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017 キノコ汁
しおりを挟むここは呪い師のハウエイさんのお宅。
わたしはいま調理中。囲炉裏の火にかけられた鍋をぐるぐるかき回して、じっくりコトコト、キノコ汁を作っている。
すぐ隣では診察が行われている。
リンゴ狩りの際に、ゴウサワンの投げた固い実を横っ腹に喰らったホラン。そのまま悶絶して気を失う。
放置しておいたら森の仲間たちのオヤツ、もしくは里のお姉さま方に喰われかねないので、とりあえず運んできた。
ハウエイさんは折りしも食事の支度中。
診てくれるかわりに、わたしは鍋長官に任命されてしまったというわけさ。
診察の結果、ケガはたいしたことがないとのこと。
「腐っても影矛だねえ。少々ヌケちゃあいるが、カラダだけは頑丈だよ」
狭い里のことにて秘密なんてあってないようなもの。とっくに身分がバレているホラン。
ピシャリとアザになっている箇所を叩くハウエイさん。
ひょうしにホランのカラダがびくんと痙攣した。
◇
ハウエイさんと完成したキノコ汁をすすっていたら、「うーん」と目を覚ましたホラン。「痛てて」と脇腹を抑えながら、むくりと起きた。
で、開口一番「いいニオイがする」
「キノコ汁だよ。食べる?」ときけば「喰う」との返事。
湯気の立つ木椀を受け取ってズルズルするなり、ホランは「うまっ!」と声をあげた。
「なんだこれ……、うますぎる。本当に嬢ちゃんがこれを作ったのか? いやはや恐れ入った。ただのムカつくチビスケかと思っていたが、やるじゃないか!」
そこはかとなく失礼な物言いに、わたしのこめかみがピクリ。
白銀のスコップに変じて懐にいるミヤビも同様。
しかし、いちおうは褒めているみたいなので、わたしは「まあまあ」とミヤビをなだめて大人の対応に終始。食事中だしね。
遠慮することなくおかわりを所望するホラン。
わたしが木椀におかわりをよそってやると、「そういえば、嬢ちゃんは水の才芽もあったんだよな。ひょっとしてキノコ汁の味もそのおかげか」
水の才芽は、わたしが手ずから関わった水の品質を飛躍的に高めるチカラがある。
井戸から汲んだ水が美容効果を持ちお肌がつるつる。ジョウロに入れた水を注げば花木がよろこび、お茶を淹れれば妹カノンがよろこぶ。
このチカラを使えば、理論上、自分のオシッコすらもが出した端からグイグイ飲める状態になると考えられるが、さすがにそれは試していない。
よしんば誰かに「ぜひ試してみたい」と請われても、わたしは勇者のつるぎの刃でもって答える所存である。
そしてキノコ汁の味に関しては、ホランの読みは半分正解で半分ハズレ。
わたしは首を横にふった。
「ちがうよ。このキノコ汁が格別美味しいのは、ダケさんのおかげだよ」
「ダケさん? 誰だそれは」
「誰って、そこにいるじゃない」
わたしは上を指差す。
薬の材料となるいろんな乾燥した植物が吊り下げられてある天井。それらにまじって、一本の大きなキノコがぶら下っている。いや、正確には天井から生えている。
あまりにも前衛的な柄は個性が強すぎて、毒々しいという言葉がよく似合う。
巨大キノコの名はオシャレダケ。
通称ダケさん。
菌類の銀禍獣にて、ハウエイさんのところの居候。見た目はこんなだが、ちゃぷんと湯につかれば、風味豊かないいお出汁がでる。
ダケさんが短い手をシュタっとあげて、「おっす、おら、ダケ。よろしくな」
爽やかにあいさつをされたホランが口の中身を盛大に噴いた。
飛沫にて食卓にばっちい虹がかかる。
やれやれ。いい歳をした大人のくせに、食事の作法がまるでなっちゃいないよ。
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