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076 才芽「硬化」
しおりを挟む闘技場中央で発生した爆発。
その余波は会場中におよび、観客たちは阿鼻叫喚。
ついには離れた特別観覧席にも影響をもたらす。
すでに大穴が開いている前面のガラスがビリビリと震え、飛び込んできた風によって室内の白煙がうねって渦をまく。
はずみでやや薄れた煙。
煙の切れ間から見えたのは、わたしへとのびてくるフェンホアの腕とその姿。
全身のあちこちから大小色とりどりの多彩なキノコが生えた、怪奇キノコ人間あらわる!
「ぎゃーっ!」と叫んだわたし、悪くない。
これは不可抗力。誰だってこんなものを目の前にしたら、叫び声のひとつぐらいあげちゃうはず。ゆえに乙女としては、この反応はむしろ正しい。
キノコ人間がかつて細目であったものをカッと見開き、眼球をぎょろり。巻き舌気味にて「そぉこぉかぁ」
さすがは八武仙に名を連ねる猛者。
いまだに活動限界へと至っていないとは、なんてしぶとい。
キノコ人間フェンホア。その指先がついに目と鼻の先にまで。
わたし、風前の灯火!
もはやこれまでかと諦めかけたとき、横合いからフェンホアの腕を蹴りあげたのは、カルタさんのすらりとした白いおみ足。
見事に手首を捉えた一撃にてゴキリと鈍い音。
これにはたまらず「うぐっ」と苦悶の声をもらしたフェンホア。けれども執念の男は止まらない。
「私の邪魔をするなっ!」と一喝。覇気もろともに槍を無造作にふるう。
長柄の薙ぎを喰らったカルタさん。「がはっ」と血を吐き、カラダをくの字に折り曲げ宙を舞った。
鋭いひと振りにて風が轟っと鳴って、周囲の白煙がざっくり割れた。
これにより互いの姿をはっきりと認知したわたしとフェンホア。目と目が合う。
けれども、わたしはフェンホアの背後にさらに別の姿を目撃する。
それはホラン。
最上段のかまえからの飛び込み。剣が向かう先はフェンホアの首筋。一刀のもとに首を落とすぐらいの斬撃。
完全なる不意打ちにて、死角からの攻撃。
カルタさんはわたしを守るのと同時に、この好機を産み出すためにカラダを張ったんだ。
功を奏してホラン渾身の刃がキノコ人間の首へと吸い込まれる。
雄叫びとともに気合一閃。
けれどもわたしは、ここでありえない光景を目の当たりにする。
◇
ホランの剣は確かにフェンホアの首を捉えた。
十分にチカラと体重の乗った刃は、首を刈れるものであった。
なのにその刃が通らない。
首には当たったものの、表面で動きが止まった。
「いい一撃だ。だが惜しかったなホラン。その攻撃は通らない。なぜなら私には『硬化』があるからだ」
フェンホアの身に宿りし才芽「硬化」
ほんの一瞬ながら局所的に肉体の硬度をあげられる。鋼に匹敵する固さを得られるが、かなり限定的な能力ゆえに、使いどころが非常にムズカシイ。鍛えあげられた肉体とそれを操る術を身につけた最高位の武人ならばこそ、ここぞというときに活かすことが可能。
首への斬撃をしのいだフェンホア。
振り向きざま、背後にいるホランへと槍の突きを放つ。
一度の突きが四つにも五つにも増えて、イナズマのごとく閃く。
雷槍使いと名高いフェンホアの武技がこの場面で炸裂!
穂先が剣を砕き、ズタズタに斬り裂かれたホランが後方の白煙の彼方へと消えた。
◇
カルタさんもホランもやられた。
勇者のつるぎミヤビはいまだに闘技場中央。
この身が敵の手に落ちた時点で勝敗が決する。
わたしは覚悟を決め、一歩を踏み出す。
自分のために傷つき倒れた影矛と影盾を想った。遠い故郷を想った。ハウエイさんやサンタ、次々と浮かぶ里のみんなを想った。お父さんやお母さんを想った。そして何よりも強く愛妹カノンを想った。
このまま海を渡って帝国へと連れ去られたら、もしかしたら一生会えないかもしれない。
そんなのはぜったいに、ぜったいに、ぜーったいにイヤだっ!
だから突撃ーっ!
煙にまぎれ、床を這うようにして一直線にキノコ人間フェンホアへと接近する。
けれどもすぐに視認されて「こしゃくな」と槍の柄をブンとふるわれた。
でも遅い! こちらを殺しては元も子もないから、手加減をしているのだろうけれども、それを抜きにしても明らかにカラダのキレが悪くなっている。
ダケさんの胞子がいよいよ全身に影響をおよぼし始めているんだ。
だったらこのまま逃げ回っていれば……という考えがちらりと脳裏をよぎるも、それはすぐに打ち消した。やられたらやり返す。それが辺境女の心意気。
さらに姿勢を低くする。からくも長柄の下をくぐり抜けたわたし。まんまとフェンホアの懐に潜り込むことに成功。
ほぼ密着状態にて、こうなれば槍は使えない。
そしてこの距離は完全に子どもの間合い。
わたしは突進からの踏み込みにて、幻の左・改を放つ。
狙いはもちろん殿方の一番の急所。いかなる英傑であろうとも決まれば一撃で勝負がつく。
だがしかし……。
「くくく、いい拳打だ。本当にきみはおもしろい。だが、その技はさっき見せてもらった」
わたしの拳はフェンホアのたくましい右太もも側部によって、完璧に防がれていた。
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