怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#9 百鬼夜行

#9-9 獣には獣を

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 足に力を込める。霊力で強化する事も忘れて、私は敵に襲い掛かる。敵は腕で私の拳を受け止めるが、私はその腕ごと敵を叩き潰す。
「ぐっ……!」
「殴り合おう!互いの体が砕けるまで!」
 快感が全身を突き貫く。敵は開いている腕で私の腕を切り裂くが、今の私ならこんな傷は瞬き一つの間に治る。私はもう一つの腕も交えて、目の前の敵に拳を叩き込み続ける。霊力で強化し、腹の底から溢れ出るような霊力を込めたその拳は、易々と敵の体を破壊し続ける。
「化物があ!」
「私は君達が生み出した獣だよ!?酷い事言うねえ!」
 殴り抉り潰し壊す。敵の体も再生を続ける。私が壊す速度と同じ速さで再生する。私は更に加速する。更に速く、強く、敵の体を壊す為だけの拳を振るう。
 突如、横から衝撃が加わる。私の体はその衝撃に吹き飛び、壁に叩き付けられる。さっきの一撃よりかは軽い。私は受け身を取り、再度構える。
「神殺しの武具の特性だっけ?」
「やっぱり話されてますよね。そうですよ」
 敵は耳を触る。あそこに神殺しが装着されているらしい。破壊できるかな。無理かも。でもまあ、やる事自体は変わらない。衝撃波と言うよりかは、見えない何かに殴られてる感じだった。なら、壁を作り続ければ無効化できる。その間に距離を詰めれば、多分行ける。
 問題は、攻撃を察知しようが無い事だ。多分、空気の塊を作って投げる感じだ。私の勘でも感覚でも察知できない。ならどうするか……
「ぶつけられるより早く、君を叩けば解決だよね」
「できるんですか?」
「やるだけだよ」
 私は大きく踏み込み、そして敵の懐に潜り込む。そして拳を突き出す前に、再度吹き飛ばされる。
「やらせる訳無いでしょう?」
「ならやれるまで続けようか!」
 私はもう一度踏み込み、そして地面を蹴る。さっきよりも力を込めたせいか、地面のコンクリートが割れた。もう一度吹き飛ばされる程、私は頭が悪い訳でもない。私は術式で足場を作り、元々あったビルの壁や電柱を駆使して、空中を跳び回る。
「これなら避けるのも容易いと?」
「当たんないでしょ!」
 私はもう一度、敵に向かって拳を突き出す。しかしそれを読んでいたように、私にカウンターを打ち込む。
「何か種があるの?」
「考えてみたらどうですか?」
 私は八神君や咲良さん程頭が良くないからな。なら私は、ちょっとした工夫を交えて、ただ敵を殴るだけだ。それに、対策も思い浮かんだ。私は再度、大きく踏み込む。
「馬鹿の一つ覚え……ですね」
「馬鹿でも、君になら勝てそうだよ」
 私はもう一度、同じ事を繰り返す。そしてもう一度、同じような反撃を食らう。だけどもう一度、同じように踏み込み、また反撃を食らう。
「無駄だって分かりませんか?」
「無駄だけど、この程度なら消耗も無いでしょ?」
 これで良い。今はこれで。暫く続けていると、次第に敵も慣れて来たらしく、反撃の威力はより強く、タイミングはより正しくなって行く。
「貴女の攻撃はもう当たりませんよ!」
「それはどうかな!?」
 私は一際力を込めて、敵に向かって跳ぶ。だが敵は、私の体を正面から殴り飛ばした。私の体はビルの壁に叩き付けられ、そのまま貫通する。体の上に乗っかった瓦礫は、私の行動を著しく制限する。敵は私にゆっくり近づきながら、懐から刃物を取り出す。
「終いですよ。これでね」
 敵はナイフを使って、私の心臓を突き刺そうとする。私はそこに合わせて、敵の腹に拳を叩き込む。敵の体は吹き飛ぶが、意識はまだはっきりしているようだ。敵は再び空気の塊を作り出し、私の方へ向かわせるが、私はそれを易々と躱す。そしてそれと同時に、私はその塊に触れる。
「騙し討ちですか!?無駄ですよ!」
 そう言って、敵は腕を横に振るが、空気の塊が飛んでくる事は無かった。敵は驚いたように目を見開き、「何!?」と声を漏らす。私はその隙を狙って、敵の腹に拳を叩き込む。何かが弾けるような感触の後、敵の口から赤い液体が流れ出る。
「な……ぜ……」
「私の術式は、空気に霊力を通して、そこに空気の塊を作れるんだ。そしてそれは、決して動かせない」
 そして私は、術式でさっきの空気の塊を固めた。どんな仕掛けがあったとしても、攻撃手段を潰せば関係無い。敵は膝から崩れ落ちる。
「拘束させてもらうよ」
「そんな訳には……行きませんよ……」
 次の瞬間、敵の霊力が何倍にも膨れ上がった。奥の手か。多分勝てなくなる。なら私は、八神君から貰った『奥の手』で対抗してやる。私は懐から、ボロボロになったその封筒を取り出し、霊力を流す。
 その瞬間、私の体から霊力が消えるのを感じた。いや、消えたのではなく、一瞬で吸い取られたんだ。それもこの封筒に。それだけじゃない。様々な方向からこの封筒に、霊力が集まって来る。
「な……何……これ……」
「馬鹿な……それは我々が作った筈の!」
 そして封筒に霊力が溜まり切った瞬間、封筒を起点に、真っ黒な塊が出現した。そこからは無数の手が伸び、私の体を引き摺り込もうとする。私はそれから逃れる為、ビルの屋上まで跳び上がったが、敵はその手に捕まってしまっていた。
「な……くそ……放せ!放せよお!」
「何……あれ……」
 敵は最後までもがいていたが、やがて黒い塊の影に隠れ、見えなくなった。少し経つと、塊は消え失せた。そこに敵の姿は泣く、残ったのはただ、端の方が黒く染まったの封筒だけだった。

