怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#9 百鬼夜行

箸休め 『あら良い男じゃない』

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 暫く寝転がった後、私達は起き上がって、ここから一番近くの拠点まで歩き出した。体中が痛むが、無線機も携帯も壊れてるんだし、こればっかりはしょうがない。
「そう言えば、何故貴女は協会に?」
「私の経歴、調べてるんでしょう?」
「ですが、貴女の経歴と今の貴女はどうしても結び付かない」
 まあ、そうよね。私もこうなるだなんて、協会の事を知るまでは思ってもみなかったし。隠す事でもないし、話してみよう。
「ここでクエスチョン。私の前職は?」
「ボクサー……まだアマチュアながら、そこそこ有名だったそうですね。将来有望だとか」
「嬉しいわね。でも、ちょっとした事故に遭ったのよ」

 思い返せば、あれは私が十九の時だった。私は車にはねられた。完全に事故だった。単なる不注意で起こった、ありふれててつまらない事故。頭を軽く打ったが、大した怪我も後遺症も無く、直ぐに競技に復帰できた。
 だけど、そこまでだった。それから変な物が見えるようになった。獣、様々な道具の形の化物、人と思ったら怪物だったなんて事もしばしばだ。見えるだけならまだ良い。話し掛けて来る。触って来る。邪魔して来る。
 私はボクシングを止めた。このままでは頭がおかしくなる。相談しても誰も真に受けない。私はお祓いをやっているとかいう、近所の小さな神社に行った。
「あ~はいはい……何もありませんね」
「そんな訳無いですって!何か見えるんですよ!」
 正直こっちも参ってるんだ。どうにかしてほしい。見えない物が見えて、それを他人は信じてくれない。ストレス以外の何でもない。俺はお坊さんに詰め寄り、「お願いします!」と頭を下げた。お坊さんは、そんな俺の姿を見かねてか、一枚のメモに、何かを書いて寄越した。
「私よりもこういう事案に詳しい人の連絡先です。ここに連絡してください」
「ありがとうございます!」
 ようやく光明が見えた。俺は家に帰り、早速その番号に電話を掛けた。しかし来たのは、如何にも胡散臭い、なんか顔を隠している、長身の男だった。
「初めまして。訳あって名前は言えませんが、電話を受けて来た者です」
「そ……そうですか……ありがとうございます……」
 なんだこの人。なんか凄く高い羽毛布団売りつけて来そうな感じの風貌だな。いやそれは良いけど。本当になんとかなるんだろうな。『やる事はやった』で金取られたら堪った物じゃない。
 その男は俺の部屋に上がると、俺に正座し、目を閉じるように言った。そして、『決してその姿勢を崩してはいけない』とも。俺は言われた通りにする。視界が無くなり、何が起こっているのか分からなくなる。
「もう良いですよ」
 その合図で、俺は目を開けた。男は題名の書かれていない文庫本のページを捲りながら、俺に分かった事を説明する。
「貴女、最近事故に遭って、頭を打ったでしょう」
「ああ……はい」
「その時に、頭の中が最適化されたんですよ。貴女が見ている物は全て現実に存在しています」
 「は?」と、そう声が漏れた。いやいやいや。そんな幽霊とか妖怪みたいな話、実際にあったら驚くよ。俺は怒りよりも早く、そういう疑問を先に感じた。
「事実ですよ。それから身を守る術は……あ、ここに連絡してください」
 なんかこういうの前にもあったな。俺はそう思いながら、男が差し出したメモ帳の切れ端を受け取る。
「『神秘研究協会』?」
「はい。会員費永久無料ですよ。それでは、私はここで……」
 そう言って、男は玄関まで歩いて行ってしまった。俺は話の進む速さに呆然としていたが、こうしている場合ではないと思い立ち、玄関までその男を追い掛けて行った。
「待ってくださいよ!お金とかって……」
「今回来たのは、ここら辺にあった用事のついでですからね。お金は取りませんよ」
 ええ……それで良いのか。て言うか結構失礼な事考えてたな俺。まあ、頭の中で考えてただけだし、謝らなくても良いか。
 そう考えている内に、男はドアノブを捻り、外へ出ようとする。一歩だけ外に出た男は、俺の方を振り返り、最後に言葉を残した。

「我慢は、良くないですよ」


「……で、その言葉を受けて、今の私が出来て行ったって訳」
「成程……とはなりませんよ」
 まあ、そうよね。私もそう思う。いやでも自分の内に眠っていた衝動を解放した結果がオカマだったし、仕方無いわよねうんうん。しかし今度はこっちが質問する番。私は彼に、何故連盟に入ったかを聞いた。
「金ですね」
「金」
「そうマネー」
「単純ね」
「協会にもそういう人は居るんでしょう?」
 そう言えば、特別行動班にそういうのが居たらしい。ああいうのは信頼できないけど信用できるんだよな。金さえ渡せば基本なんでもやるし。
 暫く談笑しながら歩いていると、次第に拠点が見えて来た。近くには協会の退魔師が見張りをしている。コイツが出て来る時、悪霊やら怪異やらを全部消していたのが、まさかこんな形で役立つとは。感謝しなければ。
「そう言えば、さっき話していた、胡散臭い男って、本当に何も特徴は無かったんですか?」
「え?あ~そうだね。確か……」

「グラサンの下からでも分かる位鮮やかな青色の目をしてた……気がする」

 その言葉を聞いた男は、目を見開き、急にブツブツと何かを呟き始めた。時々、「いやでも」「ありえない」みたいな言葉が聞こえて来る。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「不味い……このままじゃ……」
 男は私の肩を掴んで、真剣な眼差しで私に告げる。

「このままでは、本当に『世界共通の敵』が完成してしまう!」

 どういう事かを理解するより先に、私は拠点に向けて走り出していた。
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