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010 年の功
しおりを挟むソラ湖で出会ったデカいカメは、湖のヌシさまだった。
めっちゃ歳寄りで、めっちゃ物知りで、めっちゃ大きなガタイをしており、これでグルグル回りながら空も飛べるらしい。
なんでもうちの里ができるより、ずーっと昔からここに住んでいるんだって。
で、カメの金禍獣(きんかじゅう)でもあると教えられて、わたしはビックリ仰天!
大地の気を受けて、ポコッと自然発生する獣や植物の亜種。
それが禍獣。
ひと口に禍獣といっても、じつに様々。
あえてざっくり分類すると金銀銅の三つになる。
銅禍獣は、獣や植物が凶暴化したような存在。強さはまちまちだけれども、総じて腕っぷし自慢。ちょっと調子に乗ってイキっているちんぴら風。小物臭ぷんぷん。
目があったら「何、ガン飛ばしてんじゃ! やんのか、こらぁ」といった感じ。
これが銀禍獣になると、とたんに落ち着く。
強さと貫禄を備えた親分肌にて、たいていが地域の顔役みたいな存在として君臨。縄張りを持ち、群れを率いていることも多い。
でも金禍獣はちがう。
完全に別格。
各種能力がずば抜けており圧倒的。人間にしてみればナムナム拝む対象。生き神さまのような超自然的存在。
怒らしてもいいことは何ひとつない。下手をしたら国が亡ぶ。おだてて良好な関係を築くのが無難な相手である。
まぁ、圧倒的強者は、そのチカラゆえに寛容。だいたいが優しいとの話。
キャンキャンやかましいのは、下っ端と相場が決まっているのだ。
ソラ湖のヌシさまもまたおおらかな気質。子どものおいたぐらいでは目くじらを立てない。せいぜい「あかんよー」とやんわり諭す程度。
そんなヌシさまは、わたしと背後で浮かんでいる白銀の大剣の姿を見て、すぐにこちらの正体に気がついた。
「ほうほう、剣の母とな。また難儀な役目を負わされたものよ。毎度のことながら神もムゴイことをする。いろいろ大変じゃろうが、まぁ、ほどほどにのぉ」
ヌシさまの瞳には優しさを通り越して、憐憫がたっぷり。
伝説級の存在から、めちゃめちゃ気の毒がられるわたし……。
そうかー、これから大変なのは確定なのかー。
今後の展開に想いをはせ、しばし岸辺にて膝を抱え独り現実逃避。
へへへっ、湖面のさざ波の音がやけに胸に染みやがるぜ。くすん。
◇
ガックシへこむ剣の母。
それを尻目に、ヌシに話しかけたのは勇者のつるぎミヤビ。
「わたくし、じつは少々悩んでおりますの。長命たる先達として、よろしければ助言を賜りたいのですが」
勇者のつるぎとして、世に生を受けたこの身。
敬愛する母チヨコ、そのご家族との生活はとても楽しい。里の暮らしも興味深い。
けれども、ふと我が身をふり返ってみれば、やっていることといったらチヨコ母さまを乗せてブイブイ飛び回っているか、スコップに変じて花壇の世話を手伝っているか。
朝昼晩、毎食前に台所から聞こえてくる「トントントン」という軽妙な包丁の音。
これを耳にするたび身につまされる。
「あれ? わたくしってば、じつはあんまりお役に立っていないのでは」
使用される頻度、家への貢献、もたらすであろう恩恵、その他もろもろ……。
どれをとっても包丁に負けている、勇者のつるぎ。
不甲斐ないと己を嘆くミヤビ。
けれども、この話を聞いたヌシは「ふぉふぉふぉ」と笑って巨体をゆらす。
「神妙な面持ちゆえに、なにごとかとおもえばそんなことか。いいのじゃよ。ミヤビ殿がチカラを使わずにいられるということは、オヌシの敬愛する剣の母チヨコが、それだけ平穏に過ごせているという証。だから堂々としておれ。そしていざという時には存分に、その白刃にて悪漢どもを懲らしめ邪を討つがよいぞ。なぁに、焦らずともこれからイヤでも活躍の機会はじゃんじゃん来る。ワシが保証しよう。だからいまはどっしりかまえておれ」
◇
ソラ湖周辺は静かな環境。
ゆえに自然とわたしの耳にまで届くヌシさまとミヤビの会話。
一見すると、母親想いの優しい子どもの悩み相談。
でも、よくよく考えたら「勇者のつるぎが包丁に嫉妬する話」である。
危ない危ない。赤いスコップに続いて、我が家の包丁までもがご臨終するところだったよ。
さすがは年の功。
良い話っぽくまとめてくれたヌシさまに感謝!
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