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016 猛攻パッソ
しおりを挟むわたしたちが一歩前へ進んだら、ヤギのパッソも一歩進む。
こちらがタタタと駆け足になれば、すかさずパッソもカカカと蹄の音をさせては廊下を駆ける。
でもって、わたしたちがピタっと止まれば、パッソも止まる。
そしてジリジリ後退すれば、パッソもなぜだかムーンフォークを披露して華麗にスィーッとさがる。
幅跳びみたいに「えいっ」とジャンプしたら、パッソもぴょんと跳ねる。
まるで鏡のように、パッソはこちらの動きに合わせてアクションをしている。
「だったら、これならどうだ!」
と、ちょっとイジワル。
わたしだけが後ずさりして、ジンさんは前へ、カクさんがその場にて待機する。一枝さんは「チチチ」とさえずっては羽ばたき。
メンバー全員がバラバラの行動をとってみた。
そうしたらパッソは「そっちがそのつもりなら」と言わんばかりに目を細めて「メェ~」と鳴き、スタスタと歩き出したもので、わたしたちはおおいにあわてた。
どうやらいらぬことをしたら、ペナルティとして遠慮なく距離を詰めてくるらしい。
にしてもだ。にへらとの笑みを浮かべながら向かってくるパッソの姿が怖すぎる。
これで一階廊下でのルールはおおかた把握した。
・パッソはこちらの動きに合わせて『進む』『止まる』『戻る』の行動をとる。
・どうにか工夫をして、パッソと接触することなく先に下駄箱のところへ到達する。
・もしくはパッソをかわして、昇降口を抜ければクリア。
いままでの試練に比べたら、とてもシンプルである。
が、互いのスタート位置や歩幅を何度比べても、どうやってもパッソの方が先に昇降口のところに到着してしまう。
まるで難解なパズルのようだ。
頭脳労働の担当を自認しているジンさんも、この難問を前にしてウンウン頭を悩ませている。
一方でカクさんは「ふん、たかがヤギの一頭や二頭、それがしが仕留めてくれようぞ。ガハハハ」と勇ましく、新たに入手した丁字のホウキをぶんぶん振り回している。ちなみにこの掃除道具の正式名称は『自在ホウキ』という。
なんとも勇ましいカクさん。
でも、そんなことを不用意に口にしたら……
わたしがおそるおそる見てみたら、案の定であった。
パッソは独特の迫力があるヤギ目にて、カクさんのことをジロリとにらんでおり完全にロックオン。わたしは内心で「あちゃあ」
一行はあれこれ話し合うも、これといった打開策は見い出せず。
ついには『とりあえずひと当たりしてみよう』となった。
さりとて自棄を起こしたわけではない。
ヤギは音にとても敏感だ。だから悟られないように注意しつつ、ジンさんがこそっと仲間にだけ聞こえるようにささやく。
「べつに全員がヤツを突破する必要はない。ようは誰かひとりでも抜ければいいんだ」
一枝さんは計算外なので、こちらはわたしとジンさんとカクさんで三人。
対するパッソは一頭である。
いかにパッソとて三人同時には相手にできない。どれだけ素早く対処しようとも、限界はある。その間隙を突く。最悪、ふたりがパッソを足止めしているうちに、ひとりを逃がすというパターンでもOKだ。
名付けて『俺の屍を越えていけ作戦』である。
というのが、ジンさんの策であった。
(おぉ、やるじゃん人体模型!)
わたしはジンさんをちょびっと見直した。
〇
順当に廊下を進み、両陣営の距離が十メートルを切ったところで、わたしたちはコクンとうなづき合う。
「「「せ~の」」」
三人そろって一斉に駆け出した。
廊下の幅を目いっぱいに使う。等間隔に距離をとりつつ足並みをそろえる。
並びは昇降口寄りの右端インコースをわたしが、中央をカクさん、左端のアウトコースにジンさんという配置になっている。
こうすることでパッソはどうしても、一度に三人と相対することになる。
……はずであった。
「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁ」
やられる前にやってやると、カクさんが丁字ホウキをぶぅんと振り下ろす。
脳天を狙った容赦のない一撃。
だが攻撃が当たる寸前にパッソが跳ねた。
ばかりか、ひらりと軽やかにホウキの柄に乗ってみせたではないか!
まるで義経と弁慶による五条大橋の決闘を再現したかのような一場面に、カクさんもおもわず「なんとぉ」と叫び、わたしは目を見張り、ジンさは片目がポロリと落ちた。
そこから先は一瞬の出来事であった。
細い木の柄を足場にしてパッソはさらに跳躍、カクさんに跳び膝蹴りをかまして頭部をカーンと蹴飛ばす。
くるくる宙を舞うドクロ。
首を失いふらつく骨格標本、その胴体をドンと押し倒したパッソは、反動を利用して方向転換、向かったのはジンさんのところ。
あっ、わたし知ってる。
これって三角跳びだ。
サッカーマンガに登場するキャラクターがやっているのをマネして、男子たちが休み時間にやっているのを観たことがある。
もっとも、これほど見事な跳躍ではなかったけど……
ついでに豆知識をもうひとつ。
じつは雄のヤギってば、体重が百キロ近くもあるんだってね。
そんな相手からジャンピングボディプレスを受けたジンさんは、あえなくはじかれて、バラバラにされてしまった。
で、お次はいよいよわたしの番である。
ふたりが体を張って時間と距離を稼いでくれたけど、全然足りない!
うしろから猛然と迫ってきたパッソに、お尻に頭突きをかまされて、わたしは「きゃん」
車に撥ねられたときよりも強い衝撃に見舞われ、わたしはあえなく冷たい床に転がされた。
薄れゆく意識のなか……わたしが目にしたのは、パッソが戦利品のキャベツをムシャムシャ食べている姿であった。
「ヴンメェェェ~~~~」
パッソの勝ち名乗りが一階廊下に木霊する。
わたしはそれを聞きながらバタリと力尽きた。
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