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014 四天王
しおりを挟むバサリと大きくツバサを広げ、ひと仕事終えたブチョウが悠然と飛び去って行く。
遠ざかる背中に向かって、ぱんぱん手を鳴らし拝みながら見送る姉妹。
カノンはさっそく紙と竹炭筆を取り出し、いそいそブチョウのお言葉を書き記す。
そんなわたしたちの様子に戸惑いを隠せないホラン。
「えーと……。あれが、その、例のありがたい言葉とかいうやつなのか?」
「そうだよ。いま、里の子どもたちの間では、ブチョウのお言葉を集めるのが流行しているの。あとで互いの分を持ち寄って、冊子にまとめるんだってさ」
疑問に答えてやったら、ホランが黙り込んでしまった。
まぁ、外からきた者には、里の高尚な文化をすぐに理解できるわけもないか。
っと、ここでホランの耳に入れておくべき追加情報があったことを思い出し、わたしはコホンと軽く咳払い。
「あー、ホランさん。ポポの里にしばらく滞在するつもりならば、これだけは覚えておいてちょうだい。まちがってもブチョウには手を出さないように。ああ見えて銀禍獣なんだ。ひょろっちいからって、舐めた態度をとったらボッコボコにされるよ」
ブチョウについての注意事項を伝えるついでに、四天王についても言及しておく。
ポポの里の四方にて君臨する四体の銀禍獣。
東のタケノコ。
西のブチョウ。
北のロクエ。
南のマオウ。
これを総じて、ポポの里では四天王と呼ぶ。
「えっ、ここには魔王がいるのか!」
驚くホラン。あわてて腰の剣を抜こうとする。
わたしはすぐに「ちがうちがう」と彼のかんちがいを訂正。
「字がちがうよ。『魔王』じゃなくって、『馬王』と書いてマオウだよ」
漆黒のたてがみ、たくましい四肢、全身ムッキムキのバッキバキの筋肉の鎧に包まれた、黒馬の銀禍獣マオウ。
身の丈は家ぐらいもあり、大抵のモノはひと踏みでぺしゃんこ。もしくはひと蹴りで粉砕する。やたらと歯並びのいいアゴのチカラも相当で、丸太ぐらい軽くムシャコラ。
その辺をのしのし歩いているだけで、ずっと向こうにあるお宅の食器棚がカタカタ大合唱。
マオウの前に道はなく、マオウが通ったあとが道になると言われるほどに、本気の走りはシャレにならない。
「まぁ、だから嵐のあととかに、倒木の撤去や道路整備の手伝いをお願いするんだけどね。見た目はおっかないけれども、アレで案外子ども好きなんだよ。特にうちのカノンはマオウのお気に入りでねえ」
「うん。カノン、マオウさんととってもなかよしだよー」
説明しながら頭を撫でると、妹がうれしそうに笑う。
ホランは若干顔が引きつっていたが、わたしは気にせず説明を続ける。
北のロクエは、四天王の紅一点にて六衣蜂の銀禍獣。
おいしいハチミツを分けてくれるよき隣人。菜の花畑の地下に広がる六衣蜂帝国を支配する女王とは思えないほどに、気さくなお方。なにせわたしのような里娘が出向いても、ふつうに応対してくれるしね。
ブチョウについてはすでに述べてあるので省略。
最後は東のタケノコ。
植物系の銀禍獣にて、ポポの里の東部にある竹林の支配者。
その容姿は竹でこしらえたヘビのオモチャにとてもよく似ている。ただし、直径は丸太並みだけどね。節々したカラダにてガシャコンガシャコンと動く。
見た目こそはふざけているけれども、怒らせるとたぶん四天王で一番厄介な相手かもしれないと、もっぱらの評判だ。
「なっ! そんなに恐ろしいチカラを持つ禍獣なのか?」
おののくホラン。顔色が少し悪い。
辺境一人旅にて腕に覚えアリのわりには、けっこうビビりだな。
やだ、ちょっとオモチロイ。
「まぁね。なにせ怒らせたら、辺り一帯がすべてワサワサ竹に侵略されちゃうんだから。家の中だろうが、畑だろうがおかまいなし。あの繁殖力は脅威だよ。そして竹ってやつは容赦なく日光を遮るから、他の植物はほぼほぼ全滅。環境と生態系を木っ端みじんにする姿は、まさに破壊の権化。あげくにヤブ蚊が大量発生して、うっとうしいったらありゃしない!」
農家にとっては天敵のような銀禍獣タケノコ。
けれども竹は迷惑なだけではなく、超有用な側面をも併せ持つ。食用から細工物、建築の素材に燃料まで。使い道は多岐にわたり、創意工夫次第で可能性は無限大。
ゆえに先人たちは闇雲に敵対するよりも、互いに歩み寄って手を携えて生きる道を模索した。
しかしけっして楽な道ではなかったという。
ときに語らい、ときに激論を戦わせ、ときに酒を酌み交わし、ときには拳を交え、カラダとカラダ、魂と魂のぶつかり合いがあったればこそ……。
なんぞと里の年寄りたちはえらそうにのたまうが、たぶんちがう。きっとひたすら平身低頭にて、泣いて縋って媚びへつらったのであろう。
そもそもアレと殴り合うとか、ぜったいにムリ。
◇
四天王についてひと通りの説明が終了。
「何なんだこの里は? あの門番の老人といい、四天王といい、ヤバ過ぎるだろう。どうなっていやがる……」
ブツブツつぶやきながら自分の世界に入ってしまったホラン。
戻ってくるのを待つ義理もないので彼を一人残し、わたしとカノンは連れだってその場をあとにする。
「ねえ、カノン。ブチョウのお言葉はどれくらい集まったの?」
「このまえ、みんなで数えたら二百をこえてた」
目標は五百にて、まだまだ道半ば。けれども必ず達成する所存であると、決意も新たにムフンと鼻息の荒い我が妹。
わたしはニコニコ自慢の妹の頭をなでなで。
ついでにずっとダンマリを決め込んでいた、白銀のスコップに変じているミヤビもなでなで。
なにせ勇者のつるぎはヤキモチ焼き。
嫉妬が高じると対象を切り刻んで埋める癖があるもので。
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