剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

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008 棟上げ

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 里に新たな家が建つ。めでたい。
 とはいえ、簡素な丸太小屋だけどね。
 接ぎ木をするように、渡り廊下で母屋と繋がった離れ。
 ポポの里では子どもが六歳になると、自室がわりに小屋を与える風習がある。
 だから子どもが大勢いるお宅ほど、離れもたくさん。
 横並びにずらっと一列に小屋を配置するか、四方八方へとクモの巣のように配置するか、あるいはあえて廊下をもうけず敷地内に分散させるか、家主の感覚と個性が光る。
 この風習は子どもの健やかな成長を祝い、自立心を養うためのもの。
 というのは表向きの理由。
 本当は、「そろそろ次を」という決意表明の意味があるんだとか。
 なにせ同じ屋根の下。
 薄壁一枚隔てたところに我が子がいたら、オチオチ盛れやしないもの。
 せっせとがんばっているところに、寝ぼけた子どもがいきなり扉を開けて「ねえ、お父さんお母さん、二人でギシギシ何してるの?」とか言われたら、猛る大蛇もグッタリへたる。
 不満もろもろ、消化不良。ちりが積もって、家庭内に生じる不協和音。
 絶えず忍び寄る過疎化。その恐怖におののく辺境の里において、とある家族の問題はみんなの問題でもある。
 例えば夫婦生活への不満が高じて、つい魔がさしたとする。
 するとこの時点で危険の根が二つに分かれてにょきにょき。
 双方にて新たな悪芽が出て更にポコポコ……、なんて具合に。
 ポポの里は、ほぼ閉鎖空間のような地域。ひとつの家庭崩壊から、怒涛の負の連鎖なんて起きたら目も当てられない。人心を狂わす痴情のもつれはシャレにならないのだ。
 なんぞという真実を、子どもたちが知るのはもう少し大きくなってからのこと。

  ◇

 今回建てられるのは、わたしの同窓であるエツちゃんの弟ホダカくんの小屋。
 エツちゃんは三つ編みにて物静か。趣味が手芸という、じつに女の子らしい女の子。才芽も針仕事を授かり、その技がますます冴えていると、もっぱらの評判。そして十一歳にもかかわらず、なかなかの隠れ巨乳。
 弟のホダカくんは、そんな姉の血統を継いでいるのか、おしゃぶりを手放すのと同時に木彫りのクマを抱きしめたというほどの、木彫り好き。六歳にもかかわらず拙いながらも、せっせと創作活動に勤しんでいる芸術肌の幼児。
 うーむ。いまから彼の自室が木クズだらけになる姿が目に浮かぶ。

 棟上げの日には里の住人らがこぞって駆けつける。
 男衆は建築作業の手伝いをし、女衆はお祝いの準備を整える。
 すでに組み上がっている小屋の骨組み。
 屋根の一番高いところに相当する棟の木材を、滑車とロープを使ってはめ込む。
 ロープを引くのに「えんやこら」協力する里の老若男女。
 鈍い音がしてがっちり木材同士がかみ合う。
 棟が完成したところで、やんやと拍手。
 集ったみなが見守る中、神父さまがうにゃうにゃ祝詞を唱え、小屋とホダカくんに祝福を与える。
 続いて家主のご挨拶。
 それが終われば、ようやく待ちに待った宴会に突入!
 持ち寄ったごちそうやお菓子は早い者勝ちにて、食べ放題。
 ここぞとばかりに貴重な甘味に群がり、競うようにしてむさぼる子どもたち。
 酒も樽ごと大盤振る舞いにて無礼講。
 いつもは里で唯一の酒場にて、チマチマ飲んでいるシケたおっさんどもも、ここぞとばかりにハメを外す。

  ◇

 勃発する熾烈な卓上の戦い。
 並みいる強豪をねじ伏せ、酒蔵の三男坊であるサンタを叩きのめし、わたしは皿一杯のお菓子を確保。

「チクショー! おまえなんて、丸まる太ってブタにでもなっちまえ」

 サンタという名の負け犬の遠吠えが聞こえたような気がするも、きっと気のせい。
 ふふんと鼻高々にて戦利品を誇るべく、わたしは愛妹カノンのもとへと向かう。
 しかしすぐにガックシうな垂れることになった。
 なぜなら、すでにカノンの前には献上品が山と積まれていたから。
 しまった! 戦いに夢中になるあまり、悪い虫の接近を許してしまうとは……。なんたる不覚。
 くそっ、あの戦いに意味はなかったというのか?
 朋輩たちの屍を越えた先が、こんな無残な結末だったなんて。

「だいじょうぶですわ、チヨコ母さま。わたくしは、その勇姿をしかと目に焼きつけましたとも。必ずやこの偉業を後世にまで末永く伝えてみせましょう」

 宙に浮きつき従う勇者のつるぎミヤビに慰められていると、おずおずと近づいてきたのは、本日の主役であるホダカくん。
 何ごとかとおもえば「ミヤビに乗ってみたい」とのおねだり。
 普段ならば気安く応じることはできない。ミヤビがあまりやりたがらないから。
 が、本日は祝いの席にて特別。「しようがないなぁ」と乗せてあげることにした。

 わたしとホダカくんをのせた白銀の大剣が、ふよふよ空へと舞い上がっていく。
 まずは彼の自室となる小屋の棟の高さまで。
 しばしそこにてみんなの羨望と声援を一身に集めてから、更に上へと。
 より空に近く、眼下に里が一望でき、世界の広さを実感できるところまできたところで、「小さくまとまってんじゃねえぞ。大きくなれよ」と、わたしは人生の先輩としてえらそうなことをのたまってみた。
 するとホダカくんは、しばしわたしの胸元をじーっと見つめてから「そうだね」とぼそり。


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