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012 呪い師
しおりを挟む里の入り口に転がっていた旅の青年。
放置して風邪とかひかれて、それが里で大流行とかはかんべんなので、しぶしぶ保護する。
ミヤビに手伝ってもらいロープで引きずりながら、わたしたちが向かったのはハウエイさんのところ。
ハウエイさんは、赤いもじゃもじゃ頭をしている呪い師の老婆。
呪い師ってのは、魔術師と医師の中間のようなもの。
ほどほどに広く深い知識と経験を持ち、薬学および薬草学にも詳しく、中央より遠く離れた辺境の暮らしを支えてくれている、ありがたい存在。
ちょっとうさん臭いところもあるけれど、ぼったくりな本職連中に比べると料金はぐっとお安くなっており、庶民の味方でもある。
えっ、モグリ? そんな言葉、辺境には存在しない。
◇
里の東の端っこ。
周囲の緑に埋もれるようにしてあるのは、苔むした石組の丸屋根の建物。そこがハウエイさんの家。半地下になっており、冬温かく夏涼しい異国の建築様式。
このことからもわかるように、彼女は他所からこの土地へと流れてきたクチ。
なんでも、かつてピッチピチのムッチムチのぷりんぷりんにてお色気ムンムンの頃には、某国にて宮廷医師兼王さまの愛人をしていたそう。王の寵愛と妬み嫉みを一身に集めて我が世の春を謳歌していたものの、王の暗殺事件に巻き込まれ泣く泣く出奔。人生流転の果てにこんな僻地にまで。
……という設定になっているが、真偽のほどやいかに?
あくまで自己申告ゆえに信憑性はかなり低い。
ちなみにわたしは、ピッチピチのくだりからして眉唾だと疑っている。
少なくともわたしが知る限りでは、ハウエイさんはずっとしわくちゃのバアちゃんであるからして。
樽に漬け込んだ三年物のモンゲエといい勝負。垂れ乳のしわしわ具合なんてそっくし。
「だぁれがしわしわの漬物かっ! さっきから人の家のまえでブツブツやかましい! うん? 誰かとおもえば、チヨコではないか」
扉を開けて自主的に姿をみせてくれたハウエイさん。
こちらはロウさんとちがって、耳がまだまだ達者。
ハウエイさんは地面に転がっている黒髪の青年の姿に、「見かけない男だね。ってことは、もしかして、またかい?」と言ったので、わたしはコクンとうなづく。
「あんのボケジジイめっ! 毎度毎度、尻ぬぐいをさせられるこっちの身にもなりやがれ。薬を調合して、いい具合に記憶を飛ばすのだって、簡単じゃないんだよ!」
ハウエイさんの赤いもじゃもじゃ頭が、怒りにて焔のようにゆれている。
ことの経緯はともかく、結果としてポポの里の門番が、来訪者をぶちのめしたという事実は残る。うっかりヘンなウワサでも流れたら、どうなることやら。
世間体を気にした里長、これをもみ消すことに決める。
都合の悪い事実にはフタをする。それが大人の処世術。
で、毎度毎度、ケガ人が担ぎ込まれるハウエイさんこそが、いい迷惑というわけ。
「……にしても、今回はまたえらくハデにやられたねえ。全身、打ち身に切り傷であざだらけ。ボロボロじゃないか。ふむ。よく鍛えているみたいだし、それだけこやつが手強かったということか」
青年の脇にしゃがみ込んで診察をはじめたハウエイさん。神妙な面持ちにて、そんなことを口にする。
わたしは素知らぬふりにて顔をツイとそらす。「へー、そうなんだぁ」
じつはロウさんが与えたケガは頭部のコブだけ。残りはうちの子が、乱雑に引きずり回したせいだなんて、とても言えやしないよ。
理由は不明だが、どうもミヤビは殿方があまりスキではないらしい。
うちの父さんや小さな子ども以外には、かなり当たりがキツイし、ロクすっぽ口も利かないし。たんに人見知りで照れているだけなのかと思っていたのだけれども。
フム。この分だと彼女に選ばれる勇者さまは女性になるかもね。
ケガ人をハウエイさんに押しつけて、わたしは「じゃあ、あとはよろしくー」
でも目敏いハウエイさんに、ちゃっかり鮮魚を三尾もまきあげられた!
なんてこったい!
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