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080 顛末
しおりを挟むこれだけの騒動にもかかわらず、イチカ姫は気持ちよさげに眠ったまま。クスリでもかがされているのかな?
人の気も知らないで……。
少しイラっとするも、まぁ、無事でよかった。
姫を横目にわたしは悪漢どもを縛りあげようとするも、あいにくと紐の類を持ちあわせていない。
「そんなの、手足をちょん切ればいいだけですわ」
こともなげにミヤビは言うが、さすがにそれはちょっと。
怪奇キノコ人間だけでなく、恐怖イヌ人間まで見ちゃったら、きっと夢でうなされちゃうもの。わたしはこんなところで一生モノの心の傷を負いたくない。
だからその案は却下。
何かいい方法はと周囲をキョロキョロしていたわたしは、いいものを見つけた!
賊どもを引きずり、道路脇の側溝へ「てぃ」と蹴落とす。
すると狙い通りにすっぽりハマった。ほとんど隙間なしにて身動きできず。これならば逃げようもあるまいて。もしも雨が降ったら、そのときは運が悪かったとおもってあきらめてちょうだい。
「こっちはこれでよし。あとはお姫さんだね」
眠っている相手を「どっこいしょ」とおんぶして、ミヤビに乗る。
くっ、なんだこれ? ムチャクチャいいニオイがするぞ。あと背中に当たる乳圧が半端ない。
ぱっと見、十六か七に見えるイチカ姫。
おそろしいことに、これでわたしと同い歳だというのだから信じられん。ありとあらゆるものがぶっちぎっていやがる。
聖都にきてからこっち、いろいろ驚かされっぱなしだったけど、もしかしたらこれが一番かもしれない。
よし、わたしは決めたよ。
もしも神さまに再会する機会があったら一発殴ろう。
うん、それがいい、そうしよう。
というかぜったいにボコる。わたしにはその権利があるはずだ。
◇
姫をおぶって街中を飛んだら、さらに騒ぎがとんでもないことになりそう。
なので帰りは下水道を通る。
そうしたら内部が以前よりもずっとキレイになっていた。
「あれ、掃除でもしたのかな?」
わたしがつぶやくと、「いえ、たぶんわたくしたちが何度も通った影響かと思われますわ」とミヤビは言った。
不浄なるものを浄化し清めるチカラを持つ勇者のつるぎ。
下水道内のよどんだ空気を一掃。
いっしょに寝起きをするようになってから、朝一でノドのイガイガがなくなっていたけれども、あれはそういうカラクリだったのか。
遅まきながらこのことを知って、わたしは「へー」と感心。
◇
誘拐事件をあわやというところで阻止し、第一皇女イチカを連れ戻ったあと。
闘技場の方はあいかわらずの騒ぎにて、内も外もあと始末におおわらわ。
その一方で功労者であるはずのわたしは、クムガンから散々に説教まじりの事情聴取を受けたのみならず、そのまま宮廷へと引っ張っていかれて、皇(スメラギ)さまと謁見させられるハメに。
その場には星読みのイシャルさまの姿だけでなく、キノコの人間苗床となったフェンホアも転がされていた。
御簾越しに「この度の働き大儀であった」から始まる皇さまのお言葉。
どうやらお礼やら詫びを口にされているらしい。
けれども、あいにくとわたしはウトウト。
なにせ今日はとってもがんばった。だからここにきて疲れがドッと押し寄せた。
うー、目がショボショボする。まぶたが重い。足下のふかふかな敷物が気持ちいい。
どうにか眠気をこらえていたら、聞こえてきたのは「くくく」というイヤな笑い声。
フェンホアのヤツがまた笑っている。
天剣(アマノツルギ)の奪取に失敗し、第一皇女イチカの身柄をさらうのにも失敗し、皇の権威を失墜させることもいまいちにて、自身がレイナン帝国へと亡命することも失敗した。
彼の計画はすべて水泡に帰したはず。
なのに、またぞろこの不気味で不快な笑い。
寝落ち寸前のわたし。皇さまの御前であることも忘れて、つい「ひょっとして、まだ他に何か隠し玉があるの?」と訊いてしまった。
そうしたらキノコの人間苗床がウゴウゴ。
「くくく、どのみち聖都はもう終わりだ。なにせ流行り病のもとを下水にバラ撒いてやったからな。死ぬぞ死ぬぞ、大勢の人間がバタバタと。あはははは、いい気味だ。なぁにが尊い現人神(アラヒトガミ)のおわす国だ! こんな腐った国なんぞ、とっとと滅んでしまえっ!」
おそるべき内容にて、それは呪詛のごとき言葉の羅列でもあった。
驚愕の告白に大人たちが騒然となり、フェンホアの高笑いだけがこだまする。
うつらうつら舟をこぎつつ話を聞いていたわたしは、ぼそり。
「あー、あの大量のネズミの死骸はそのための仕込みだったのかぁ。でもごめんなさい。それはムリです。何度かわたしとミヤビが飛び回ったせいで、下水道の中ってばすっかりキレイに……」
ここでついに限界を迎えたわたし。
ポフンとふかふかな敷物に身を預けて、夢の世界へと旅立った。
舟に揺られて遠ざかる現実の岸辺。
向こうから大人たちが何かを言っていたような気がするけれども、よく聞こえなかった。
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