下出部町内漫遊記

月芝

文字の大きさ
15 / 106

015 飼育小屋の帝王

しおりを挟む
 
 四度目のチャレンジにて、どうにか二階廊下を突破することに成功したわたしたち。
 ついに一階に到着した。
 またもや昼夜が逆転しており明るくなっている。
 静かで清浄な空気は、早朝の校内のそれに近い。
 この階にあるのは多目的室、保健室、給食室など。
 壁にある掲示板には、いろんなお報せやポスターなどが張り出されている。
 パッとみた限りでは、どこにもおかしな点は見当たらない。
 わたしがよく知るいつもの廊下だ。
 あとはゴールである昇降口から、校舎の外へ出ればいいだけ。
 なのだけれども……

 カツン。

 不意に音がしたもので、わたしたちは立ち止まって顔を見合わせた。
 耳を澄ましてみる。
 でも、何も聞こえてこない。
 だから「気のせいか」とふたたび歩き始めた。
 そうしたら、また……

 カツン、カツン、カツン。

 今度ははっきり聞こえた。
 硬質な足音。
 音のした方を凝視すると、ソレと目が合った。

 薄い金の瞳。瞳孔が四角く黒い。目と目の位置がやや遠い。
 体毛は白く、すっと通った長い鼻筋、鼻の頭はやわらかそうなピンク色。
 耳は意外と大きく、ハトの翼ほどもある。
 角は安全のために切られておりないが、ゴツゴツと厳めしい頭をしている。
 それもそのはずだ。なにせちょっとでも気にいらないことがあれば、すぐに頭突きをするのだから。

 廊下の反対側、突き当りにいたのはパッソであった。
 パッソは学校で飼っている雄のヤギである。
 別名・飼育小屋の帝王。
 とにかく怒りっぽくて、脱走の常習犯で、気まぐれの暴君だ。
 機嫌を損ねてゴツンとやられて泣かされた生徒は数知れず。
 腕っぷし自慢の上級生の男子たちも、軒並み薙ぎ倒されている。市の子ども相撲大会で優勝した男子まで負かされた。
 下級生や女の子相手にはいちおう手加減をしてくれるけど、それでもやっぱり怖い。
 そのため我が校の生き物係は断トツで人気がない。

 パッソのすごいところは先生たちにも物怖じせず、遠慮しないこと。
 それこそ下手に恨みを買ったりしたらたいへんだ。
 なにせ小屋を抜け出したおりに、追いかけ回されたり、愛用の自転車や原付バイクなどを薙ぎ倒されてしまうから。
 教頭先生なんて「こんなヤギ、とっととヤギ汁にして給食で喰ってしまえばいい」と言ったのをうっかりパッソに聞かれたせいで、愛車のドアに頭突きを喰らってベコっとへこまされてしまった。

「ぎゃーっ、買い換えたばかりの新車がぁー!」と教頭先生、絶叫。

 ちなみに修理するのに保険はきかなかったらしい。
 保険会社に連絡をして、かくかくしかじか。
 正直に事情を説明したら「……ふざけないでください」と電話を切られちゃったんだとか。

 学校迷宮――
 最後の最後にわたしたちの前に立ちはだかったのは、飼育小屋の帝王である。
 ラスボスはパッソ。
 そのパッソなのだけれども、様子がいつもとちがう。
 いつもならば獲物を見つけたら、ヤギだけど猪突猛進! まっしぐらに駆けてくる。
 なのにいまは口をもちゃりもちゃりしながら佇んでは、何を考えているのかよくわからない目にて、こちらをじーっと見つめるばかり。

「ん?」

 訝しみつつも、いつまでもこうしてお見合いをしていてもしょうがない。
 だからわたしたちは、そろりそろりと動きだしたのだけれども、そうしたらパッソもカツン、カツンと蹄を踏み鳴らしては歩き出す。
 で、わたしたちがビタっと止まれば、パッソもピタリと止まったもので「んんん?」

「えっ、もしかしてこっちが動くとあっちも動くの?」とわたし。
「もしかせずとも、どうやらそのようだな」とジンさん。
「う~む、だとすれば接触は避けられんぞ」とカクさん。

 なぜなら、向こうの方が昇降口に近いから。
 そして廊下は一本道、どうしたって途中でかち合うことになる。

「チチチ、これまた難儀なこって。……にしてもミユウ、まさかソレを持っていくつもりかい?」

 肩にとまっている一枝さんがやや呆れていたのは、わたしがスポーツタオルを風呂敷代わりにして懐に抱えている大玉キャベツだ。
 二階の廊下でゲットした品である。
 なんとなく流れで持ってきてしまったのだけれども、買えば高いし、せっかくだからお土産にしようかなと。
 今夜はお母さんに頼んでお好み焼きにして貰うつもりだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

処理中です...