優の異世界ごはん日記

風待 結

文字の大きさ
2 / 80

森の恵みと初めてのごはん(?)

しおりを挟む


日記、二日目。



昨日、僕はこの世界に来た。  
エルドリア大陸、なんて名前を聞いただけでも頭がクラクラする。  
でもリナと出会ってほんの少しだけ希望が見えてきた。  
明るい彼女の笑顔と、料理への期待が、僕をこの世界に繋ぎ止めてくれる。  
リナに出会えなかったらきっとあのまま…。いや、やめよう。

僕たちは村を目指して森を歩き続けた。  
そして、初めてこの世界の食材に触れたんだ。  

朝、目が覚めたとき、身体がガチガチだった。  
昨日、森の地面で寝たせいだ。  
リナが焚き火を起こしてくれてて暖かかったけど、地面は固くて冷たかった。  
リナは慣れた手つきで火を調整しながら干し肉みたいなものを焼いていた。  
その匂いはちょっと焦げ臭くて、でも妙に食欲をそそる。  

「あ、優、起きた? ほら、これ食べて。  
あんまり美味しくはないけど、腹は膨れるよ。」  

リナが、串に刺した黒っぽい肉を差し出してきた。  

「えっと…これ、なに?」  

僕は、ちょっと警戒しながら受け取った。  
見た目は、牛肉のジャーキーみたいだけど、表面に妙な光沢がある。  

「モンスターの肉だよー。ゴブリンホッグの干し肉。結構硬いけど、栄養はあるから。」  

「ゴ、ゴブリンホッグ!?」  

思わず叫んでしまった。  
モンスターの肉!?  
食べるの!?  
食べれるの?!
いや、確かにこの世界にモンスターはいるって言ってたけど!
まさか食材として出てくるとは。  

リナは、僕の反応を見てクスクス笑った。  

「そんな顔しないでよ。この世界じゃモンスターの肉は普通に食べるんだから。 まぁ…味はイマイチだけどね。 硬くて、噛むのに顎が疲れるんだ。」  

恐る恐るかじってみた。  
確かに硬い。  
そして、味は……なんというか、塩辛くて、ちょっと獣臭い。  
正直、美味しいとは言えない。  
でも、腹が減ってるから、黙って噛み続けた。  

「ねえ…リナ、この世界の料理って…いつもこんな感じなの?」  

「うーん、まぁ、村じゃこんなもんかな?冒険者ギルドで高級な食材を手に入れればもっと美味しいものもあるよ。でも、普通の人はこんな干し肉か、薄いスープで生きてる。」  

リナは、肩をすくめてそう言った。  
彼女の目は、どこか遠くを見ているみたいだった。  

「そっか……。じゃあ、僕が美味しい料理を作ったら、みんな喜ぶかな?」  

リナの顔がパッと明るくなった。  

「絶対喜ぶよ! 優、ほんとになんか作れるんだよね?  村に着いたら、絶対お願いね!」  

その期待の目にちょっとプレッシャーを感じたけど、同時にワクワクしてきた。  
この世界の食材で、どんな料理ができるんだろう?  
ゴブリンホッグの肉はちゃんと調理したら、美味しくなるかもしれない。  
スパイスがあれば、臭みも消せるはずだ。  

「よし、じゃあ、村に着くまで、食材になりそうなものを採取していこう。僕はこの世界の食べられるものわからのいから教えてくれる?」

リナは、ニコッと笑って頷いた。  

「勿論いいよ!この森は実は食べられる植物やモンスターがいっぱいあるんだ。私が教えてあげるよ。でも、危ないやつもいるから気をつけてね!」

そうして僕たちは森を進み始めた。  
リナは弓を手に、軽やかな足取りで歩いていく。  
彼女はこの森のことをよく知っているみたいだ。  
時々立ち止まって、木の根元や茂みを覗き込む。  

「ほら、優、これ見て!」  

リナが指差したのは、地面に生えた小さなキノコだった。  
紫色で、傘の先に白い斑点がある。  
なんか、めっちゃ怪しい見た目だ。  

「えっ、これ、食べられるの?」  

思わず顔が引きつる。

「うん、ミストマッシュルームってやつ。  
生だとちょっと苦いけど、焼くと甘みが出て美味しいよ?そんな変な顔しなくても毒はないから安心して。」  

リナは、ナイフで器用にキノコを切り取って、布の袋に入れた。  

「これでよしっと。村に帰ってスープにするとかいいかもね。」  

「スープか……。もし、塩とかハーブがあれば、いい味になるかも。それにしてもこのキノコ、どんな味なんだろう?」  

頭の中で、ミストマッシュルームを使ったレシピを考え始めた。  
クリームスープにしたら、濃厚な風味になるかな?  
でも、クリームがないなら、シンプルなスープでもいいかもしれない。  
何かこの世界のハーブを探したいな。  

その後も、リナは森の恵みを次々と教えてくれた。  
青い実をつける低木は『サファイアベリー』
甘酸っぱくて、デザートに良さそう。  
川辺に生える草は『リバーリーフ』で、ほのかにミントみたいな香りがする。  
サラダやスープのアクセントに使えそうだ。  

