18 / 81
018 里の事情、中央の事情
しおりを挟む部屋、厠、食卓にその他もろもろ。
自分で汚したのならば、自分でキレイにするのが当たり前。
だから雑巾片手に床を拭いているホラン。ぶつくさ文句を言いながらも、せっせと手を動かす。
「そもそもの話、ここの里はおかしいんだよ。門番はやたらと強いし、どうしてこんなに銀禍獣だらけなんだ? おっと、辺境だからなんていう答えは却下だからな。そもそも他所にはこんなにいやしねえよ。銅禍獣ならばともかく、銀禍獣なんて一体でもいたら、けっこう大ごとなんだ。下手をしたら軍の大規模な討伐隊が派遣されるんだぞ。それを……」
ポポの里の常識、他所さまの非常識。
ところかわればではないが、己の生まれ育った環境が、他とはちょっぴりちがうことを知り、軽く衝撃を受けるわたし。あらためて田舎者であることを痛感。
「くっ、これが都会の洗礼か」
「チヨコ母さまには、わたくしがついておりますわ。だからどうか気をしっかりお持ちになって」
地味にへこみ、うろたえる剣の母。
それを気遣う勇者のつるぎ。白銀のスコップに変じたままなので、懐内にてもぞもぞ。ちょっとくすぐったい。
そんなわたしたちのやりとりを横目に、黙々と食事を続けていたハウエイさん。完食にて箸を置き、四つん這いになっているホランをじろりとねめつける。
「どうしてかだって? そもそも国が何もしてくれないからだろうが。そのくせきっちり税だけは絞りとりやがる。なんら恩恵を与えることなく、搾取だけは一丁前。そんな中で里が生き抜くには、共生の道を模索するしかなかったんだよ。悪いけど、わたしらにとっちゃあ、聖都でふんぞり返っているだけの皇(スメラギ)よりも、このダケさんの方がよっぽどありがたい存在だね」
ハウエイさんから褒められて、照れるダケさん。「よせやい。尻のあたりがムズムズするじゃないか」
巨大キノコが身をよじったひょうしに、胞子がぽろぽろ落ちた。
生きるためと言われては二の句が繋げず、ホランは黙り込むしかない。
そこへ畳みかけるようにして、ハウエイさんがある質問を放つ。
「チヨコの件で、影矛であるあんたが真っ先に出張ってきたってことは、何かあるんじゃないのかい? 中央に」
ぎくりと固まったホラン。じつにわかりやすい。とても皇の命令で動く隠密とは思えぬほどに反応が素直。根が正直者なのだろうけれども、この分では剣の腕は上から数えた方が早いという、彼の言葉も怪しいものである。
しばし緊迫した沈黙が続いたのちに、先に折れたのはホラン。「ふぅ」とタメ息にてボリボリ頭をかき、「わかったよ。話せばいいんだろ、話せば」
◇
神聖ユモ国第四十九代目・皇・ワシュウ。
治世は良好にて、可もなく不可もなくといったところ。
そんな彼には三人の妃と三人の子がいる。
一見すると、皇のもとで固まっているようにみえる現政権。しかし水面下では熾烈な権力闘争と派閥争いがくり広げられていた。
これはもう国や王族の宿命みたいなもので、いまさらなこと。
なかでも特に激しくやりあっているのが、第一妃シンシャと第二妃メノウ。
双方が高位貴族の出身にてとにかく鼻っ柱が強い。実家を中心にした派閥を抱え、狙うは次期皇位。なんとしても我が子をと躍起になっている。
そんなときに、ふってわいたのが「剣の母」である。
強大なチカラを秘めし天剣(アマノツルギ)を産み出す乙女。神に選ばれ、尊い使命を与えられし者。これすなわち天の御使いなり。
権威と箔づけには、またとない存在。
もしも自分の陣営に組み込めれば、皇位争いにおいて俄然有利に立てるにちがいない。
双方ともにこの考えに至たるまで、さして時間はかからなかった。
で、次に起こったのが壮絶なる駆け引き。
「誰が『剣の母』を迎えに行くのか」
使節団として赴けば、必然的に聖都へと到着するまでの長い時間をいっしょに過ごすことになる。礼儀作法や各種事情など、アレコレ相談に乗ったり指導したりする立場を担うがゆえに、イヤが応にも築かれる信頼関係。
ましてや相手は右も左もわからない、辺境の年端もいかぬ田舎娘。
それがいきなり皇から召喚されて、親元と故郷から引き離れることになる。さぞや心細いことであろう。
言い方は悪いが、つけ込む隙だらけ。
この美味しい役割をみすみす逃してなるものか……。
「まぁ、現状はこんなところだな。両陣営からの横やりがエグすぎて、使節団の選考が難航している。迎えがなかなか来ないのはそのせいさ。で、皇さまとしては、身内が争うのはかまわないのだが、とりあえず台風の目となる『剣の母』という存在を見極めておこうかと考えた次第だな」
権力に媚びるのか、上昇志向の持ち主か、金品に目がくらむか、色に転ぶか、あるいは怯えるだけの子羊か、強固な意志を持つか。
俗物ならば俗物なりの御し方があり、傑物や高潔なる者ならば、それはそれで扱いようがある。
他者を従える方法ならばいくらでも。
それが絶対権力者の怖いところ。
人柄ともども、その辺のことについて調べるために、影矛である自分は遣わされた。
ホランの長々とした説明を聞き終えて、わたしは率直な感想を口にした。
「あきれた! 皇族めんどうくさい!」
ハウエイさんはやれやれと首をふる。「まぁ、どこの国も天辺にいるヤツなんて、だいたいがそんなもんだよ。おおかた『皇位が欲しいか? ならば己が才覚とチカラにて奪い取れ。与えられただけの玉座になんの意味があろうか』とか考えて、『みんなオレさまの手の平で踊るがいいわ。あー、帝王なオレさまって超カッコイイ』と独り悦に浸っているのさ」と肩をすくませた。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる