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006 したたか
しおりを挟むモンゲエの甘酢漬けを作るのに、ちょっとハチミツを使い過ぎた。
おかげで我が家の在庫が心許ない。
そこで分けてもらいに、森の奥にある菜の花畑へと赴くことにした。
すると妹のカノンが「自分もいっしょに行く」というので、二人してミヤビに乗って、ふよふよ向かう。
「ねえ、おねえちゃん。ロクエさん、元気にしてるかなぁ」
「心配いらないよ、カノン。ロクエさんはべらぼうに強いからねえ。それにあそこの組は大きいから」
姉妹でそんな会話をしていると、わたしたちを乗せて飛ぶミヤビが「養蜂をなさっている方が、ロクエさんというのですか?」とたずねたので、「そうだよー。でっかいハチさんなの」とカノンが教えた。
子どもほどの大きさにて、六枚の長羽をひらひら揺らし飛ぶ姿が、まるで宮廷にいる貴婦人の衣姿のよう。
ゆえについた名前が六衣蜂(ロクエバチ)。
その女王さまな禍獣がロクエさん。
上質なハチミツをこしらえてくれる養蜂の名人。
よき隣人にて、ポポの里とは持ちつ持たれつの良好な関係。
しかし間違ってもムリ強いをして、相手の機嫌を損ねてはならない。
なぜなら六衣蜂の禍獣はとっても強いから。
怒らしたら、全身が鉄のごとき剛毛を誇る、あのごっつい鎧熊(ヨロイグマ)すらもが、一刺必殺にて即昇天。人間なんてプスリとされて、新鮮なうちにこねこね肉団子、六衣蜂の赤ちゃんたちのエサにされちゃう。
まぁ、優しいロクエさんはめったなことでは怒らないけどね。
◇
小高い丘をすっぽり覆っている黄色い菜の花畑。
中央にデデンとあるのは、背は低いけれども幹が太く、枝葉が幅広くのびている大木。
その洞を入り口にして、地面の下には六衣蜂の地下帝国が広がる。
あいにくと人の身では中に入れないので、どれほどの規模があるのかはナゾ。
ロクエさんのところには先客がいた。
ハチミツ酒を醸造している家の三男坊のサンタ。
わたしとは生まれ年がいっしょにて、学び舎でも同窓。
パッとしない見た目にて、なんら特筆すべき点はない。
いわゆるイケてないガッカリ幼なじみである。
「だれがガッカリ幼なじみだっ! 拾われっ子のチヨコにだけは、言われたくねえやい」
うっかり心の声がだだもれし、サンタが「ふざけんな」とぷりぷり抗議。
美人で爆乳の母、男前かつ精悍な父、超絶かわいい妹を持つというのに、なぜだか祖父に似てしまったわたし。
おかげでこの手の罵詈雑言が、つねに影のごとくつきまとう。
もっともすっかり慣れっこにて、いまさら動じることはない。つーんと無視すればいいだけのこと。
けれども少々事情があるので、ここはあえて言い負かすことに決めた。
「あぁ、確かにわたしはイケてない。分類上はサンタと同じさ。でもね、うちには超絶イケてるこのカノンがいる」
頭をてらてら撫でると、くすぐったいのか愛妹はきゃらきゃら笑う。そんな姿に眼福しながら、わたしは言った。
「同じイケてない者同士でも、この差はとてつもなくデカいぞ。ククク、ほぉうれほれ、羨ましかろう。わたしが日夜、こうやって愛妹とキャッキャうふふと戯れているというのに、サンタはイケてない兄たちに小突き回されて過ごすのさ」
あんたは男臭ぷんぷんの灰色の青春を送る。
それは生まれながらに課せられた呪い。
絶望の未来を提示されたサンタ。涙目になって「チクショー! おぼえてろよ。バーカ、バーカ。チビ、ブス、お前の母ちゃん……くっ、うらやましくなんてないからなーっ! チックショー!」
捨て台詞を吐いて負け犬は何処かへと去っていった。
チクショウが二回。
フム。よっぽど悔しかったんだな。
ちょっと言い過ぎたような気もするけれども、これでしばらくは戻らぬだろう。やれやれ。
「ねえ、おねえちゃん。どうしてあんなイジワルするの? いくら本当のことでもサンタ兄ちゃんがかわいそうだよ」
敗者にも情けをかける心優しき妹。
でもダメなのだよ。
なぜならアレの家は代々ハチミツ酒の醸造を生業としている。そこの三男坊がロクエさんのところに来ているということは、きっと家のお使いにちがいあるまい。
ということは……。
わたしがイケてない幼なじみをいちびった理由を説明しようとすると、いち早く狙いに気がついたのは、ずっとダンマリを決め込んでいた勇者のつるぎミヤビ。
彼女はうちの家族の前以外では、あまり言葉を発しない。案外人見知り屋さんなのだ。
「あっ、なるほど。先に注文をされたらこっちの分が無くなるかもしれない。よしんば足りたとてそれは残りカス。ならば先にと、そう考えたのですね。なんという深謀、冴え渡る知略。そして邪魔者は容赦なく叩き潰す冷たさもまたステキ! さすがですわ、チヨコ母さま」
我が子から存分によいしょされ、妹からは尊敬のまなざし。
わたしはムフンと慎ましやかな胸をそらした。
◇
干し魚十尾と壺一杯のハチミツをロクエさんに交換してもらう。
オマケにもらったアメ玉を頬張りながら帰路につく。
「おいしいねえ、おねえちゃん」
ロクエさんのアメ玉は絶品。なんでもハチミツの製造過程にて発生する栄養満点な希少素材を用いているらしく、数量限定にて幻の逸品。
妹が口をモゴモゴさせつつ満面の笑み。
それを見てわたしは遅まきながらピンときた。
「あっ! カノンってば、もしかしてアメがお目当てでついてきたの? もう、しようがないんだから」
「テヘヘ。バレたか」
「さすがはチヨコ母さまの妹君。とんだ策略家さんですわ」
したたかな姉を持つ妹もまたしたたかであった。
こいつはまんまと一本とられたぜい。
姉妹と勇者のつるぎはそろってケラケラ笑った。
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