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011 来訪者
しおりを挟むソラ湖での釣果を引っさげてのようよう凱旋。
金禍獣であるヌシさまと会って言葉をかわしたと教えてやれば、妹のカノンはさぞかし驚くことであろう。
ポポの里の入り口手前。
わたしはミヤビから降りて徒歩へと切り替える。
剣の母となり、勇者のつるぎであるミヤビを授かってからというもの、わたしの行動範囲は劇的に広まった。
が、それゆえに新たな問題も生じる。
いつでもどこでも、気ままに飛び出せるのは、とっても便利。
でも大人たちからすると、ヤキモキさせられる。子どもが勝手をしてギューンと飛び立つのは、ものすごく心配。
いくら勇者のつるぎに守られているとはいえ、だ。
そこでチヨコと里の大人たちの間でとり決められた約定が、コレ。
外へと出るときには、かならず里の出入り口を通過すること。
こうすれば少なくともいつ出かけたのか、どれくらい戻っていないのかが把握できるから。
◇
蹴ったら崩れそうな粗末な里の門。
近づくと縁台にてウトウトしている老爺の姿。見事な鼻ちょうちんをこさえている。
彼の名前はロウさん。
隻眼隻腕隻足にて杖が手放せない、やや腰の曲がった老人。
容姿だけ見れば「どこの戦場帰りの古強者だよ!」と、ツッコまずにはいられないズタボロ具合。
なのに門番であり(唯一)、衛士であり(唯一)、里の自警団の団長(非常勤)でもある。
日頃はボケボケしており、耳も少し遠い。
けれども、ひとたび仕込み杖から刃を放てば、目の前の敵をたちまち一刀両断。すさまじい剣技の持ち主にて武芸百般。
ミヤビにして「あと六十若ければ」と惜しむほど。
ロウさんは生まれてくる時代をまちがえた。世が世ならば勇者候補筆頭であったというのに。あぁ、運命は残酷にて、時の流れは無情なり。
わたしは道端に落ちている小枝を拾う。
枝の先っぽにて鼻ちょうちんをブスリ。
パチンとはじけて、「ふへ」とロウさんが目を覚ます。
寝ぼけまなこのロウさんに帰還の挨拶。ついでに魚を一尾おすそわけ。
で、通り過ぎようとしたところ、すぐそばの草むらにて転がっている不審者を発見。
マントを羽織った旅装の黒髪の青年が、脳天にでっかいコブを作って無様にのびている。
「ロウさん、この人だぁれ?」
わたしがやや声を張りあげると、「あぁ、なんか知らんが、いきなりケンカを売ってきおったから叩きのめした」とのこと。
それを聞いてわたしは「またか」と苦笑する。
このロウさん。いつもウトウトしており、基本的には人畜無害だ。畑のカカシと変わらない。
けれども、それは仮の姿。
眠れる獅子にちょっかいを出したら、えらいことになるのは必定。
うっかり殺気や敵意や害意、よからぬ考えなんぞを抱けば、たちどころにカラダが反応して、勝手に迎撃。閃く刃が問答無用で襲いかかる。
里の住人たちは承知しているけれども、外部の人間はそこのところが分かっていないから、ときおり起こる悲しいすれちがい。
わたしはのびている青年の手を調べ、「やれやれ」
農民とはちがう固さ。ごつごつした指にて剣ダコもある。これは武器を扱う者の手だ。
この兄ちゃん、たった一人で辺境を旅するだけあって、相応に腕が立つみたい。でも、だからこそ悲劇に見舞われたな。
腕に覚えアリ。
そんな旅の青年がまどろむ老爺を発見。
起こすのも気の毒だし、そのまま静かに通り過ぎようとするも、ハタと気がつく。
老爺の内より漂う、ただならぬ気配に。
つい腰の剣に手をのばしたのは、カラダに染みついた武による条件反射か、戦人の本能ゆえか。
カチャリとかすかに鍔鳴り。
それが戦いの開始を告げる合図となったことを青年が知ったときには、その身はすでに地べたに臥して朦朧となった意識の中……。
大方はそんなところであろう。
わたしは「はぁ」とタメ息をつき「もう、しょうがないなぁ」
見つけてしまったものを、放置しておくわけにもいかない。
のびてる青年の足首にロープを結びつけると、ミヤビに手伝ってもらい、そのままズルズル引きずっていく。
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