下出部町内漫遊記

月芝

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022 ケイドロ

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 時代劇のなかに迷い込んでしまった。
 戸惑いながらも一行が歩いていると、「ちょいとごめんなすって」
 声をかけられたのは、通り沿いにあった茶屋のなかから。
 奥からゆらりとあらわれたのは、三度笠に道中がっぱという旅姿の渡世人。
 見るからに只者じゃないといった気配にて、ジンさんはわたしの腕を引き下がらせ、代わりにカクさんが前へと出た。
 するとここで口を開いたのは一枝さんである。

「チチチ、次はあんたなのかい? オジロ。あんたはもっとうしろの方かとおもっていたよ」

 わたしの肩にとまっているウグイスがジロリと相手をにらむ。
 男は軽く会釈をしてから、三度笠を脱いで素顔をさらす。
 やや痩せぎすだが無精ひげがよく似合う、渋めのおじさまにてちょっとカッコいいかも。
 タバコの代わりなのか、長楊枝をくわえている。

「へえ、姐さん。まあ、クジで適当に決めたもんでこんな順番になりやした」

 言うなりバッと道中がっぱを翻し、男は中腰になっては口上を述べる。

「お控えあってありがとうござんす。
 イチエの姐さんはご無沙汰しておりやす。
 ミユウさん、それからジンさんとカクさんとやらもごめんなさんせ。
 あっしはハチワレの尾白というしがなき者でさぁ。
 どうぞお見知りおきを」

 堂に入った物言いと態度にて、まんま時代劇に登場する渡世人だ。
 本物を観たことがないのでなんとも言えないけど、少なくとも役者で食べていけそう。
 なんぞとわたしが感心しちゃうくらいには雰囲気があった。
 そんなハチワレの尾白さん、次の試練について話をしたいという。

「まぁ、立ち話もなんですから、どうぞこちらへ。団子でもかじりながら、ゆるりとご説明させていただきやす」

 砕けた態度にて「さぁさぁ」
 茶屋に誘われたもので、わたしたちは勧められるままに席についた。
 尾白がパンパン手を叩く。
 するとすぐに「はーい、ただいまー」との返事にて、猫耳の茶屋娘がお盆にのせて運んできたのは、緑茶とみたらし団子のセットであった。

 ひょとしたら罠かも、と疑うがその心配はなさそうである。
 なぜなら一枝さんがさっそく団子をチュンチュンついばんでいたから。
 ジンさんとカクさんもふつうにパクついているし。
 にしても不思議だ。あの体で飲み食いしたモノはいったいどこに消えているのかしらん。
 首をかしげつつ、わたしも団子を手にとる。おそるおそる口に運んでみると、作りたてらしく団子はまだ温かかった。ムニュっとしてもっちもち。柔らかくて、甘いタレとよく絡む。舌の上でトロけて、それはそれは美味であった。

(うぅ、疲れた体に甘味が染みるよぉ)

 お茶もまた甘露にて、おもわず「ほぅ」と吐息が漏れた。
 そんなわたしの姿に尾白は目を細めつつ、「どうかそのまま、くつろぎながらお聞きください」

 第二の試練の儀は、もとは下出部町六丁目界隈であったのが変じた、ここ『下出部映画村』を舞台にして行われる。
 ご覧の通り、町は時代劇のセットのようになっており、行き交う人々もまたそれにちなんだ格好となっている。
 みんなが頭に猫耳をつけているのは尾白の茶目っ気だ。
 で、そんな舞台で勝負するのはケイドロ遊びである。

 ケイドロ遊び。
 地域によっては『ドロケイ』『探偵』『ぬすたん』『助け鬼』などなど、さまざまな名で呼ばれている。
 でも内容はほぼ同じ。
 ルールは簡単で、泥棒と警察の2チームに分かれて行う鬼ごっこだ。
 追う者と追われる者。
 ストーリー性があり、各々が役になりきってスリルを楽しむ。
 大人数で行う集団と集団との対決により、チームのみんなで作戦を立てたり、協力プレイをしたり、非情な裏切りにて人間性や関係性があらわとなることもある。目まぐるしく変わる状況、手に汗握る展開、個性が光り、知恵と工夫を絞ったいろんな駆け引きも熱い。
 また、いっしょにわちゃわちゃしているうちに仲良くなれるので、友達作りにも最適な遊びである。

 とはいえそこはそれ、試練の儀なのでただのケイドロ遊びじゃない。
 わたしたちがドロボウ役の鼠小僧に扮しての大捕り物。

「御用だ、御用だ」

 追いかけてくる連中をかわして逃げるわたしたちは、たんに逃げるのではなくて、映画村内に散らばっている三枚の絵馬を集めつつ、ゴールを目指さなければならない。
 なお捕まるとふん縛られてはよってたかって担がれ「えっさほいさ」、スタート地点である木戸脇の番屋の牢に放り込まれて、一定時間拘束されるペナルティを負う。
 ただし、確保した絵馬はそのままで再スタートできる。
 全員が捕まらない限りは、ゲームは続行される。
 もしも全員がアウトになったら絵馬は没収されて、新たな隠し場所に配置されてのやり直しとなる。

「というわけで、さっそくお着換えといきやしょうか」

 説明を終えたところで、尾白がパンパン。
 ふたたび景気よく手を打ち鳴らすと、茶屋の奥がらぞろぞろと姿をあらわしたのは黒子たちである。歌舞伎の舞台で手伝いをする黒い衣装のアレだ。
 黒子らに囲まれたとおもったら、幕で外から見えないように隔離され、問答無用でひん剥かれての早着替え。「あ~~れ~~」
 一枝さん以外の三人がほっかむりの盗人姿にされちゃったところで、ゴ~ンと鐘が鳴って第二の試練の儀がスタート!


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