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料理対決の余波
しおりを挟む日記、五日目。
この世界に来て五日目。
昨日の料理対決は、僕の人生で一番ドキドキした瞬間だったかもしれない。
マリアさんとの勝負に勝ったことで、村での居場所が少し固まった気がする。
でも、勝負の後、思わぬ展開が待っていた。
新しい仲間が増えたり、村の外への旅の話が出たり。
この世界はほんと一瞬も気が抜けないよ。
でも、料理があるから、なんだかんだ乗り越えられる気がしてる。
---
朝、宿屋「オークの休息」の食堂は、いつもより賑やかだった。
昨日の料理対決の話が村中に広まったらしく、朝食の時間に村人たちがゾロゾロ集まってきた。
みんな、僕のスープやタルトのことを話してる。
中には、「次はどんな料理作るんだ?」って聞いてくる人もいて、ちょっと照れる。
リナは、いつものようにパンとスープを食べながら、ニコニコしてる。
「優、ほんと昨日はすごかったよ!村の子供たちまで、『優のタルト食べたい!』って騒いでるんだから!」
「はは、子供たちまで?そんなに喜んでくれるなら、もっと作らないとね。」
カールさんが、カウンターの奥から声をかけてきた。
「昨日のおかげで宿屋の客が増えたぞ。このままじゃ、食材が足りなくなる。
優、市場で何か買い込んでくれねえか?」
「市場、いいですね! 昨日、クラグポテトとかファイアペッパー見つけたし、もっと面白い食材探してみたいです。」
その時、食堂のドアがガチャッと開いた。
入ってきたのは、マリアさん。
赤い髪を揺らして、相変わらずの迫力でズカズカ歩いてくる。
でも、昨日みたいな敵意はなくて、なんだか穏やかな表情だ。
「おい、優、昨日の勝負はなかなかだったな。 お前の料理は確かに村のみんなを喜ばせた。認めるよ。」
「マリアさん、ありがとう!でも、マリアさんのシチューも美味しかったですよ。
特に、ゴブリンホッグの旨味がしっかり出てて。」
マリアは、フンと鼻を鳴らしたけど、口の端が少し上がってる。
「まあな。だが、お前のあのタルト、フェザーモルの羽を使ったのは驚いたぜ。あんな食材なんて普通思いつかねえ。どこで手に入れたんだ?」
「それはリナが森で教えてくれたので捕まえてくれたんです。羽だけ使えば、モルも傷つかないって。」
マリアが、興味深そうにリナを見た。
「リナ、てめえ、フェザーモル捕まえたのか? やるじゃねえか。で?優、次は何作るつもりだ? この村の食材をもっと引き出してやれよ。」
「うん、考えてます!クラグポテトで何か新しい焼き菓子とか、ファイアペッパー使ったスパイシーな料理とか。」
マリアが、ニヤッと笑った。
「いいねえ。なら、俺も負けねえように新しいメニュー考えるか。優、お前がこの村にいる間は、料理番としてバチバチやり合おうぜ。」
「いいですよ! マリアさんと競うの、楽しそう!」
マリアは、満足そうに頷いて、食堂を出ていった。
リナが、ホッとした顔で言った。
「マリアさん、気に入ってくれたみたいだね。優はほんとすごいよ。村の料理番をライバルにしちゃうなんて!」
「はは、でも、マリアさんはいい人だよね。ライバルだけど、なんか仲間っぽい感じもする。」
その時、食堂の奥から、ひょこっと小さな影が現れた。
ふわふわの毛に覆われた、ウサギみたいな生き物。
背中に小さな羽が生えてる。
フェザーモルだ!
