怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#9 百鬼夜行

#9-15 才能

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 残念だ。そう思わざるを得ない。目の前にはかつて兄と慕った者のなれの果ての、醜く爛れ、いくつかのパーツがもげて再生できなくなった体が転がっている。いくら白金級相当の実力があったとしても、あの程度のドーピングで勝てると思っていたんだろうか。
 裏切者には罰を。協会の絶対的なルール。八神くんみたいに、短時間で死ぬよりも辛い目に遭わせる手段があれば良いんだけど……まあそこら辺は、やれる事の広げ方の違いだし、しょうがないと諦めよう。
 私は目の前で蠢く物の胸部に腕を突っ込み、心臓を引き抜く。心臓を無くした化物は、掠れる声で、私に最後の言葉を残そうとする。
「この……怪物……めが……」
「鏡見てから言ってくれ」
 私は心臓を握り潰し、コンクリートの山の上に捨てる。化物は動きを止め、ただの肉の塊に成り下がる。私はそれを見届けながら、血で濡れた手を拭った。
 さて、どうした物か。多分だけど、各地区に少なくとも一人は刺客が差し向けられているだろう。皆なら負ける事は無いだろうが、会長か慎太郎さんの所にギエルが行っているだろう。今度は虎の子を出して来るだろう。以前のデカブツを、今度はギエル自身でやる可能性もある。そうなれば、会長達には致命傷を与える力が無い。
 合流する……のは無理だろう。一旦拠点に戻ろう。転移の術を使うにしても作戦を練るにしても、兎に角情報が要る。私は無線機で連絡を取り合いながら拠点へ向かう。
「状況は?」
『複数の地区にて連盟の退魔師が襲来。各自撃破に成功しつつあるそうですが、首謀者のギエルの位置が……あ、今八神金剛級退魔師から連絡がありました!ギエルの大まかな位置の特定に成功したそうです!』
「分かった。私も直ぐに移動する。その位置に転移できるようにしておいてくれるかい?」
『了解しました』
 流石八神くん。痒い所に手が届く。少しして、テントに到着した私は、早速転移の術の中心に立った。


 全く以て腹立たしい。こんなイレギュラーは初めてだ。私の今までの経験、人生、ここに至るまでに見て来た全ての中で、最も腹立たしい。目の前の少女一人に、ここまで予定を狂わされると思っていなかった。神宮寺慎太郎と西園寺達也を殺す。たったそれだけだった筈が、この少女一人、たった一人に狂わされた。
「当たると思いましたの!?」
「なんで当たらない!」
 攻撃は効かない。だが確かに、私の体勢を崩すだけの威力がある。老人二人を狙おうにも神宮寺幸子が邪魔な上、老人共には当たらないし、神宮寺幸子を先に潰そうにも、回避に徹した神宮寺幸子は仕留め切れない。私と老人二人の間に入らないように立ち回りながら、確実に時間稼ぎを続けている。
 不味いな。各地に向かわせた者達の反応が消えている。ここに突入して来た事を考えると、この場所はもうバレていると考えた方が良い。続々と協会の退魔師共が来るだろう。そうなれば、八神蒼佑だけを捕らえ、人の神とする暇も無くなる。そうなれば、この後に続く厄災から、この日本を救えなくなる。
 神宮寺幸子の手札は見えて来た。千里眼は予想外だったが、恐らく霊力を視覚的に捉える物だろう。私の体内の霊力の流れを見て、動きを予測して、私が動くより先に動く。私の今の状態を考えるに、どんなに意識した所で、この回避方法への対策は不可能だろう。ならどうするか……
「『現世に息づく全ての生命よ。我が名の下に従い、我が意識の上に跪け』」
 詠唱を使った上で、私の術式を使用する。神宮寺幸子はそれに勘付いたが、体勢を崩すだけでは、術式の発動を防ぐ事はできない。私は神宮寺幸子の攻撃を受け止め、地面に叩き付けながら、術式を発動する。

「『我が名はギエル。世の行く末を嘆く者である!』」

 私を除いた、全ての生命の動きが止まる。私はこの間、誰かに接触する事はできない。だが、私だけであれば、いくらでも動く事ができる。例えば、こんな風に。
「な……にを……」
「驚いた。喋れるんですね。まあ、やる事は変わりませんが」
 霊力を体外で直接操るのは簡単ではない。ましてや、攻撃に転用するのは。しかし私は、既にこの技術を習得している。私は目の前の退魔師を三人纏めて葬るのに十分な霊力を溜め、操る。頭上に掲げられた右手の上には、光り輝く球体が現れる。
「さらばです。協会の最高戦力」
 そう私が呟いた時だった。霊力を放つ一瞬前、私の神隠しの中に侵入した退魔師が居た。私がその方向を向くと、そこには八神蒼佑の姿があった。その隙に、八神蒼佑は二枚の原稿用紙を飛ばした。それらは老人二人と神宮寺幸子を頬を掠め、僅かに血液を流させる。それと同時に、三人は動き出した。
 まさか、私の術式の詳細を知っているのか?私は霊力を塊を八神蒼佑に投げ付けたが、奴はそれを軽々と避けた。
「どうやって私の術式の対処法を知ったのですか?」
「賭けだったがな。一応俺は、探偵の助手的な事もしてるんだ」
「そうでしたね」
 どうする?最後ならまだしも、まさか最初に来るのが八神蒼佑とは、最悪にも程がある。これから私は、八神蒼佑の体を大きく損傷させないようにしながら、集まって来る金剛級退魔師を全員殺し尽くさなければならない。
 あちらの攻撃はこちらには効かないが、同時に向こうを殺すのにも骨が折れる。失敗したな。ハイになって油断した。さっさと殺しておけば良かったんだが……
「貴方がこちらに来ていただければ、私も協会の金剛級退魔師を殺すだけで済むのですが?」
「断る。そもそも、そうしなければならない理由が無い。それより、俺はお前に言いたい事があるんだ」
 八神蒼佑は私に向けて、霊力で強化した原稿用紙を投げ付けた。私はそれを受け止め、同時に目を見開いた。
「お前さ、舐め腐り過ぎなんだよ。ここまでやって、人が怒らないとでも思ったか?」
 信じられない。いや私達もやっていた事だ。それに八神蒼佑の術式の詳細を考えれば、十分有り得る事……しかしまさか、自分一人でこれができる退魔師が居るとは、正に想定外。
「散々引っ掻き回して煙に巻いて、死ぬほど面倒だった」
 予測できていなかった。予測し切れていなかった。八神蒼佑という退魔師の成長速度を。八神蒼佑という存在が持ち得る、本来の可能性を。
「まあ、要するに何が言いたいかっていう話だがな……」


「掛かって来いよ。ぶっ殺してやる」


 私の手からは、赤い血が溢れていた。
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