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081 予兆
しおりを挟む謁見の席にて剣の母チヨコが寝落ちしたあと。
すべてのたくらみが潰されたと知って、キノコの人間苗床となったフェンホアは完全に沈黙。その身柄は地下牢へと引っ立てられていった。
「すぴー」
気持ちよさげな寝息を立てているチヨコ。
その姿を見て目元を細めた八武仙筆頭のクムガン。
「無理もあるまい。いかに天剣(アマノツルギ)のチカラが借りられる立場とて、この小さなカラダでよくぞあれほどのことを。本当にたいした子だ」
「ええ、私もそう思いますよ。神がどうしてこの子を選ばれたのか、いまならばわかるような気がします」
星読みのイシャルがうなづく。
すると御簾の向こうにて「さて」と皇(スメラギ)が首をわずかにかしげる。
「朕はこの娘の功績にいかに報いるべきや。領地を与えて高位貴族とすべきか。いっそ王族に迎えるべきか」
この発言にギョッとするクムガン。
しかしその考えに断固とした口調で、異を唱えたのはイシャル。
「いけません、おやめ下さい。『剣の母』の動きを制限するような振る舞いは、きっと大いなる災いをもたらします。なによりもこの子がそんなことを望みはしないでしょう」
イシャルからの指摘を受けて、「そうか」とあっさり引き下がった皇。「して、こたびの一件。天剣がこの地に遣わされた理由であろうか」と話しの矛先を変える。
問われてイシャルは首を横にふった。
「ちがうかと思われます。星を視るに大乱の相はいまだ消えておりません。予想を遥かに超えて、この地深くにまで喰い込んでいた帝国のツメ。おそらくは我が国だけのことではありますまい。となれば、いずれは海を越えてくることも覚悟しておくべきかと」
数多の清濁と歪みを抱えながらも、保たれてきた神聖ユモ国千年近くにもおよぶ平穏。
それが自分の代でついに破られるかもしれない。
星読みより告げられ、神聖ユモ国第四十九代目・皇・ワシュウはただひと言「であるか」と答えた。
◇
わたしは夢を見ていた。
お父さんがいて、お母さんがいて、妹がいる。
いつものように自室で目覚めて、いつものように家族で朝食をとり、いつものように畑仕事や趣味の園芸に精をだし、ときに幼なじみのサンタをからかい、イタズラをして神父さまにカミナリを落とされ叱られる。ロウさんやハウエイさんや里のみんなたちと、わちゃわちゃしているうちに日が暮れて、窓際の鉢植えと枕元にいる白銀のスコップに「おやすみ」と告げて就寝。
ポポの里でのありふれた日常。
わたしはそんな生活を送っている自分の姿を、少し離れたところから膝を抱えてぼんやりと眺めていた。
一方でふり返れば超大で煌びやかな聖都。
大勢の人がいて、たくさんの物であふれており、とにかく活気があって……。
そこには「剣の母」「商公女」「紅風旅団の首領」「勇者殺し」「禍獣の母」「魔改造の女」なんぞと、みんなにもてはやされているわたしがいる。
豪奢な衣装に身を包み、えらい人たちに混じってツンとすましている自分がいる。
しかし悲しいかな。ちっとも似合っちゃいない。
もしもこれが母アヤメや愛妹カノンだったら、さぞや映えることであろうに。
ポポの里と聖都。
二つの光景を見比べてしみじみ。
「おもえばずいぶんと遠くまできたもんだ」
とんでもない人生流転を目の当たりにし、つい口からそんな言葉がこぼれた。
ふいに景色がにじんでぼやける。
涙が頬を伝う。
「もう帰りたい。カノンに会いたい。みんなに会いたい。会いたいよぉ」
ダメだった。
こらえきれなくなって、わたしはワンワン泣いた。
夢の中で泣いて、泣いて、泣きつかれるまで泣いて、そしてそのまま眠りについた。
◇
「うーん」と寝返りをうつ。
右にごろん。
すると手に馴染みの感触が伝わってくきた。
冷たいけれども冷たくない。固いけれどもどこか温かいふしぎな感触。
スコップ状になっている勇者のつるぎミヤビの存在を感じて、わたしは胸の内がぽかぽかしてくるのを感じ、とても満たされた気分になった。
しあわせのままに、わたしはまどろむ。
まぶたは開けない。鼻先をスンとして吸い込んだのは夜の気配が混じる空気。
これはまだ世界が夜明け前の瑠璃色のときのもの。
じきに紫をおびた紺色の空が白じみ始めるはず。
だからもう少しだけ、もう少しだけしあわせな夢に浸ろう。
だいじょうぶ。起きたらケロリと元気になっているはず。
だってわたしは強い子だもの。なにせ手負いとはいえ、あの八武仙の一人をやっつけちゃったんだから。だから、きっとだいじょうぶ。
夢とうつつの狭間でそんなことを考えながら、わたしはふたたびごろん。
今度は左へと。
そうしたらまたもや手に何かが触れた。
「あれ? これは何だろう」
冷たく固いけれども、けっしてそれだけじゃない。
肌にとても馴染む感触は、ミヤビのモノにとてもよく似ている。
けれども彼女は右側にいたはず。
わたしは瞳を閉じたままにて、手を動かしてペタペタ確認。
それは棒状をしており、ずいぶんと長いモノらしい。
足下から枕元へと向かい、形状に沿うようにして手を動かし続けていると、やがて平らな部分に行きついた。「うん?」
これまで直線だったのが、そこで直角に曲がっており、緩やかな弧を描いている。
三度ばかり同じ動作をくり返し、目隠し状態にてどうにか正体を探り当てようとするも、ついにわたしは降参。
モソモソと起き出し、自分の目でじかに確かめてみることにした。
そして開口一番。
「なんじゃこりゃーっ!」
視線の先にあったのは漆黒の大鎌。
ここにきて、まさかの二本目っ!!
―― 剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です! (第一部完) ――
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