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013 ブチョウ
しおりを挟む勇者のつるぎミヤビ。大剣である彼女が変じた白銀のスコップを持ち、花壇の手入れに勤しんでいたら、「おねえちゃーん」との声。
カノンがとてとて駆けてくる。
勢いよく突っ込んできた愛妹。
ぽふんとわたしは優しく受け止める。
日に日に当たりが強くなっているね。スクスク成長している証拠。うれしい反面、もうちょっとゆっくりでもいいのに。そう考えちゃうのは姉のワガママであろうか。
「おねえちゃん! おねえちゃん! 畑にブチョウが来てるよ!」
飛び跳ねんばかりに興奮しているカノン。「はやくはやく」と急かされ、手を引かれるままについていく。
◇
畑の真ん中にて佇むノッポなトリ。
岩石のような色味の羽毛。全体が縦長のカラダ。首も足もひょろ長い。目元は切れ長にてまつ毛も長い。でもクチハシだけはぷっくりしている。
それが器用に一本足立ち。
しかも風が吹こうが、人が近寄ろうが、微動だにしない。
置物か? と疑いたくなるほどに不動。
だが、まごうことなく生きている。
少し離れたところから、わたしたち姉妹はブチョウの観察を開始。
しばらくすると背後から土を踏みしめ、何者かが近づいてくる音がした。
妹はブチョウに夢中なので気がついていない。
小さなスコップに変じているミヤビが手の中で警戒するも、わたしはこれをなだめる。
つい先日、里の入り口で拾ってハウエイさんに丸投げした旅の青年だったからだ。
「嬢ちゃんが助けてくれたと呪い師に聞いた。世話になったな、オレの名はホラン」
わざわざお礼を言いに来たらしい。律儀な旅人だな。たいていは旅の恥は垂れ流して放置なのに。あと、あらためてしげしげ眺めるとなかなかの男ぶり。この分では里のお姉さま方が、裏でさぞかし騒いでいることであろう。
挨拶もそこそこに、わたしは「気にすんな」と応対。なにせ今はそれどころではない。
再び視線を畑にいる観察対象へと戻す。
姉妹の熱心な様子に興味を覚えたのか、ホランは立ち去ることなく、「アレは?」と声をかけてきた。しようがないので教えてあげる。
「あれはブチョウだよ」
「なんだ? その哀愁漂う中間管理職みたいなヘンテコな名前は」
「正式な名前は知らないよ。でもあの落ち着いた雰囲気と佇まい。そしてほどよい草臥れ具合。あと渋い声でありがたいお言葉を口にするから、里の子どもらはみんなそう呼んでいるの」
「いい声? お言葉? あのトリが?」
「そうだよ。おっ、ウワサをすればそろそろかな」
まるで微動だにしなかったブチョウ。
その顔がいつの間にかこちらを向いていた。
長いまつげがピコピコ、ゆっくりと開かれるクチバシ。
ノドの奥から流れてきたのは、五十代を迎え、酸いも甘いもかみ分けた大人の男の落ち着いた声音。
そして語られたのは……。
『おっぱいだの、お尻だの、不毛な争いはもうヤメな。それは月と太陽を比べるようなものさ』
酒場でおっさんどもが集まれば、必ずといっていいほど話題にのぼるお題。
ときに議論が白熱して、取っ組み合いとなり、血が流れることさえあるという。
世界各地にて幾度もくり返される悲劇。
それを食い止める英知を授けてくれたブチョウ。
やはりできる大人はひと味ちがう。
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