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月芝

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038 世界の一端

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 賊が侵入した翌朝。
 目を覚ましたわたしは、うーんと背伸び。
 ミヤビとワガハイに「おはよう」と声をかけ、身支度を整える。
 ひらひら動きづらい服の着替えもすっかり慣れたもの。
 本来であれば朝の準備すべてを、女官たち数人がかりで行うというから驚きだ。
 事実、旅を始めた当初はそのように扱われそうになる。
 これをわたしがイヤがったのと、女官たちの中に第一妃と第二妃の息のかかった者たちが紛れ込んでいたこともあり、お世話役のカルタさんが「剣の母チヨコさまのお望みのままに」という理由で、半ば強引に退けて現在に至る。

  ◇

 身支度が整ったので、わたしは隣室に通じる扉をがちゃりと開けた。
 円卓は倒れ、床には砕けた花瓶や水差し、壁に飾られた絵にはざっくり刀傷。何をどうしたのか、寝台なんて半ばに大穴が開いちゃっている。
 そこかしこに残る乱闘の痕跡。
 とっても荒れた室内。中央に置かれたイスに、どっかと腰を落としているホラン。鞘に入った剣を抱くようにしてウトウトしていた。

「昨夜はずいぶんとお楽しみでしたねえ」

 声をかけたら、薄っすらとまぶたを開けたホラン。「まぁな」とお疲れのご様子。
 で、肝心の賊たちはというと、まんまと逃げられたらしい。
 三身一体の攻撃が激しく、個々の武も手強い。制圧するまでには至らなかったとか。

 廊下側へと通じる扉が開いて、姿を見せたのはカルタさん。
 いつになくマジメな表情にて「ダメ、途中で見失ったそうよ」と告げた。
 ホランと殺り合った女賊の三人組。
 いっこうに決着がつかず、時間がかかり過ぎたこともあり、身をひるがえし逃亡を図った。すぐさま警備の手の者らがあとを追うも、結果はご覧の通り。
 あの女たちが思いのほかに強かったことを知って、わたしは丸投げしてよかったと内心でホッ。
 でもホランとカルタさんは、ずっとムズカシイ顔をしたまま。

「とりあえず撃退できたから、いいんじゃないの」

 わたしが言えば、二人はそろって首をふる。

「ことはそう単純な話じゃねえ」とホラン。
「ええ、ちょっとマズイことになっているのかも」とはカルタさん。

 カルタさんいわく。
 なんでもこの使節団。いろいろと問題は抱えているものの、仮にも神聖ユモ国の絶対権力者である皇(スメラギ)さまの派遣した行列。ましてや国賓級の「剣の母」を招くためのモノゆえに、警備は想像以上に厳重にて、密にしている。
 なのに易々と賊の侵入を許した。そして逃亡まで。
 これは通常ではありえないこと。
 警備体制、建物の構造、周辺の地理、行動予定、その他もろもろの情報が相手方に筒抜けとなっている可能性が高い。しかも……。

「お妃さまたちの手の者ではないはずよ。放っておいても獲物が自らやってくるのに、わざわざこんな危険を冒す必要がないんだから。とすれば、別の勢力が動いていることになるわ」

 勇者のつるぎは伝説級の武器。
 天剣(アマノツルギ)を欲する者は数知れず。
 とはいえ、自国内で強引なマネをすれば、たちまち皇さまににらまれる。国にケンカを売るとか、かなり無謀な話。十中八九、特定されて殲滅されるのがオチ。
 いざとなったら絶対権力者は容赦しない。一族郎党どころか街や都ごと焼き払え! ぐらい言いかねない。
 いくら金さえ積めば何でも請け負うという裏稼業の連中とて、そこまでの危ない橋は渡らない。
 これらを踏まえてホランとカルタさんが下した結論は、「国外の勢力が動いているのかもしれない」というものであった。

 神聖ユモ国と隣接している国は三つ。
 北東の山岳地帯を治め、いくつもの鉱山を抱え豊富な地下資源を誇り、多数の名工を輩出し、有名な工房が集う鍛冶師たちの聖地、鉄と職人の国パオプ。
 西の広大な平原地帯を治め、各地に点在する大小の闘技場では、年がら年中、腕に覚えアリの猛者たちが武を競っている、戦士の国クンルン。
 南西に広がる一帯を治め、大農業地帯と大きな港をいくつも抱える商業地区を持つのが、物と金と策謀が渦巻く欲望の掃き溜め、商連合オーメイ。
 海の向こうにもいくつか国があるそうだけれども、距離の関係もあってか、神聖ユモ国とは長らく没交渉らしい。

 これらはポポの里にて修学した基礎教育課程で習ったこと。
 とはいえ生まれてこのかた、里から一日半のところにあるタカツキの街にしか行ったことがなかった当時のわたしには、まるでピンとこなかったけれども。
 そして聖都を目指しておっちら進んでいる現在でも、やっぱりピンとこない。
 世界が広いということは、さすがに知っている。
 けれども知っているからとて正しく認識しているかというと、それはまた別のお話。
 よもや、賊に襲われて世界の一端を垣間見ることになろうとは。
 ……にしても、聖都が近づくほどにめんどうごとが増えている気がする。
 もうおうちに帰りたい。
 あとお姉ちゃんは愛妹カノンに会いたいです。


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