怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#9 百鬼夜行

#9-16 実力

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 『今まで本気を出していなかった』と言うつもりは無い。だがそれでも、今の俺は調子が良い。『この日、この時の為にお前は生まれて来たのだ』と言われたら、疑う事も無く信じてしまえそうな程に。矢継ぎ早に放つ攻撃でさえ、普段少し溜めを挟んでから放つ威力を持つ。
 敵の攻撃の、方向、軌道、威力が分かる。避けるのも容易だ。確かに速い。速くて強いが、当たらなければどうと言う事も無い。
「どうしたお前本気出せよ!死んじまうぞ!?」
「こっちの気も知らないで……!」
 体が動く。思ったように、思ったよりも良く動く。俺は、会長がギエルの四肢を切り落としたのに合わせて、先程見せた切り札の内、一枚を槍に変化させ、ギエルの胸目掛けて突き出す。心臓は逃したものの、右肩を抉り取った。ギエルは俺達の体を殴り飛ばしたが、次は慎太郎さん達が、ギエルの動きを制限する。
 俺の切り札で、唯一想定外だった所がある。それは効果で、心臓を貫ければ殺せるんだろうが、それ以外の所では、再生を遅らせる程度の効果しか無かったのだ。再生できなくなれば良いんだが、それは高望みだったようだ。
 しかし十分。俺は再び霊力を原稿用紙に流し、一本の薙刀にする。俺はそれを構え、ギエルの心臓を狙う。
「なあ神サマ!本当に人は神に勝てないのかい!?ぜひとも試させてくれよ!」
「知った事か!」
 俺の術式で作った武器は、一度使うだけで消えてしまう。詠唱も使って強化すれば多少効果は上がるが、やはり一度は一度で変わらない。原稿用紙一枚毎に一回分。複数使う事で効果を底上げできるが、今回は避けよう。そして、残りの原稿用紙は十枚……詰まり、俺がコイツに有効な攻撃を使えるのは、残り十回。
 もう半分も残っていない。が、そんな貴重な攻撃手段を、何も馬鹿正直に使う必要は無い。俺の攻撃は、見ただけでは効果の判別ができない。これを上手く使えば、ギエルは俺の攻撃全てに気を遣う必要があるのに対し、俺は確実に敵を捉えられる時だけこの切り札を使えば良い、俺に有利な状況が作れる。
 俺は、幸子さんと慎太郎さんに四肢を持って行かれたギエルを地面に叩き付け、そのままギエルの体を薙ぎ払おうとするが、やはり受け止められた。俺は更に力を込めながら、ギエルの顔を見下す。
「ああとても気分が良い!正に最高!最っ高の気分だ!」
「知った事じゃないと言っている!」
 ギエルは俺の薙刀を壊そうとしたが、俺はその直前、受け止めていたギエルの両腕、そして左目を潰した。だがギエルは、俺の体を蹴り飛ばした。受け身を取り損ねた俺は、内臓が破裂した感覚を味わいながら、大きく後ろへ飛ばされた。
「八神!」
「問題……ぐっ……」
「内臓か……達也!幸子!時間稼ぎじゃ!」
「応とも!」
 再生は後で良い。痛みを消せ。最低限の止血さえ済ませれば残りは後で良い。霊力を練ろ。次の攻撃で確実に殺す為の。この作品を構成する全ての、人物、場面、台詞、そしてそれらを創造する、文字、段落、記号、余白まで意識を巡らせろ。脳味噌が焼き切れる程頭を使え。
 どんな武器にする?可能な限り強く、鋭く、恐ろしい武器が良い。俺は金色の光になった原稿用紙を握り締め、自分が考える、最高の武器を形にする。鎖でもあり、槍でもあり、剣でもあり、鎌でもあり……名前を付けるのも馬鹿馬鹿しい程危険なその武器を、俺は構えた。
「一瞬で良い!動きを止めてください!」
「「「分かった!」」」
 ギエルの術式は対策済みだ。そしてギエルには、俺の方に攻撃する余裕が無い。会長達であれば、ギエルの身動きを止める事もできる。会長と慎太郎さんは四肢を切り落とし続け、幸子さんは体勢を崩し続ける。
「英祐。コイツの安定化を頼めるか」
「楽勝。ぶちかましちゃってお兄ちゃん」
 そいつは素敵だ。俺は武器の制御から意識を逸らし、体の表面から霊力を放出し始める。霊力で直接体を押し出し、機動力と馬力を底上げする。俺は大きく跳び上がり、ギエルの懐に入る。
「獲ったぁ!」
「止めろおぉぉおぉおぉぉぉ!」
 俺は武器を降り抜き、ギエルの体を左肩から右の腰に掛けて、大きく斬り裂いた。心臓に届いていない。それなら、心臓に届くまででコイツの体を削り続けるまでだ。俺は武器が消える前に、ギエルの心臓の辺りを何度も何度も斬り刻み続ける。右から左へ、上から下へ、或いはその逆を。突き、薙ぎ、刻み、殺す。
 武器が消える頃には、ギエルの体はまるでボロ雑巾のようになっていた。これでも死なないのか。心臓は抉ったんだがな。再生はしていないようだ。やはり本物の『神殺し』でないと駄目なんだろうか。ああでも、時間の問題かもな。ギエルの体から、段々と霊力が消えて行っている。退魔師が死ぬ時特有の反応だ。
 それでもギエルは、俺の方へ手を伸ばして来た。俺はその様子を見下しながら、言葉に耳を傾ける。
「八神……蒼佑……」
「遺言か?聞かないぞ」
 いや待て。コイツの行動には熱意が欠けていた。『協会を何が何でも壊してやる』という情熱が。手段でしかないという事だ。コイツにとっての『協会の破壊』は。中期目標を立てる奴には、更に大きな目標がある。それこそ、蟻から見た超高層ビルのような目標が。
 何か引っ掛かる。何故俺に固執していた?全世界に存在する、五億人の協会所属神秘学者、そしてその中の最高戦力である、その中でも特筆すべき戦力である、五十三人の金剛級相当の人間達の中で、何故俺に。『予言』とは?連盟の目的は?何故……

「全ては……世界を……守る……為……」

 その瞬間、俺の記憶の中で、一つの言葉が思い起こされた。『世界平和』という言葉が。いや正確には、『世界が団結せざるを得ない敵の出現』という言葉が。
 俺はその敵を、オオクニヌシと捉えていた。だがそれにしては、オオクニヌシは弱過ぎる。確かに通常兵器では勝てないが、退魔師や魔術師であれば殺せる。だがもし、その『敵』が、オオクニヌシよりも強大な『何か』だとしたら?

 俺はこの日初めて、自分の行動について後悔した。
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