。ギエルが居なくなった後三年間で、一切妖怪の被害が無くなった、たった一つの地域をマークしてもらったのだ。奴等の思想を考えるに、この場所に、連盟の本拠地が存在する筈。
俺は早速、そのデータをクラウド上に保存し、バックアップを取った。これで、以前のように情報を潰される事は無い。会長と慎太郎さんの都合が合う日を見計らって、少数精鋭で突入したい。一応、確認は取っておこう。
俺は会長室へ向かい、三回ノックをした。「入って良いぞい」という言葉を待った後に、俺はその部屋に入った。
「失礼します」
俺が部屋に入ると、会長はやはり、俺が来るのを待っていたと言わんばかりに、会長は椅子に座って、お茶を飲んでいた。
「連盟の件かの?」
「はい。本拠地と思しき場所を発見しました。こちらがその資料です」
会長は、俺が渡した封筒の中身を確認している。暫く待つと、会長は中身の冊子を閉じた。読み終わったのだろう。そう考えた俺は、本題を切り出す。
「会長、慎太郎さん、先生、真司君の四人で、この場所に突入していただきたのですお願いできますか?」
「ほっほっほ。そりゃ勿論。じゃが一つ」
俺は「何でしょうか」と聞こうとする。しかし、その声は言葉に出なかった。俺は瞬時に霊力で身体を強化し、術式を使って壁を作り、防御の体勢に入る。刃が、俺が作った壁に止められる。会長は愉快そうに笑いながら、刀を鞘に納める。
「ほっほっほ。やはり八神君、お主も来るが良い。霊力抜きとは言え、儂の不意打ちを防御できるのは、恐らくお主が提案した四人以外で、お主以外にはおらんじゃろうて」
俺は霊力の強化と術式を解き、止めていた息を再びし始める。寿命が縮むかと思った。だがこれで確信した。この人なら勝てる。この人達なら勝てる。会長は両腕を広げ、俺に向かって宣言する。
「約束しよう!確実な勝利を!お主の掴んだ情報に報いようではないか!」
俺はその気迫に身震いし、自分でも無意識の内に、口元に笑みを浮かべていた。
「取り敢えず、異端審問会に連絡はしました。情報はくれるそうです」
「会も寛容になったんだね。好都合だけど、少し申し訳無い気分だ」
昨晩の爆発は、火遊びをしていた外の人間の仕業と解釈されたそうだ。俺達は直ぐにあの場を去ったので、この話に、俺達の名前が出る事は無かった。
ギエルの行方は掴めていない。あの場所を調べて、ギエルがあそこに来ていたのだけは分かった。しかし、途中で変な術でも使ったのか、追跡できなかった。結局俺達は、何もできず、小旅行と化したこの遠征を楽しむしか無かった。
「そう言えば、八神くんの術を無効化なんてできるの?」
「俺は過去を見てる訳じゃなくて、土地や物に残された記憶を呼んでるだけですからね。俺が干渉する物に、予め細工をしておけば、不可能ではないでしょう。まあ、やられた事は無かったんですけど」
俺が来る事も想定して術を使ったのだろう。そもそもが力のある鬼だ。情報を手に入れれば、協会が黙っている訳が無い。自分達の本拠地を掴まれたくないだろう向こうが、対策をするのは当たり前だ。
しかし、どこから情報を手に入れたんだろうか。協会はこの件の情報を持っていなかった。可能性として一番ありそうなのが、異端審問会にも連盟のスパイが居る事だ。これなら多分、俺達よりも遥かに早くこの場所に辿り着ける。一体どこまで、連盟の手は伸びているのだろう。
「結局、私達にこれ以上できる事は無い。撤退だ八神くん」
「そうですね。これ以上ここに居るのは損です」
長期遠征の予定だったのが、たった一日で終わってしまうとは思っていなかった。残念という訳でもないが、何もできなかった以上、少しばかり心残りがあるな。
俺達は荷物を纏め、電車に乗り込んだ。帰る途中、俺はずっと、連盟の事を考えていた。
帰ったその日、俺は早速、異端審問会の連中と話をしていた。
「敵に先を越されて、みすみす帰って来るとはねえ。金剛退魔師が聞いて呆れる」
「アンタらもアレを殺せなかったんだ。お互い様だろ」
お相手は不快そうに顔を歪めている。しかし、渡すと一度言ったからか、俺に一つの封筒を渡して来た。俺はそれの中身を空け、情報を確認する。そして俺は、自分の目を疑った。
