9 / 81
009 釣り
しおりを挟む「うひゃひゃひゃひゃ」
幻想的な霧けむる湖畔。
静かな水面に響くのは乙女の嬌声。
えっ、誰の声かって?
わたしだよ。ポポの里の可憐な花一輪、チヨコだよ。
いやはや、しかし笑いが止まらないねえ。
予想したとおり。ここの魚はちっともスレてないから、ずっと入れ喰い状態。
おかげでわたしの竿がちっとも休めやしないよ。
すぐに魚籠がパンパンになってしまいそう。こんなことなら大きな背負いカゴでも持ってくればよかった。
ちなみにここがどこで、なぜわたしが釣りに勤しんでいるのかというと、時を少しばかりさかのぼる。
◇
今朝、父母妹と朝食を摂っていたら、ふいに「新鮮な魚が食べてえ」と思った。
なんの脈絡もない。
ただカラダが欲したのである。
串に通し、岩塩をふった魚を炭火でじっくり。パリッと焼けた皮、じわっとにじみでる旨味成分、ぷりぷりの白身……。そいつをガブっとはふはふ。
なんぞという心の声が、自然とわたしの口からだだ漏れ。
すると家族がそろってゴクリ。
「そういえば、ここのところ干物ばかりだったわねえ」と母アヤメ。
「養殖池のは、いまの時期まだ小ぶりだから」とは父タケヒコ。
「カノン、おいしいお魚が食べたいなぁ」
愛妹がちょっと悲しそうにぽつり。
わたしは即断した。「よし、お姉ちゃんにドンとまかしとき!」
思い立ったら即行動。
わたしは釣り道具一式を手に、勇者のつるぎに乗る。
ギューンとブイブイひとっ飛び。
向かった先は、ポポの里の北東部。
深い森を抜けると見えてくるのが、トンガリ帽子のような形をした山三つ。
これに囲まれるようにしてあるのが、ソラ湖。
近隣では一番大きな湖。深さはわからないけども、かなりの深淵とのウワサ。
里から湖までの道程は、けっして楽なものでない。
けっこうな難所続きにて、大人の足でも四苦八苦で数日がかり。
ミヤビがいないと自力来訪はムリ。
でもそんな場所だからこそ、人があまり立ち入らない絶好の釣り場だろうと、わたしは考えた。
◇
わたしがにらんだ通り、釣果は上々。
満足したので、そろそろ引き上げようと準備をしていたら、聞こえてきたのは「おいてけえ、おいてけえ」というナゾのしゃがれ声。
山奥ではときおりふしぎなことが起こるもの。
だからムシして帰り支度を整えていると、声がしつように続く。
あんまりにもしつこいから、わたしも根負け。
「金ならないぞ。あと乳もない。だから他を当たれ」
するとザワザワ揺れだす湖面。
心なしか周囲の空気すらもが、ビリビリ震えているような。
いかにも大物が登場するぜい。という雰囲気にて身構えていたら、案の定、ソラ湖の底からぬらりと姿を見せたのは、超デカいカメ。
里で唯一の二階建て建築である里長の自宅兼役場よりも、ずっと大きい。苔むした甲羅の中からにょきっとのびた首だけで、うちの里では一番背が高い教会の鐘楼ほどもある。
あまりの巨体に、わたしあんぐり。
固まって見上げていたら、デカいカメがあきれた調子にて言った。
「バカタレ。ワシがおいていけといったのは、魚籠の中にいる子持ちの魚のことじゃ」
デカいカメの主張はこうだ。
お腹にタマゴを抱えるメスを乱獲されると、湖の生態系がおかしくなる。
それにこれから出産という難事に挑もうとする生命に、敬意と慈悲を示せ。
もっともなご意見である。
わたしは素直に従い、子持ちの三匹を放流。
放たれた三匹は、ゆるゆる湖の底へと消えていく。
それを見送りながら「オスはいいの?」とたずねたら、カメは「かめへん」とにやり。
……どうしよう。
ここはウソでも愛想笑いのひとつでも浮かべるべきか。それが大人の対応なのかしらん。
わたしが苦慮していると、ミヤビが「しけたおっさんの酔漢どもといい勝負ですわ」とバッサリ。
さすがは勇者のつるぎ、カメの戯れ言なんぞ一刀両断。
場の空気を読むことなく斬り伏せてしまうとは、おそるべき切れ味。
あまりにも切れすぎて、わたしはちょっといたたまれない。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる