剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

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074 黒

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 懸命に剣をふるうホラン。
 思いかえせばホランがこうやって真剣に戦っている姿を、間近で見るのは初めてかも。
 彼がアカザルと殺り合ってるときは、わたしはシロザルどもの相手をしていたからね。
 にしても苛烈である。
 攻めだって単調じゃない。斬り、薙ぎ、突き、ときには体術をも交えて、多彩な変化と緩急をつけている。
 影矛に恥じない戦いぶり。
 援護しているカルタさんだって、投擲術をはじめとした体術、短刀術、どれも高度に洗練されたモノだと、素人目にもわかる。
 けれども、それすらをも圧倒しているのがフェンホアの槍。
 たった一本の槍が何本にも見える。ときには長い柄がぐにゃりと歪み、意思を持つヘビのように動く。ホランとカルタさんの攻撃をはじいて、いなし、穂先が二人の喉笛を貫こうとする。
 尋常ではない手練れ。それでいて、たぶんまだまだ本気じゃない。

「これが八武仙のチカラか……。なんだかんだで強いや。ロウさんならともかく、うちのお父さんだとヤバいかも」

 もっともそれは戦う状況による。
 石舞台の上で正々堂々、いざ尋常に勝負とかならば、まず父タケヒコに勝ち目はない。
 けれども森の奥ならば、たぶんお父さんが勝つ。ようは戦い方の問題。
 そんなことを考えつつ壁際にて、どうしたものかと考えていたら、石突きの一撃をもらってカルタさんがこっちに吹き飛ばされてきた。
 頭から壁にぶつかったら、それで終わってしまう。
 わたしはとっさに足下の敷物を「えいや」と引っ張り広げ、ボフンと受け止めどうにか直撃だけは回避。
 もっとも軽量な我が身ゆえに、いっしょに巻き込まれてわちゃわちゃするハメになったけれども。

「イタタタ。ありがとうチヨコちゃん、助かったわ。にしてもやっぱり強いわ、あの人」
「どういたしまして。ところでちょっと訊きたいんだけど。カルタさんってさぁ、ポポの里にいるときにキノコ汁って食べた?」
「はい? なによこんなときに」
「いいから答えて」
「えーと、たしか二日目の晩に食べたわよ。あのメチャクチャ美味かったヤツでしょう。わたしの人生でも三本の指に入るわね、アレは。最後の晩餐に何が食べたいかってきかれたら、たぶんあのキノコ汁を候補にあげると思う。でもそれがいったい……」
「あー、それはまたあとで。それよりも、ほら、もう少しだけがんばって。わたし、いい考えが浮かんだから。たぶん、これでどうにかなるよ」

 わたしがニカっと笑うと、ものすごーく胡乱そうな顔をしたカルタさん。

「……まぁ、いいわ。でもあんまり長くはもたないわよ。もしものときには逃げて、どこかの隙間にでも潜り込んで隠れなさい。チヨコちゃんは小柄だから、運がよければ逃げ切れるかもしれないから」

 そう言い残して、カルタさんはふたたびフェンホアの槍へと立ち向かって行った。
 彼女の背中を見送りつつ、わたしは自身の懐をガサゴソまさぐる。
 奥から引っ張りだしたのは、薬包が入った巾着袋。
 ポポの里の呪い師ハウエイさんからもらった四種類の薬の中から、わたしが選んだのは黒い薬包。
 しばしこれをじっと眺めつつ、思わずぼそり。

「よもや、こいつを使う日がくるとはね。いかに敵とはいえさすがに気が引ける。けど先にケンカを売ってきたのは向こうなんだから、しようがないよね」

 黒い薬包。
 その中身はハウエイさん宅の居候、菌類の銀禍獣ダケさんの胞子。
 使い方次第で砦ぐらいならば落とせるかも。
 というシロモノ。
 効能は、吸い込んだり触れたりするとカラダのいたるところが、内も外もキノコだらけになって人間苗床と化す。生命活動に必要なほとんどをキノコに持っていかれて青息吐息。死にこそはしないけれども行動不能へと追い込まれる。
 もしもダケさん当人がいれば傀儡とされちゃうけれども、ここに彼の姿はないからその心配はない。
 しかし治療薬はダケさんの出汁が入ったキノコ汁。
 いたらいたで困るけれども、いなければいないで治せないという、この悪辣さ。
 なおキノコ汁には予防の効果もあって、事前に飲んでおけばしばらくは問題ない。
 よって、わたしおよびホランとカルタさんはだいじょうぶ。
 でもフェンホアは……。

  ◇

 激しく殺り合っている三人を尻目に、わたしはそろりそろりと移動を開始。
 目指すのは特別観覧席の入り口。
 途中、ちらりとこちらを確認したフェンホア。逃がすものかと目で威嚇してくるも、次にとったわたしの行動にやや困惑した表情となる。
 なぜなら入り口から脱兎のごとく逃げ出すのではなくて、むしろ逆。
 わざわざ扉をパタンと閉めてしまったのだから。
 なんのためにかって?
 もちろん部屋の密閉率をより高めるためだよ。
 あいにくと前面の大ガラスはわたしが割ってしまったけれども、片側をふさぐだけでもずいぶんとちがうと思うんだよね。
 では準備が整ったところで、謹んでフェンホアのご冥福を祈りつつ、パパッっとね。
 在庫をすべて一斉投下。ナムナム。

 一瞬にして視界が白に染まる。
 何も見えなくなってしまった。
 ダケさんの胞子がこわいのは、その効能だけではない。
 空気中に散布されると、ババンといっきに膨れちゃうことこそがおそろしい。
 たしか百倍だったかな、それとも千倍? ちょっと忘れちゃったけど、とにかくいっぱい!
 四つの薬包で砦ひとつ落とせるらしい量を、たった一部屋にてぶちまけたもので、濃霧の比ではない状況が発生。
 散布と同時にわたしは四つん這いとなり、ハイハイにて壁際をさらにシャカシャカ移動。
 向かったのは入り口とは反対側、前面のガラス張りの方。
 そこまでの道程に障害物がないことは事前に把握してあるから、いっきに行った。
「ゴン」とガラスで頭をぶつけたところで、大きく深呼吸。鼻孔をくすぐるのは懐かしいダケさんのニオイ。舌の上に思い出されるのは極上のキノコ汁の味。これをほんのり感じつつ。
 からの渾身の指笛。
 全力全開にて「ピイィィーッ!!」


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