「リナ、すごく詳しいね。いつもこんな風に食材集めてるの?」  

「んー、まぁ、冒険者やってると、こういう知識がないと生きていけないからね。モンスターを狩るだけじゃなくて、森で生き延びる術も必要だし。」  

リナは、ちょっと自慢げに笑った。  
でも、彼女の言葉には、どこか重みがあった。  
この世界で生きるって、簡単じゃないんだな。  

昼過ぎて僕たちは小さな開けた場所にたどり着いた。  
大きな木の根元に赤い花が咲いていた。  
花びらがキラキラ光ってて、まるで宝石みたいだ。  

「キレイだね…。これ、なんの花?」  

「ルミナフラワーだよ。この花の蜜はすごく甘いんだ。でも採るのにはちょっとコツがいる。あそこを見て。ほら、近くに蜂みたいなモンスターがいるから。」  

リナが指差した先には、確かにでかい蜂がブンブン飛んでいた。  
いや!あれ蜂なんてもんじゃない!  
体長50センチくらいある!金属みたいな光沢の翅を持ったモンスターだ。  

「うっわ…めっちゃ怖いんだけど!?」  

「大丈夫!アイツはルミナフラワーの蜜を守ってるだけ。刺激しなければ襲ってこないよ。でも、蜜を取るならちょっと戦う必要があるかも。」  

リナは、弓を手に構えた。  
彼女の目は、まるで狩人みたいに鋭い。  

「優、ちょっと下がってて。私がアイツを仕留めるから。」  

「え、待って、リナ、一人で大丈夫!?」  

「ふふ、弓使いを舐めないでよ。このくらい、朝メシ前!」  

リナは、素早く矢を放った。  
シュッという音とともに、矢は蜂モンスターの翅を貫いた。  
モンスターは、キィッと甲高い音を上げて地面に落ちる。  
リナは、すぐにナイフでトドメを刺した。  

「よし、終わり!  これで蜜が採れるよ。」  

「す、すごい……。 リナ、めっちゃ強いね。」  

「まぁね!  冒険者やってると、こういうのに慣れるんだ。ほらほら、優、蜜の採り方、教えてあげる。」  

リナに教えてもらいながら、ルミナフラワーの蜜を採った。  
花の中心を軽く押すと、粘り気のある黄金色の液体が出てきた。  
匂いを嗅ぐと、まるでハチミツと花の香りが混ざったような甘い香り。  
おお!これ絶対デザートに使える!  

「この蜜はチーズケーキに合うかもしれないな。いや、この世界にクリームチーズはないかもしれないけど……何か代わりになるものがあれば。」  

リナは、目を輝かせて言った。  

「チーズケーキ!?  なにそれ、めっちゃ美味しそう!  優、ほんと、村に着いたら作ってよ!」  

「うん、約束するよ。でも、火とか調理器具が必要だな。村にそういうの、ある?」  

「村には鍛冶屋がいるから、鍋とかフライパンくらいなら借りられるよ。火も、焚き火でなんとかなるでしょ。」  

「そっか、火加減とか大変そうだな…まあなんとかしてみるよ。」  

その後も、僕たちは森を進んだ。  
夕方近くになって、ようやく森の出口が見えてきた。  
遠くに、木造の家々が並ぶ小さな村が見える。  
煙突から煙が上がっていて、どこか懐かしい匂いが漂ってくる。  

でも、やっぱり、どこかこの世界の独特な雰囲気がある。  


「もうすぐ村だよ。優、疲れたでしょ? でも頑張って歩いたね。」  

リナがこちらを振り返り、笑顔で言った。  

「う、うん、疲れたけど……なんか、楽しかったよ。この世界の食材は僕の世界のものと違って面白いね。」  

「でしょ! 優が料理してくれるなら、もっと面白いもの見せてあげるよ。モンスターの肉とか、すっごいレアなハーブとか!」  

リナの言葉に、胸がドキドキした。  
この世界での料理にはどんな可能性があるんだろう?  
ゴブリンホッグの肉を柔らかくするにはどう調理すればいいかな?  
ミストマッシュルームのスープ、サファイアベリーのデザート、ルミナフラワーの蜜を使った何か……。  
考えるだけでもワクワクが止まらない。  

村に着いたら、まずキッチンを借りて、みんなを驚かせる料理を作ろう。  
リナの笑顔を見たら、絶対美味しいものを作りたいって思った。  

この日記も、リナが貸してくれた紙とペンで書いている。  
村に着いて、彼女が宿屋の主人に頼んでくれたんだ。  
「優、せっかくの冒険の記録なんだしちゃんと残しなよ!」って。  
ほんと、いいやつだな。  

明日からは村での生活が始まる。  
どんな人たちがいるんだろう?
どんな食材があるんだろう?
そして僕の料理が、この世界でどんな風に受け入れられるのか。  
全部、楽しみだ。  



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界ネットスーパー始めました。〜家事万能スパダリ主夫、嫁のために世界を幸せにする〜

きっこ
ファンタジー
家事万能の主夫が、異世界のものを取り寄せられる異世界ネットスーパーを使ってお嫁ちゃんを癒やしつつも、有名になっていく話です。 AIと一緒に作りました。私の読みたいを共有します 感想もらえたら飛んで喜びます。 (おぼろ豆腐メンタルなので厳しいご意見はご勘弁下さい) カクヨムにも掲載予定

処理中です...