剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

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073 反撃開始

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 二つのことがほぼ同時に起こった。
 ひとつはわたしたちがいる特別観覧席にて。
 いまひとつは闘技場中央にて。

  ◇

 わたしはダンッっと床を蹴り、イスを思いっきり倒して後方へと派手にでんぐり返し。
 これを合図に、飛来したのは複数の細い鉄串。
 尖端が向かうのはフェンホアの顔面。
 一瞬、わたしの動きにおどろいて気を取られていたフェンホア。それでも愛用の槍の長柄にて、鉄串すべてをなんなくはじいてみせる。
 直後に怒号まじりの雄叫びが空気をふるわす。
 声を発したのはホラン。猛然と室内に飛び込んできた勢いのままに、気合もろとも剣を叩きつけるかのような横薙ぎを放つ。
 影矛としてみっちり武を収めた男の一撃。
 フェンホアが思わず柳眉を寄せて「ちぃっ」とうめく。
 重たい斬撃。軽い鉄串のようにはいかず、フェンホアは槍を両手でかまえ対処。
 剣と槍が交差し、ギィィンと鈍い音がするのを聞きながら、わたしは後転ゴロゴロ。
 まんまと壁際まで逃げたところで、襟首をつかんでひょいとこの身を引き起こしたのはカルタさん。

「ごめん、チヨコちゃん。遅くなった」

 袖からちらりとのぞく彼女の手首には、血がにじんで赤黒くなった痛々しい綱の痕。
 どうやら昏倒させられて縛られていたのを自力で脱出。拘束されていた場所から、こちらへと駆けつけてくれたらしい。
 これで数の上では三対一。
 ごめん、ウソです。ちょっと盛った。実質、わたしを外して二対一。
 よってチカラの差はまだまだ歴然。
 なにせ相手は八武仙だからねえ。
 さて、困った。どうしよう……。

  ◇

 わたしたちの状況が動いたのとほぼ同時刻。
 闘技場の石舞台にて。

 魔法による呪の込められた赤い鎖にぐるぐる巻きにされて、拘束されていた勇者のつるぎミヤビ。
 悪漢どもの術中にはまり、剣の母を人質にとられて身動きできず。
 屈辱にて剣身をぷるぷる。
 そんな場面に乱入してきたのが三人の女と一人の男。
 うしろで束ねた赤髪をひるがえす長身の女剣士。
 音のない疾風と化し接敵。沼色の装束と白い仮面をつけた賊の一人を一刀両断。そりのある長剣にて斬り伏せたのは、紅風旅団副首領アズキ。
 続いて別の賊の横っ面に拳をめり込ませたのは、女ながらに入道雲のような肩をした剛腕を誇る同団最高幹部キナコ。「シュッ」と息を吐きつつ、愛用のイボイボ付き鉄甲にて、敵を粉砕し派手に吹き飛ばす。
 キナコの動きとほほ同時に投げ放たれた鎖分銅が、さらに別の賊の白面を打ち砕く。相手が怯んでいるところを間髪入れずに手斧の刃が閃き、真っ赤な血の花を咲かせた。
 それを成したのはどこか異国の情緒を感じさせる面影。さらさらの栗毛のオカッパ頭をかきあげた小柄な女性は、同団最高幹部マロン。
 見事な武芸を披露した三人の女たちとはちがい、鉄で補強された棍を乱雑にブンブンと振り回しては、チカラまかせに手当たり次第に敵を殴り倒していたのが、逆三角形にてぶ厚い胸板を誇る巨漢ドルア。

 この四人がどうしていっしょにここにいるのか。
 本選進出を果たした団員仲間の応援と、自分たちの首領の晴れ舞台を見物にきていたところに、例の場面に遭遇したアズキたち三人組。

「やったぜ、さすがはあたいらのチヨコさまだ!」とアズキ。
「ほえー、なんて流れるようにキレイな一撃」とキナコ。
「……イカす」とマロン。

 チヨコが自称勇者グアンリー相手に放った幻の左・改。
 これを目の当たりし三者三様にたいそう感心するも、大ケガをした団員の熊男のことが気になり、医務室へと様子を見に行くもわずかの差にてチヨコとは行きちがう。
 で、すっかり変わり果てたドルア相手にひと悶着しているところに、闘技場にて騒ぎが勃発。
 すわ、我らが首領の一大事とばかりに駆けつけたという次第であった。

 これにあわてたのがコォン以下の襲撃者たちである。
 クスリを盛ったり、ニセ情報を流したり、誤った指示にて、警備の連中を右往左往させて遠ざけていたというのに、想定外の邪魔が入った。
 しかも賊たちの大半が、勇者のつるぎを拘束するのに手がふさがっているところに。
 赤い鎖を手離せないゆえに動きはかなりの制限を受ける。満足には動けない。一転して襲撃者側が鎖に縛られる立場になってしまった。
 次々と討たれていく賊たち。
 自由に動けるのは自分しかいない。焦ったコォンはとりあえず一番腕が立ちそうな赤髪の女のところへと向かおうとするも、そのとき耳に聞こえてきたのは「ピィーッ!!」という甲高い音。

「なんだこれは? ……もしや、指笛なのか?」

 思わず立ち止まり音のする方をキョロキョロ探したコォン。
 視線が止まったのは特別観覧席の方。
 師であるフェンホアが剣の母の身柄を抑えているはずの場所。
 見ればそこでは、なにやらもうもうと白煙があがっており、えらいことになっていた。


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