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004 試練の儀
しおりを挟むえっ、もう外に出られない?
二度と家には帰れないの?
ガーン!
おかっぱ頭の女の子からいきなりそんなことを言われて、わたしは「そんな……」と絶句する。
でも、直後のことであった。
羽ばたき音がしたとおもったら、わたしの右肩にちょこなんととまったのは一羽の小鳥。
スズメぐらいの大きさ、ぱっちりお目々、体全体がオリーブ褐色にてお腹のあたりだけが白い――春を告げる鳥、ウグイスだ。
肩にとまったウグイスが「チャッチャッ」とさえずり言った。
「おいチカ、ダメじゃないか。いきなりウソをついてミユウをおどすだなんて、ルール違反だぞ」
ウグイスから叱られた女の子――千歌はぺろりと舌を出しては、あかんべえをする。
「ふん、なにさ、ちょっとふざけただけじゃないの。やーい、イチエのおこりんぼ」
「…………チチチ(怒)」
「ひぃっ、わ、わかったわよ。そんなににらまないで! ちゃんときまりどおりにやればいいんでしょ、やれば。え~、こほん」
千歌は軽く咳払いをしては、居ずまいをただし口上を述べる。
「あー、なんじ、すずやまみゆうにつげる。だいいちのしれんは『がっこうめいきゅう』である。いっかいのしょうこうぐちまでたどりつけばクリアとなる。なお、まいったをすればそくしゅうりょう」
なんじは難事? それとも何時?
言い回しが妙に古めかしくて、よくわかんない。
学校迷宮とやらはおそらく現状を指しているのだろう。
にしても第一の試練とはいったい……
というか、もしかして第二、第三とこんなのがいくつも続くの?
一階出口まで到達すればOKみたいだけど、ギブアップしてもいいんだったら、さっさと降参しちゃえば解放されるのではなかろうか。
というわけで、さっそく「あのぅ、それだったら」と、わたしがギブアップを申し出ようとするも、すぐ近くから向けられた突き刺さるような視線に「ひいっ」
肩にとまっているウグイスの円らな目がありありと語っていた。
『おい、ふざけたことを言ったら、その目をブスっとついばむぞ』と。
圧に負けたわたしはあわてて手で口をふさぐ。
そんなわたしたちへ千歌は「せいぜいしょうじんするがよい」と言い残し、タタタと廊下を走り去っていく。
小さなうしろ姿は、じきにぼやけて消えてしまった。
〇
千歌がいなくなってから――
「では、あらためましてだな。あたいは一枝(いちえ)、咲耶神社(さくやじんじゃ)の祭神であらせられる佳乃(よしの)さまにお仕えする者だ」
ウグイスからの自己紹介に、わたしは「あっ、どうも。鈴山海夕です」とぺこり。
小鳥がペラペラしゃべっていることについては、もはや何も言うまい。つっこんだら負けのような気がする。
でもって咲耶神社ならば、わたしもよく知っていた。
うちの近所にある神社だ。木花咲耶姫(このはなさくやひめ)とかいう女神さまに由来する神社で、境内には小さいながらも梅林がある。
わたしが小学校にあがった頃に亡くなった、大好きだったおばあちゃんが散歩がてら足繁く通っては、熱心にお参りしていたのをよく覚えている。
「え~と、それではイチエさん。いまひとつよくわかっていないんだけど、いまのこの状況についてちゃんと教えてもらえれるんだよね?」
「もちろんだとも。じつはな……」
事の発端は佳乃さまが、ちょいと野暮用で神社を留守にしたこと。
で、戻ってみれば何やら様子がおかしい。
かとおもったらいきなり捕まってしまい、囚われの身となってしまった。
油断していたところに不意を突かれたのだ。
強固な結界の中に閉じ込められてしまい、神通力も封じられ逃げられない。
やったのは七体の妖たちからなる集団であった。
七葉(しちよう)と名乗る連中の目的は、神社の乗っ取りだ。彼女の後釜につき祭神になろうと目論んでのこと。
もしもその地位につけば、支配地域をおもうさまにできる。
が、ことはそう簡単にはいかない。
なにせ神座(かみくら)はやんごとなき立場にて、ホイホイと奪えるようなものではないからだ。
だから七葉たちはその座を禅譲(ぜんじょう)――明け渡すこと――するよう佳乃さまに迫るも、当然ながら乱暴な要求に彼女がうなづくわけもなく……
さりとてこのまま祭神が不在の状況が続くと、いろいろと不具合が生じる。
現世(うつしよ)がたいへんなことになってしまう。
これは佳乃さまも望むところではない。
そこで七葉たちより提案されたのが、試練の儀の実施であった。
試練の儀は、七葉らが仕掛けた試練に佳乃さまの代理人が挑むというもの。
見事クリアすれば佳乃さまの勝ちにて解放される。
失敗すれば潔く負けを認め、おとなしく神座を譲る。
その代理人に選ばれたのが、誰あろう海夕であった。
「へ~、そうなんだぁ……じゃなくって! どうしてわたしなの?」
前言撤回。
わたしは声を大にしてつっこまずにはいられない。
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