 この感じ……俺の奥の手を使ったな。しかし思っていたよりも、霊力を吸われている人間が少ない。嬉しい誤算だが、あれを使ったとなると、七海さんの方が心配だな。術式を使い過ぎたせいか、痛う頭を無理矢理動かしながら、俺はテントの外へ向かった。
 そして驚いた。そこには、俺が渡した封筒を持った、七海さんが居たからだ。
「無事だったんですね。ソレ、使ったのに」
「ねえ八神君、これ何?」
「七海さんが改造されてたあの屋敷に残った術を解析したんです。独特な体系だったので時間は掛かりましたけどね。それをちょっと改変して、霊力を吸い取って生物を食い荒らす術にしたんです」
 七海さんは理解し切れないという風な感じで、首を小さく傾げた。連盟の退魔師は消せた訳だから、後は会長の方だな。位置の割り出しは済んだ。情報共有も信頼できる奴に任せた。俺も、会長の方に向かうか。
「七海さん。ここ頼んで良いですか?」
「え?どこに……」
 七海さんの質問よりも早く、俺は転移の陣の中に入った。転移先の座標も固定してある。ギエルの神隠しの近くに行ける筈だ。いつになっても慣れない感覚が俺を包む。
「八神君!」
 その声が響く。俺は目を開き、その声の主を見る。
「帰って来たら、色んな意味で食べちゃうから、覚悟しててね!」
 様々な誤解を招きそうなその声が言い終わると同時に、俺の視界は塗り替わった。俺は頭を抱え、小さく呟いた。
「あの人はこれだから全く……」
 俺は頭の中のもやを振り払いながら、神隠しの中に侵入する。

『記録
 二〇二ニ年 十二月二十一日 百鬼夜行

 白金級退魔師 高橋七海

 十四時十七分
 連盟の退魔師大崎茜おおさきあかねと交戦。後、拠点にて待機。』
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