剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝

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075 白き焔

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 わたしがバラまいたダケさん胞子のせいで、すっかり白の世界と化した特別観覧席内部。

「くそ、なんだこの煙は! それにさっきの音はいったい? おのれ、何をしたっ、チヨコ!」

 白煙の向こうでフェンホアが怒っている。
 呼び捨てにするぐらいに、むちゃくちゃ怒っている。

「ゲホゲホゲホっ、嬢ちゃんの阿呆! 何かするんなら先に言えよっ」

 白煙の向こうでホランが怒っている。
 まぁ、これはいつものことなので気にしない。

「コホコホコホ、なんなのよコレ? うー、鼻の奥がつーんとする。涙も止まんない!」

 白煙の向こうでカルタさんが怒っている。
 あとがちょっとこわいなぁ。泣いたせいで化粧が崩れたとか文句を言われそう。
 と、わたしが息を潜めていたらフェンホアの恫喝が聞こえてきた。

「忘れたのか、チヨコ! こんなマネをして、自分の里がどうなってもかまわないのかっ」

 返事をしたらこっちの居場所がバレてしまう。
 けれども、やられっ放しでムカッ腹が立っていたので、わたしはどうしても黙ってはいられない。

「あー、ポポの里に火をつけるとか言ってたこと? もちろんちゃんと覚えているよ、フェンホアさん。で、こっちも訊くけど、あっちに向かった連中ってば数はどれくらい? どこに隠れているの?」

 ポポの里は外部の人間がほとんど来訪しない僻地中の僻地。生粋の辺境のド田舎。
 剣の母を輩出したことで、今後は中央から手厚い援助を得られるらしいが、それとてもまだまだ先のこと。すべてはこれからの話。
 だから現時点では、関係のない連中がうろつけばすぐに見つかる。
 大きな街や都とかならばこっそりシレっと内部に潜入……なんて粋なマネもできるけど、ポポの里では不可能。なにせ宿屋すらないからね。余所者はとにかく目立ってしようがないのだ。
 好奇心の塊であるちびっ子たちや、物見高い主婦連の目から逃れるなんぞ、ぜったいにムリ。
 と、なれば一番近いタカツキの街に滞在するか、里の周辺にて野営をするしかないのだけれども。
 タカツキの街からポポの里までは、大人の足でも一日半はたっぷりかかる。
 里を監視するにはいささか遠い。伝書羽渡(でんしょはと)などの便利な連絡手段があることも考慮すると、こっちの線は薄い。
 ならば、あとは野営の方を選択することになるのだが、ここで強制的に運試しが発生する。
 東西南北、どこに宿営地を設けるかが運命のわかれ道。
 ちなみにわたしのオススメは西なんだけど……。

「里に向かわせた者たちか。相応の手練れぞろいにて、三十を超えるぞ。たしか東に身を潜めるのに都合のいい竹林を発見したとの報告は受けたが」

 フェンホアの回答にわたしは「あちゃあ」と天を仰ぐ。なんて運のない連中。
 せめて西ならばブチョウさんの縄張りだから、せいぜいボコられる程度ですんだかもしれないのに。
 よりにもよって一番のハズレを引いちゃったよ。
 なにせポポの里の東に広がる竹林は、四天王で一番の気ムズカシ屋さんの支配領域なんだもの。
 植物系銀禍獣タケノコさんは静寂を好み、自宅を荒らされるのをとにかく嫌う。不躾な客なんぞ論外。
 ……うん、これは全員死んだな。
 もっとも正面から里に仕掛けていたところで、三十ぽっちじゃ門番のロウさんのところでほとんど斬られていただろうけど。

 この情報をそっくりそのままフェンホアに伝えてあげたら、「バカなっ」と驚愕しつつ「ぐぬっ、なんだこれは? カラダの様子がおかしい。くそ、ぬかった。ただの煙幕ではなかったのか」と苦しそうにうめいた。

 そろそろダケさんの胞子の効果が出始めた模様。
 わたしはニヤリとほくそ笑む。
 けれどもちょっと調子に乗っていたみたい。なにせ相手は八武仙の一雄なのだから。
 白煙に紛れて、そろり移動しつつの会話だったのに、ふいに、鼻先をビュンとかすめたのは槍の石突き部分。
 フェンホアの放ったものである。
 だいたいの見当だというのに、ほぼこちらの位置を正確に捉えており、わたしは思わず「きゃっ!」と声をあげてしまった。

「そこか! 見つけたぞ、チヨコ。小娘だと手加減しておればつけあがりおって。だが、もう遊びは終わりだ」

 白煙の奥に浮かびあがった人影から、のびた腕が迫る。
 ドキリとなって硬直したわたしは、壁際にてへばりついていることしかできない。

  ◇

 剣の母に猛り狂った八武仙の魔の手が迫る少し前のこと。
 特別観覧席から聞こえてきた指笛に反応したのは、闘技場中央にて複数の赤い鎖に拘束されていた勇者のつるぎミヤビ。
 ミヤビは指笛を誰が発したのかにすぐに気がついた。そしてそこに込められた意図にも。
 彼女にとって剣の母は絶対の存在。
 大好きなチヨコ母さまが言っている。

「こっちは大丈夫だから。遠慮せずにやっちまえ」と。

 異変が起き始める。
 最初に気がついたのは、コォンの槍と刃を交えていたアズキ。彼女のキツネ目がギョッ! 義賊として培われた勘が警鐘をガンガン鳴らす。
 アズキは目の前の相手を放り出し、あわてて背中を見せて逃げ出した。
 置いてけぼりをくらったコォン。わけがわからず呆然と立ち尽くすばかり。
 けれども自分たちの姉御のそんな姿をみたキナコとマロンたちはちがった。二人もすかさず戦線を離脱。暴れていたドルアにも声をかけて、ともに闘技場中央の石舞台から距離をとった。
 突然に乱入してきたかとおもったら、散々に場をかき乱すだけかき乱してすたこら退散。
 意味がわからず、邪魔された側はいちように首をかしげる。
 けれどもすぐにその理由について、身を持って思い知ることになった。

「ぎゃあ!」

 ミヤビを拘束する鎖の端を握っていた者の一人が悲鳴をあげた。
 これを皮切りに同様の騒ぎがそこかしこにて起こる。
 見れば魔法の呪が込められた赤い鎖の色が、よりいっそう赤味を増しているではないか。
 それはまるで炉の中に放り込まれた鉄のように、猛々しくも苛烈な赤。
 事実、鎖は激しく熱せられていた。
 それこそ火の山の奥底にて蠢く紅蓮の流れのごとく。
 ぐにゃりドロリと変形し、耐えかねてぶちりぶちりと切れていく鎖。
 けれども、そんなものは序の口でしかなかった。
 なにせ石舞台の中央では、パンパンに膨れ上がった鎖の束が白くきらめき、いまにもはちきれんばかりであったからだ。

「なっ! いかん、全員、退避っ!」

 コォンが叫んだのと同時に爆発が発生。
 吹き荒れる熱風と白き焔が周囲を席捲する。


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