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051 信仰が進行
しおりを挟む勝手に増殖する不健全な富。これをまんまと排除することに成功したとおもったら、今度は紅風旅団の団員数が膨れあがりまくっている。
ついに加入数が十万を突破したとアズキより報告を受けて、頭を抱えている聖都滞在二十日目。天気は朝からメソメソ雨。
皇(スメラギ)からの連絡はまだこない。
こんな天気なので外には出られないから、迎賓館内の客間にてワガハイの鉢植えの世話をしつつ過ごす。土はいい。触れているだけで気分が落ちついてくるよ。
けれどもやすらぎの時間はあまり長くは続かない。
姿をあらわしたのはホランとカルタさん。
二人ともにちょっとピリピリした空気をまとっていた。
「なぁ、嬢ちゃん……。知ってるか? 最近、都のあちこちにヘンテコな像を飾ったお堂が増えてるんだってよ」
仁王立ちのホラン。座っているわたしを怖い顔でギロリねめつける。
話題の像は素人細工のちゃちな造りにて、薪ぐらいの大きさの角材に、丸い頭みたいなのがのっている。そして胸元に小さなスコップらしき道具を大事そうに抱いているそうな。
祭る像が小さいので、お堂も小さい。
人形の家みたいにかわいらしいもの。
それがシモロ地区やタモロ地区の路地裏、辻の隅、道端、家や商店の軒先なんかに、ちょこんと設置されており、ずんずん増殖中。
「ねえ、チヨコちゃん。あなた、新興宗教の教祖にでもなるつもりなの?」
腰に手を当てあきれ顔のカルタさん。「ふぅ」とタメ息まじり。目の下に薄っすらとクマが浮かんでいる。お化粧で巧みに隠してはいるが、見上げる格好の子ども目線だとよく見えちゃう。
二人から問い詰められて、わたしはぶんぶん首を横にふる。
そんなつもりは毛頭ない。
というか当人が知らないところで、ことがズンズン進行しているだけのこと。
そう、信仰なだけにね。プププのプ。
という冗談は通用しなかった。
けれども、この二人の大人にもまったく責任がないのかというと、そんなことはない。
そもそも邪魔な宝物を放出して民に施すという、エセ慈善行為には二人とも賛同していたのだから。
よもやこんな事態を招こうとは、誰が予見できたであろうか。
そして大人がわからないことを、若干十一歳の小娘にわかるはずもない。
「だからわたしは悪くない。悪いのは世間だよ! ぜんぶ社会と大人のせいだよ!」
との主張を展開するも、むんずとカルタさんに頭部をつかまれた。
笑顔のカルタさん。整えられた細い指先が頭皮に喰い込む。五指にて全方位からギチギチと締めあげられて、わたしは「ぴぎゃあ」と奇声をあげた。
◇
目下の問題。
それは「このままだとマズイ」ということ。
なにがマズイのかって?
国ってのは、腹の内にあまり大きな勢力が台頭することを好まないから。
「いまのところ上からは何も言ってきちゃいねえが……」
案ずるホラン。「でもこの先はわからねえぞ」とつぶやく。
「二柱聖教の方はどうなの?」カルタさんがたずねる。
「そっちは一部で騒いでいる連中がいるそうだが、星読みさまが『かまうな』と言ったらしくて、少なくとも表向き上層部は静観のかまえだ」
ホランの発言に登場した星読みさまとは、皇の相談役のこと。
賢人にて、その名の通り夜空のお星さまの動きを読んで、いろんなことを予見できるそうな。
皇に対して直参直答が許されている数少ない人物でもあり、聖都で一番背の高い石造りの星拾いの塔と、図書院を管理運営している。
特殊な立場にて、信仰と政治からは一定の距離を置いているが、その発言力は絶大。
ときに星読みさまが皇を操り、裏から国を動かしていると揶揄されるほど。
「そう。だったらしばらくは安心ね。でも星読みさまの耳にまで届いているってことは、とっくに皇さまにもチヨコちゃんのことは伝わっているはず。なのに放っておくのは、何か深いお考えがあるのかしら」
「わからん。が、少なくともオレには嬢ちゃんをわざと泳がしているように見えるがな」
「泳がしている? どういう意味?」
「あぁ、妃たちの行動や、ここんところの騒ぎなんかもそうだが、わざと謁見予定をのばしている節がある」
「確かにそうかも。いくら調整に時間がかかるとはいえ、すでに二十日……。さすがにちょっと遅すぎるわよね」
「ひょっとしたら上の連中は第三勢力をあぶり出すつもりなのかもしれん」
「例の海外の手の者ね。そういえば連中もヨト河での襲撃以来ずっと音沙汰なし。あまりにも静かすぎて、かえってなんだか不気味だわ」
「まちがいなく何かをたくらんでいるだろうがな」
天剣(アマノツルギ)をもたらす剣の母。
わざわざ使節団を派遣して、国賓として聖都に招いたというのに、それっきり。
いろいろ見えない事情があるのかもしれないが、とくにかまうでもなく、お忍びでこっそりのぞきにくることもない。ただ迎賓館に閉じ込めておくだけ。
妃たちやその取り巻き連中との接触は防いでいるものの、タモロ地区の商会長やアズキたちなんかの出入りは許している。伝書羽渡の使用も可。
どうにもやってることがちぐはぐにて、狙いがさっぱりわからないと首をかしげるホランとカルタさん。
皇の直属の部下である影の一員の彼らにわからないことを、一介の小娘にわかるはずもなく、わたしは早々に二人のマジメでムズカシイ会話から脱落。
ふたたびワガハイの鉢の手入れを始める。
すると、ずっと沈黙を守っていたワガハイがぼそっと。
「シモロ地区に加えてタモロ地区からもぞくぞく参入。支配領域ずんずん拡大。下克上の成り上がり。革命実行、血祭りにて女帝誕生? 酒池肉林美少年離宮建築?」
おそろしいことをほざく鉢植えの禍獣。
わたしは指先でまん丸黄色い花をビシっとはじき、ワガハイを黙らせる。
「剣の母としてのお仕事があるからムリ。というか、里長のモゾさんを見て育った身としては、断固拒絶する。わたしはあんな頭にはなりたくない」
ポポの里をまとめている里長のモゾさん。ひょろっとした極薄毛中年。
クセの強い住人たちとクセの強い環境に囲まれ、気苦労が絶えることのない生活。負担が一極集中し、頭部がすっかり不毛地帯になりつつある。交渉の達人にて尊敬できる人物ではある。けれどもああなりたいかといえば、それはちょっと。
辺境のちっぽけな里ひとつ治めるだけでも、あの苦労量。
国を丸ごととなったら、いったいどれほどの重荷を背負いこむことになるのやら。
よしんば王さまになったとて、まじめに一生懸命がんばっても、みんなからは好き勝手にやんやと文句を言われ続けるだけの日々……。
ちらっと妄想しただけで、なんか泣けてきた。
うん。ぜったいにイヤ。
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