「私達が知っているのは、そこに書いてある通りだけだ」
「いやいやマジかよ……似てる思想だとは思ってたけどさ……」
そこには、『洗礼名『ギエル』……三年前に会を追放。その後、事故により消息不明』という文があった。
会の連中が帰った後、俺は協会の休憩室で、頭を抱えていた。ギエルは以前、異端審問会メンバーだった。しかし三年と少し前、会の思想に反する、妖怪に対する虐殺、そして神への冒涜を行い、会を追放される。その後、三年前の飛行機事故の結果、その体は飛行機諸共海に沈み、消息が不明となっていたらしい。しかし、今頃になってその姿を現し、人類保護連盟の主として、現代社会を崩壊させようとしている。
ここまではまだ良い。だが最も謎なのは、会に所属していた頃のギエルは、退魔師としては三流だったらしい。それが今では、協会の最高戦力と比肩するであろう実力になっている。ここがおかしいのだ。
オオクニヌシのシステムが完成したのは、おおよそ五か月程度前。連盟の行動が五か月前から始まったと考えると妥当だとは思うが、春日部家との交渉は更に以前、一年前から始まっていたと聞く。オオクニヌシとなって力を手に入れたとは考えられない。そもそも、オオクニヌシになった所で、あそこまで強くはなれないだろう。
もし俺のように、誰かに師事してもらったのなら分かるが、それなら何かしら情報が掴める筈。第一、たった二年であそこまで強くなれるような修行を受けさせる人間は、恐らく存在しないだろう。詰まる所、力の出所が分からないのだ。
無論、あの実力を昔からずっと隠し続けていた可能性はある。だが、会に所属する選択肢を取っている以上、それは余り考えられない。
情報を手に入れた筈が、更に謎が深まった。しかし一応、役に立つ情報もある。ギエルが居なくなった後三年間で、一切妖怪の被害が無くなった、たった一つの地域をマークしてもらったのだ。奴等の思想を考えるに、この場所に、連盟の本拠地が存在する筈。
俺は早速、そのデータをクラウド上に保存し、バックアップを取った。これで、以前のように情報を潰される事は無い。会長と慎太郎さんの都合が合う日を見計らって、少数精鋭で突入したい。一応、確認は取っておこう。
俺は会長室へ向かい、三回ノックをした。「入って良いぞい」という言葉を待った後に、俺はその部屋に入った。
「失礼します」
俺が部屋に入ると、会長はやはり、俺が来るのを待っていたと言わんばかりに、会長は椅子に座って、お茶を飲んでいた。
「連盟の件かの?」
「はい。本拠地と思しき場所を発見しました。こちらがその資料です」
会長は、俺が渡した封筒の中身を確認している。暫く待つと、会長は中身の冊子を閉じた。読み終わったのだろう。そう考えた俺は、本題を切り出す。
「会長、慎太郎さん、先生、真司君の四人で、この場所に突入していただきたのですお願いできますか?」
「ほっほっほ。そりゃ勿論。じゃが一つ」
俺は「何でしょうか」と聞こうとする。しかし、その声は言葉に出なかった。俺は瞬時に霊力で身体を強化し、術式を使って壁を作り、防御の体勢に入る。刃が、俺が作った壁に止められる。会長は愉快そうに笑いながら、刀を鞘に納める。
「ほっほっほ。やはり八神君、お主も来るが良い。霊力抜きとは言え、儂の不意打ちを防御できるのは、恐らくお主が提案した四人以外で、お主以外にはおらんじゃろうて」
俺は霊力の強化と術式を解き、止めていた息を再びし始める。寿命が縮むかと思った。だがこれで確信した。この人なら勝てる。この人達なら勝てる。会長は両腕を広げ、俺に向かって宣言する。
「約束しよう!確実な勝利を!お主の掴んだ情報に報いようではないか!」
俺はその気迫に身震いし、自分でも無意識の内に、口元に笑みを浮かべていた。
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スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
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