でも、昨日捕まえたやつじゃない。
こいつ、もっと小さい。
「うわ、フェザーモル!? どうしてここに?」
リナも目を丸くして言った。
「え、ほんとだ! これ、昨日捕まえたやつの子供じゃない? もしかして優のタルトの匂いに釣られてきたのかも!」
フェザーモルは、ピピッと小さな声で鳴きながら、僕の足元にすり寄ってきた。
なんか、めっちゃ可愛い。
でも、食材として見るべきか、ペットとして見るべきか、悩むな……。
うう、かわいい…。
「この子、連れてきたやつが親モルだったんだね。フェザーモルって美味しいものに弱いんだよね。優の料理をよっぽど気に入ったんだよ!」
リナが、笑いながらフェザーモルを抱き上げた。
フェザーモルは、リナの手の中でピピッと鳴いてる。
「じゃあ、この子は僕の料理のファンってこと? ふふっ、なんか、嬉しいな。でも、羽はまた採るの?」
「うーん、この子は小さいから、羽はまだ採らない方がいいかも?でも、優の料理に懐いてるなら、連れて歩いてもいいんじゃない? 冒険の途中で、食材集めるのに役立つかもよ。」
「冒険?」
リナが、ニヤッと笑った。
「そう! 優も村に慣れてきたでしょ? だからさ、そろそろもっと大きな冒険に出ようよ!王都のルミエールに行く準備を始めるんだ!」
「え!?王都!? もう!?」
「うん!カールさんが言ってた料理コンテストに絶対出るべきだよ! 優の料理なら、都会の料理人にも勝てるって! 私も、冒険者としてもっと強いモンスター狩りたいし、一緒に行こう!」
王都、ルミエール。
魔法で動く調理器具や、珍しいスパイス、料理コンテスト。
考えるだけで、胸がドキドキする。
でも、確かに、この村でできることはまだまだあるけど、もっと広い世界を見てみたい。
リナが一緒なら心強いしな…。
「わかった!リナ、行くよ! でも、その前に、村でできる料理をもっと試してみたいな。フェザーモルの羽とかで新しい食材で何か作れるかも。」
リナが目を輝かせて言った。
「いいね! じゃあ、今日、市場で食材買い込んで、フェザーモルと一緒に何か作ってみよう! そうだ、この子に名前つけなよ。可愛い名前がいいよね!」
「名前か……。うーん。じゃあ、キラってどう? 羽がキラキラしてるから。」
「キラ! いいじゃん! 覚えやすくて!よーし、キラは優の料理助手だな!」
リナが、フェザーモルを高く持ち上げて、笑った。
キラは、ピピッと嬉しそうに鳴いてる。
なんか、仲間が増えた感じだ。
---
昼過ぎ、僕とリナ、そしてキラは、市場で食材を買い込んだ。
クラグポテト、ファイアペッパー、青いリンゴみたいな『スカイアップル』、そして村のチーズ職人が作った、ちょっと酸っぱいチーズ。
これで夜のメニューを考える。
メインは、ファイアペッパーでピリ辛にしたゴブリンホッグのグリル。
スカイアップルのスライスを添えて、爽やかなアクセントに。
デザートは、クラグポテトとチーズで作る、簡単な焼き菓子。
キラの羽を少しだけ使って、キラキラしたトッピングにしてみよう。
キッチンに戻って、調理を始めた。
ファイアペッパーは、思ったより辛え!
でも、少量ならゴブリンホッグの濃い旨味を引き立ててくれる。
クラグポテトは、潰すとねっとりして、チーズと混ぜると濃厚な生地になる。
キラの羽をトッピングすると、焼いたときにふわっと溶けて、まるで粉砂糖みたいにキラキラする。
調理中、キラがキッチンの隅でピピッと鳴きながら、材料をクンクン嗅いでる。
なんか、めっちゃ癒されるな。
夕方になって食堂に村人たちが集まってきた。
マリアも腕を組んで見に来た。
「おい、優、今日も何かすごいの作ったんだろ? 見せてみろよ。」
「うん!マリアさん、食べてみてください! ピリ辛グリルと、クラグポテトのチーズケーキです!」
村人たちが、グリルを食べ始めた。
ファイアペッパーの辛さが、みんなの顔をちょっと赤くしてるけど、笑顔だ。
「うっわ!この辛さ、クセになる!
ゴブリンホッグがこんな美味いなんて!」
チーズケーキも大好評だ。
キラの羽のキラキラが、子供たちに特にウケてる。
マリアがチーズケーキを一口食べて、目を細めた。
「ふん、なかなかやるな。このキラキラはフェザーモルの羽か。お前はほんと発想が面白いぜ。」
「ありがとう、マリアさん!
次は、マリアさんの新作も食べたいな。」
マリアは、ニヤリと笑って頷いた。
「いいだろう。次はお前を驚かせてやるよ。」
夜、食堂は笑い声と美味しい匂いでいっぱいだった。
リナとキラと一緒に、テーブルでグリルを食べながら、未来の話をした。
「王都に行くなら、もっと強いモンスターの肉とか、魔法の食材とか手に入るよ。そしたら絶対、もっとすっごい料理作れるって!」
「うん、楽しみだな。キラも、一緒に来てくれるよね?」
キラが、ピピッと鳴いて、僕の膝にすり寄ってきた。
可愛い。
リナが笑いながら言った。
「キラも優の料理にメロメロだね! これから、最高の冒険になるよ!」
この日記、リナがまた紙を貸してくれた。
キラは、僕の足元で寝てる。
明日も、村で新しいレシピを試して、王都への準備を進めよう。
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