剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

文字の大きさ
60 / 81

060 サクランの木の下で

しおりを挟む
 
 急遽決まった皇(スメラギ)さまとの謁見。その場で発表された選定の儀の開催。直後に招かれた秘密のお茶会で明かされる謀略の数々。そしてトドメが星拾いの塔の天辺にてイシャルさまから教えられた天剣(アマノツルギ)と剣の母の秘密……。
 げっぷ、わたしはもうお腹いっぱいです。

「キシャー!」
「ぎゃあ」

 外から聞こえてきた雑音が思索を遮る。
 しようがないので、わたしは「やれやれ」と重い腰をあげた。

  ◇

 選定の儀が行われることが公布されてから、聖都は大にぎわい。
 我こそはと名乗りをあげて集う猛者ども。「祭りだ! 祭りだ!」と興奮する民草。ここぞとばかりに荒稼ぎを目論むタモロ地区の商人たち。同じくここぞとばかりに賭場にて荒稼ぎを目論むシモロ地区の親分さんたち。もちろんカモロ地区の貴族たちとて黙っちゃいない。裏と陰でしっかりウゴウゴしている。
 そして国内にて暗躍しているレイナン帝国の工作員を誘い出すエサ。
 もとい囮役を押しつけられたわたしは、選定の儀が開催される十日後まで特にすることがないので、おとなしく迎賓館にこもっていた。
 なお外部の情報はちょくちょく顔を見せにくるアズキ、キナコ、マロンら三人組から聞き及ぶ。
 訪ねてくるたびにカッコウが洗練されて、着るものが上等になり、歩く姿も威風堂々。心なしか女っぷりと貫禄が増している彼女たち。
 それもそのはず。なにせいまや総団員数四十万に届こうかという、飛ぶ鳥を落とす勢いの紅風旅団の副首領と最高幹部たちなんだもの。
 立場と環境が人を成長させるとはよく言った。
 ちなみに四十万といえば、聖都の総人口の三分の一に相当するそうな。質はともかく数だけ見れば最大派閥。
 まぁ、でも参加している連中の大半がお遊び気分だろうから、正味は十万ちょっとぐらいだと思う。それでもまだまだ余裕にて最大派閥だけれども。
 皇さまは「放置しておいてもかまわない。じきに飽きて霧散する」みたいなことをおっしゃっていたが、連中が数を頼みに暴走して悪さをしたら目も当てられない。
 だから頃合いを見計らって、自警団や火消しなんかの仕事を割り振って、適当にお茶をにごすつもりである。

「キシャー! ギャッギャッ!」
「うぎゃあ」

 迎賓館の敷地内にある庭園から響く声がとってもにぎやか。
 なにやら興奮しているらしい。
 わたしはやや歩みを速め、そちらへ向かう。

  ◇

 ここのところすることがなかったわたしは、迎賓館の敷地内にある庭でひそかに実験を行っていた。
 なんの実験かって?
 自分の才芽についてだよ。
 フフン。これでもわたしは史上初の三つ持ち。

 一の才芽、剣の母。これは魂をごりごり削って、天剣を産み出すチカラ。
 二の才芽、土。これは耕した土が、とってもいい感じになるチカラ。
 三の才芽、水。これは手ずから関わった水に、いろんな効能が宿るチカラ。

 あまり深く考えることなく使っていたら、ひょっこり誕生したのが単子葉植物の禍獣ワガハイ。鉢植えの黄色い花にて、ゆらゆら揺れて言葉を発するだけ。ときおりイラっとさせられるものの、いまのところは人畜無害といっていい存在。
 ポポの里から聖都へと向かう旅の途中で起こった禍獣化現象。
 本来であればいろんな奇跡を経て、大地の気を受けて起こるもの。
 それがたまたまとはいえ人為的に発生。
 わたしはこのことに少々危惧を覚えている。

