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005 禍獣
しおりを挟む色白のムチっとした女性の下半身。
っぽい形をしている白い根菜モンゲエ。
先っぽの二股が艶めかしく絡み合い、足を組んでいるように見えるのが良質だとされている。
主に輪切りにして煮て食べるが、みずみずしい身をすりおろすと辛味が強まり、薬味としても重宝する。焼き魚との相性がすこぶるよろしい。絞り汁は二日酔いとお通じに効くとされている。
一面のモンゲエ畑。
青々とした葉っぱの部分をつかみ、腰にチカラを込めて引っこ抜く。「うんとこどっこいしょ」
とたんに響くのは「もんげー!」という絶叫。
この野菜、元は植物系の禍獣(かじゅう)だったのを食用に品種改良したモノ。
ちなみに禍獣とは、大地の気を受けて自然発生する獣や植物の亜種のこと。
カラダが大型化したり、知能が発達したり、頭に角が生えたり、特殊能力に目覚めたり、体内に魔晶石を宿したり……。
人間や地域の環境と共生しているものから、バリバリに敵対しているものまで、強さも性質もじつにさまざま。
なおモンゲエは、あえて人間のそばに身を置くことで、厳しい生存競争を生き残ったと言われている。
事実、各地にて広く栽培されており、土地や気候にて多様な変化をみせている。
それすなわち適応力の高さを意味しており、確実に数を増やし子孫を残しているので、種としての優良性をも示している。
たぶん国が滅ぼうが人間が死に絶えようが、モンゲエはぬくぬく生き延びることであろう。
「ムチムチ加減がいいほどに、美味しいって言われてるんだよ」
収穫ほやほや、まだジタバタしているモンゲエ。
これを掲げながらわたしが教えると、ミヤビは「ヘー」と感心。
「樽に漬け込んで発酵させたら、またちがった風になるんだ。コリコリしてクセになる味わい。でもシワシワのバアちゃんの垂れ乳みたいになるのが、ちょっとねえ」
モンゲエが動きを止めたところで、背負いカゴの中に放り込む。
今夜のオカズはモンゲエの煮物。母がそう言ったので、わたしはお手伝い中。
「晩御飯の分はこれでよしっと。でもついでにもう二本ばかし採っておこうかな。そろそろ甘酢漬けが無くなりそうなんだよねえ」
モンゲエを薄く切ったものを、甘酸っぱい汁に漬けたモノ。
お茶請けとして人気にて、妹カノンの大好物でもある。
カノンがちょいちょい摘まみ食いをするので、こまめに補充をしておかないと、すぐに壺が空になってしまうのだ。
薄く切ると聞いて、ミヤビが「ぜひともわたくしにお任せて下さい」と俄然やる気を見せた。
勇者のつるぎミヤビ。
自我を持ち自在に飛び回る白銀の大剣。切れ味は伝説級にて、丸太どころか岩をも一刀両断。
しかし牧歌的な里の暮らしにおいて、実力が活かされる場面はかなり限られる。
家の前の芝刈りとか、薪割りとか。布地の裁断とか。
わたしにしたって、ブイブイ乗り回すか、彼女が変じた園芸用のスコップを使う機会の方が断然多い。包丁やナイフとかに変身できたら、ちがったのだろうけれども、小さなスコップ以外にはムリ。いかに勇者のつるぎとて、なんでもかんでもとはいかない。
米や麦の収穫期になればきっと大活躍してくれるのだろうが、それはまだ先のこと。
日常生活において、いまいち必要とされていない。
このことに忸怩たる思いを抱いていたミヤビ。
我が子がお手伝いにやる気を出しているのならば、温かい目で見守るのが剣の母の役目。
ゆえにモンゲエの薄切りはミヤビにお願いすることにした。
◇
きれいに洗ってドロを落としたモンゲエ。
白くツヤツヤ。滴る雫がちょっと色っぽい。
ふつうはまな板にてトントン切るのだが、まな板のみならず下の調理台まで真っ二つになりそうな予感がしたので、ここは用心し屋外にて吊るし切りを選択。
洗濯用の物干しに、収穫したモンゲエをロープでぶら下げ、ミヤビちゃん、いざ参る!
白刃がきらめき、しゃらんとひとふり。
たったそれだけでモンゲエは極薄の束となる。
神速の剣技、炸裂!
白い根菜を切るのに本気を出す勇者のつるぎ。
恐るべき切れ味。見事なまでにツルツルの断面。向こう側が透けるほどの薄さ。
なんてこったい。里長のモゾさんの頭の不毛地帯よりも薄く、あまりの儚さに感動すら覚えるほど。
かくしてミヤビの張りきりもあって、極薄の甘酢漬けを仕込むことに成功するも、味やいかに。
後日、続報をまて!
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