怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#8 むらさきかがみ

#8ー15 存在の本質

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 『怪しい二人』の都市伝説。そこに登場する探偵達は、一人はこの世の物とは思えない程美しい女性、もう一人は容姿端麗で人間味の薄い男性だ。

 彼等は何者なのだろう。私は考えた。

 例えば、彼等の内どちらかが人ではない物だとしたら?

 例えば、彼等の内どちらかの本質が人からかけ離れた物だとしたら?

 例えば、彼等の内どちらもが人ではない物だとしたら?

 例えば、彼等の内どちらもの本質が人からかけ離れた物だとしたら?


 例えば、彼等の内どちらかが怪物の類だったとしたら?


 俺は尻餅をつく。驚いた。目の前にいきなり銃口を突き付けられたような気分だ。俺は立ち上がり。再び鏡を見る。やはりそこには、あの化物が映し出されていた。
「ど、どうしたの?」
「いや……この鏡は、神秘の遺産である事を除けば、ただの鏡なんですよね?」
「そ、その筈だよ」
「なら、その認識は今直ぐ改めるべきです」
 少なくとも、ただの鏡にこんな化物が映る訳が無い。この土蔵の中に俺と道子さん以外の気配がしない以上、ここに映るのは俺の姿の筈だ。だが実際は違う。つまり、この鏡には何かがある。術が掛けられていた痕跡が無かった以上、この鏡には元々何かあったと考えるのが自然だ。
 俺の話を聞いた道子さんは、急いで協会に連絡し、同時に、むらさきかがみについての資料を片っ端から洗い始めた。騒ぎを聞きつけた如月透哉さんに事情を話した俺は、むらさきかがみの資料を調べるのを手伝った。
 むらさきかがみの都市伝説は至ってシンプルだ。ニ十歳までこの言葉を覚えていた人間は不幸になる。これだけだ。対処法も多くある為、大して恐れられてもいない都市伝説だが、あまりにも有名だ。
 だが、その中に一文でも、『鏡には怪物が映る』なんて文は無い。神秘の遺産である以上、怪異と同様に、人が手を加えない以上は元となった都市伝説と全く同じ働きを持つ筈だ。そして協会の退魔師による調査では、この鏡に術は掛けられていない。つまり、何かが変異する可能性すら存在しないのだ。
「……しない筈なんだがなあ……」
「き、如月家の方の資料も閲覧できますか?」
「この世にこれ以上に詳しい資料が存在している退魔師の家系は存在しませんよ」
 俺以外が鏡を覗き込んでも、あの化物は現れなかった。つまり、完全に正体不明の化物が映ったという事になる。以前むらさきかがみを解析した時にもあの化物の姿を見たんだし、何かがあるのは間違い無い筈なんだがな。
「一応、八神さんの方も調べますか?私の家の退魔師にやらせますよ」
「いや、後で岩戸家に行く予定もあるので、岩戸秀英さんに診てもらいます」
「しゅ、秀英さんか……わ、私、あの人苦手……」
「そういう事を言う物ではないですよ道子さん。仮にも、八神君は岩戸の人間なんですから」
「わ、私だって身内です~!」
「『親しき仲にも礼儀あり』ですよ」
「うっ……で、でも透哉さんだって!」
 あ~あ~また始まったよ。この人達は直ぐ喧嘩に発展させる。もういっその事、このまま放って置こうか。どうせ協会の人間がむらさきかがみの研究の為に回収しに来る。そうなったら大人しくなるだろう。

 協会の人間にむらさきかがみを渡した後、俺は用意していた菓子折りを持って岩戸家へ向かった。真司さんに謝る事に加えて、また一つやる事が増えたな。俺は岩戸家の敷居を跨ぎ、その中に入ろうとする。
 そしてそれと同時に、頭上から襲撃を受ける。俺はそれを間一髪で躱し、原稿用紙と万年筆を構える。誰だ?連盟ではない筈だ。ここは岩戸家の敷地の中だ。少なくとも、侵入して気付かれず潜伏なんて離れ業はできない筈だ。
 土煙が晴れ、敵……と言って良いのか分からないその姿が露わになる。そこに居たのは、見た事の無い程に殺気立っている神宮寺幸子が居た。
「八神イ!死スベシ!」
「うん。先ずは話をしないか?俺は真司さんに謝りに来たんだ」
「問答無用オ!」
 幸子さんは俺に向かって、思い切り頭突きをする。躱せば民家に突っ込む。俺はそれを真正面から受け止め、そしてその衝撃に目を見張る。
「術式使ってるなコレ!」
「死スベシ!」
 この爆音に気付いたのか、屋敷の中からぞろぞろと退魔師が出て来る。真司さんはこの光景に目を皿のようにし、秀英さんは関心している。
「まさかウチのかわいい妹以外も誑かしていたとは思わなかったよ八神君」
「冗談じゃない!」
「死スベシ!」
「待ってくれ幸子さん!このままじゃ私の家が壊れてしまう!」
 真司さんの言葉に、ようやく人の話を聞ける程度には落ち着いたらしい幸子さんは、術式を解いて、地面に足をついた。うん。多分ここ最近で一番キツイ一撃だった。
「聞きましたわ!お姉様を泣かせたそうですわね!」
「そこに関しては何も言えないですね」
「やはり貴様はここで殺しますわ!」
「そして、今日はそれも含めて謝りに来たんです」
「はあ!?」
 俺は何か言い続ける幸子さんを無視して、真司さんの方へと歩き、そして深く頭を下げる。
「申し訳ございませんでした」
 真司さんは一拍置いてから、俺の頭をあげさせようとする。それでも俺は、頭を下げたまま動かない。
「いや、本来はこっちが頭を下げるべき事なんだ!この件に関して、君には何の非も無い!」
「いえ、それでも俺は、貴方を殺そうとしました。本来謝って許される事ではない事は分かっています。償いをさせてください」
「いや、今回の事は、私はしかるべき報いを受けただけだ!君があやまる必要なんて無いんだ!」
 その後も暫く押し問答が続いたが、秀英さんの「一旦中に入らないかな?」の一言で、全員が岩戸家の中に入る事になった。因みに、幸子さんは時々首を傾げていた。
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