「あれ? もしかしてわたしは『剣の母』のみならず、『禍獣の母』にもなれるのではなかろうか」

 スゴイのはあくまで勇者のつるぎミヤビであって、わたしではない。
 真に価値があるのは天剣。物語の主役は彼女。わたしはただのちんまい田舎の小娘。あくまでオマケみたいなもの。
 ずっとそんな認識だったのだけれども、こうなると話がちょっとちがってくる。
 のかもしれない。
 今後のことを考えれば、自分のチカラについてちゃんと把握しておいた方がいい。
 そう考えたがゆえの実験である。

 わたしが実験対象に選んだのは、庭にあった三本のサクランの木。
 土だけをいじったり、水だけを与えてみたり。量や比率、組み合わせを変えてみての試行錯誤。
 結果として判明したのは以下のことである。

 土の才芽だけでは禍獣化現象は起きない。
 水の才芽だけでは禍獣化現象は起きない。
 土と水の才芽を組み合わせても禍獣化現象は起きない。
 土と水の才芽を行使しつつ、白銀のスコップで世話を焼くと禍獣化現象は発生するっぽい。
 一つではダメ。二つでもダメ。三つそろって初めて奇跡は顕現する。
 これらの条件ゆえに、禍獣となるのは現時点にて植物に限られる。
 もしかしたら動物を地面に埋めて首だけひょっこり、かいがいしくお世話をしたら禍獣化するのかもしれないが、さすがにそこまで非人道的な行為を試す気にはなれない。

「だってチヨコはまだ十一……」
「ギシャー! ギャギャギャギャ」
「あんぎゃあぁ」

 回想と締めの台詞を邪魔されたところで現場に到着。
 わたしは「やかましい!」と一喝。
 とたんに庭が静かになった。
 えー、コホン。ではあらためまして。

「だってチヨコはまだ十一歳。ぴちぴちの無垢な乙女なんですもの」

 そんな乙女が実験の末に新たに世に産み出したのが、サクランの木の禍獣たち。
 考えるのがめんどうなので、名前は左から順に一号、二号、三号とした。
 それでさっきからなにを「ぎゃあぎゃあ」興奮しているのかと思えば……。

「なぁんだ、ホランが枝につかまってぶん回されていただけか。だからあれほどうかつに近づくなって言ったのに。ほら、あんたたち、そんなの食べたらお腹こわすよ。バッチイからとっととポイしなさい」

 剣の母もとい禍獣の母チヨコの言うことは素直にきく一号、二号、三号。
 命じられるままにホランをポイした。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

最狂公爵閣下のお気に入り

白乃いちじく
ファンタジー
「お姉さんなんだから、我慢しなさい」  そんな母親の一言で、楽しかった誕生会が一転、暗雲に包まれる。  今日15才になる伯爵令嬢のセレスティナには、一つ年下の妹がいる。妹のジーナはとてもかわいい。蜂蜜色の髪に愛らしい顔立ち。何より甘え上手で、両親だけでなく皆から可愛がられる。  どうして自分だけ? セレスティナの心からそんな鬱屈した思いが吹き出した。  どうしていつもいつも、自分だけが我慢しなさいって、そう言われるのか……。お姉さんなんだから……それはまるで呪いの言葉のよう。私と妹のどこが違うの? 年なんか一つしか違わない。私だってジーナと同じお父様とお母様の子供なのに……。叱られるのはいつも自分だけ。お決まりの言葉は「お姉さんなんだから……」  お姉さんなんて、なりたくてなったわけじゃない!  そんな叫びに応えてくれたのは、銀髪の紳士、オルモード公爵様だった。 ***登場人物初期設定年齢変更のお知らせ*** セレスティナ 12才(変更前)→15才(変更後) シャーロット 13才(変更前)→16才(変更後)

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

新約・精霊眼の少女

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。  力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。  孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。  可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。  頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。  これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。 ----  本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

処理中です...