剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

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059 天剣の秘密

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 星拾いの塔。
 その天辺にある四角い岩を削った小さな家。
 中はわりとふつう。ひと間造りにて、テーブルとイスが二つ置いてあるのみ。
 なんという愛想のなさ。わたしの自室の方がよっぽど充実している。
 でもそれはここが住居ではなくて、あくまで天の星を読むための場所ゆえ。ふだんはもう少しいろいろ置いてあるのだけれども、客を迎えるにあたって事前に運びだした。
 なおここに立ち入ったことがある者は、歴代の星読みとその側近のごく一部。あとは皇(スメラギ)さまぐらいしかいないと聞かされて、わたしはギョッ!
 やや目を細めたイシャルさま。涼やかな横顔にそこはかとなくしてやったり感が漂う。

「わざわざお嬢さんをここまでお招きしたのは、伝えておきたいことがあってね」

 星読みにのみ口伝されてきた天剣(アマノツルギ)に関する秘事。
 剣の母以外には聞かせたくない話。
 さりとてどこに誰の目があり耳があるのかわからないのが、宮廷という魔窟。たとえ皇の寝所とて油断はならない。
 そこでもっとも機密性が高い、この場所が選ばれたというわけ。

「あなたは天剣について、何を、どこまで知っていますか?」

 イシャルさまより面と向かって問われて、わたしは「えーと」
 しばし考え込む。

 天剣とは……。
 世に邪悪があふれ災厄がはびこるときに神さまが地上につかわす、なにやらスゴイ武器のことである。
 言葉を発し、自我を持ち、空を飛び、姿を変じ、担い手は自ら選ぶ。
 その判断基準については、以前にミヤビにたずねたことがある。
 あの時、彼女は確かこう言っていた。

「単純な武の強弱ではなく、肉体の優劣でもなく、心の強さ、魂の輝きを持った者がのぞましいですわ」と。

 なんとなーく言わんとしていること、その意味はわかる。
 が、わたしとしては末尾にある「のぞましい」こそがクセモノだとにらんでいる。
 だってこれって、とどのつまり「自分の意に沿わない相手はお断り」ってことだよね?
 そしてうちの子はとっても選り好みが激しい。
 基本的に殿方を毛嫌いしており、うちのお父さん以外とはロクに話そうともしない。あげくに剣の母であるわたしにべったりな甘えん坊。じかに剣身に触れさせるのは今のところわたし、もしくはわたしが許した相手だけ。加えて赤いスコップや台所の包丁に嫉妬するヤンデレ気質の持ち主。そして「ですわ」というお嬢さま口調。
 フム。現状、わたしはこの子が嫁に行く未来が欠片も思い描けないよ。
 そんなスゴイ武器なのだが、役目を終えるといつの間にやら地上より消えているそうな。
 だから他には現存しておらず、伝承という形でのみ薄っすらと存在が語り継がれている。
 あと天剣にて忘れてはならないのが、剣の母としての使命を果たさないかぎり、わたしの運命の赤い糸を神々が全力で断ち切るということ。おそらくは使命の放棄やチカラの悪用とかを防止するための措置なのだろうが、ヒドイ話である。
 いかに水と土という二つの才芽を与えられたとて、ちょっと納得いかないんですけど。

 などということをぽわぽわ頭の中で考えていたら、イシャルさまが「コホン」と咳払いののちに言った。

「じつは天剣は、造物主である剣の母の影響を色濃く受け継ぐと云われている」

 ……なんですと。
 つまり、ミヤビがうちのお父さん以外の殿方には興味を示さず、甘えてべったりだったり、妙に嫉妬深かったりするのは、全部わたしのせいなの?
 確かにわたしはつねづねこう考えている。
 どうせいっしょになるのならば、父タケヒコみたいに働き者で一途に妻を愛し、家庭を大事にする男に限ると。
 母アヤメの女っぷりには密かに憧憬の念を禁じ得ないし、愛妹カノンが他の誰かと仲良くしている姿にはかなりイラっとくる。とくに近寄ってくるクソ虫どもを何度、妄想の中でプチプチ潰し殺したことか。
 ……うん。認めよう。
 これはわたしにそっくりだわ。
 まちがいなくミヤビはわたしの子だよ。お腹を痛めて産んだ覚えはちっともないけれども。そういえば天剣ってどうやって顕現するのかな? ミヤビのときは目を覚ましたら寝台で同衾していたから、よくわかんないんだよねえ。
 国一番の賢人にそこんところをたずねてみたら、さっと顔をそらされた。

「すまないが、私の口からはとても」
「えっ、なにそれ? ものすごく気になるんですけど!」

 しばし大人と子どもにてすったもんだ。
 わたしは懸命に食い下がるも、イシャルさまが口を割ることはついになかった。
 激しい攻防にて、二人とも「ふぅふぅ」「はぁはぁ」
 額にじんわり浮かんだ汗を、上品な仕草にて布巾で拭いたイシャルさま。

「いささか話が横道にそれたが、本題はここからだ。まず剣の母から産み出される天剣はひとつとは限らない。過去には十一もの天剣を顕現した者もいるそうだ」
 ここでいったん言葉を切ったイシャルさま。青い双眸にてまっすぐにわたしを見つめて言った。「だがその者は心を壊し、ついには生ける屍になったという。そうなった原因は、天剣が剣の母の心と魂を素材にして創造されるものだからだ」

 出産とは、母体から新たな命を創生すること。
 それは女だけに与えられた特別であり、神の御業に匹敵する奇跡。
 男には耐え難いほどの苦痛をともない、己が身を危険にさらし、血肉を分け与えることで成される尊い偉業。
 形はちがえども、天剣を産み出す行為にも相応の代償が必要とされる。
 そのことを知りわたしは動揺を隠せない。


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