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025 時の鐘
しおりを挟むあぐらをかいたまま肘をつき、ブスっとしかめっ面をしているのは、わたしだ。
ただいま木戸脇の番屋の牢に入れられ拘束中。
捕まったペナルティである。
一定時間が経過すると解放されて、ふたたびケイドロに復帰できる。
にしてもひどい目に合った。
お堀に落ちてあっぷあっぷしているところを助けられたとおもったら、いきなりロープでぐるぐる巻きのミノムシにされ、猿ぐつわまでされては「わっしょい、わっしょい」
おみこしのように担がれて、番屋までしょっぴかれた。
番屋にはハチワレの尾白が居た。
尾白は「おや、嬢ちゃんが最初に捕まったか……。にしても、ちゃんと注意書きがしてあったのに、どうしてわざわざ危ない橋を渡るのかねえ」と呆れつつ、タオルと着替えを用意してくれた。着替えはもちろん黒の盗人服一式である。
ばかりか、温かいほうじ茶とイモ羊かんまでご馳走してくれた。
ありがたく頂戴した。
下着まで借りるハメになった恥辱は、とりあえずイモ羊かんといっしょに呑み込んでおく。
茶飲みついでに訊ねたところ、あの橋はやはり罠であったらしい。
とはいえ、まさか本当に引っかかるヤツがいるだなんて……
尾白はくつくつ肩をふるわせた。
わたしは「べー」と舌を出す。
そりゃあ、まんまと引っかかったわたしがマヌケですけど、あんなのを仕掛ける方もどうかとおもう。少なくともいい歳をした大人がすることじゃない。
なお薄情な一枝さんは飛び去ったまま戻ってこない。
おおかたジンさんかカクさんの方にでも合流したのであろう。
これもまたわたしを不機嫌にさせている要因のひとつだ。
――付き添い役って、いったい何なんだろう?
なんぞと考えてながら、ぬるくなった茶をぐびり。
ひと口飲んだ時のことであった。
ゴ~ン、ゴ~ン、ゴ~ン、ゴ~ン。
聞こえてきたのは鐘の音。
のんびりした響きだ。
いったい何事かとわたしが耳を傾けていたら、尾白が教えてくれた。
「あー、これかい。こいつは時の鐘さ」
時の鐘。
昔は時計なんていう道具は普及していなかった。
だから、こうして時刻を告げる鐘を打ち鳴らしては、みんなに「いま何時ですよー」と報せていたのである。鐘をつく係の人もいて、かかる費用を地域から徴収していたそうな。
昔の人たちはいまみたいな分刻みのスケジュールでは生きておらず、基本的にはお陽さまの動きに合わせて寝起きし、もっとのんびり暮らしていた。
「自動車や飛行機、ネットにスマホに電子マネー……たしかに便利な世の中にはなったけど。その分、楽になるどころか逆にあくせくして不自由をしているんだから、人間ってのはつくづく珍妙な生き物でさぁ」
尾白の言葉に、わたしは思い当たることがありすぎて何も言い返せない。
わたしが黙っていると、今度はさっきとはまたちがう音が聞こえてきた。
カランコロン、カランコロン、カランコロン、カランコロンカラン……
商店街の福引の時に、当たりが出ると鳴らされるベルの音だ。
それを耳にした尾白が「おや、一枚目の絵馬を手に入れましたか。お連れさん方、なかなかやりますねえ」と言った。
あのベルの音は、絵馬をゲットした合図らしい。
「どれ、こっちもそろそろですかねえ」
がちゃり、尾白が錠前をはずし牢の扉を開けた。
「もう行ってよござんすよ。あぁ、預かってる服はあとでちゃんとお返ししますから。洗濯をして乾燥機にかけておきますんで。
あとこれはちょっとしたオマケですが、絵馬は手に入れるほどに試練の儀の難易度も段階的にあがっていきますんで、どうぞご用心を」
進行するほどに、ケイドロ遊びがより難しくなる。
それすなわち捕り方の人員が増え、強化されるということ!
わたしは「えらいこっちゃ」と番屋から飛び出した。
が――
「どこへ向かったらいいんだろう」
ハタと立ち止まり途方にくれた。
当初の予定通り、一番地の壱さん宅へと向かうべきか。
でも、ジンさんたちがいつまでもそこにいるとはかぎらない。あのふたりはわりとせっかちだ。彼らの性分からして次を目指し動いているだろう。
次のナゾナゾのお題は『三人四脚、一日中走っているのに汗をかかないものは何?』というもの。
答えはさっぱりだ。
というか、何だこの問題……ずっと駆け通しで汗だくなわたしたちに対しての皮肉なのかしらん。もしもそうだとしたら腹立たしいことこの上ない。
はてさて、どうしたものか。
モタモタしていたら、またぞろ岡っ引きたちに見つかってふん縛られてしまう。
わたしが立ち止まって迷っていると、パサリとの羽音がした。
ひらりと舞い降りてきたのは一羽のウグイスである。
一枝さんであった。
彼女は肩にとまって翼を休めることなく、身を翻しては空へと。
「こっちだよミユウ、連中のところに案内してやるからついてきな」
両翼を広げてスィーと飛んでいく一枝さん。
その小さな姿をわたしは懸命に追いかける。
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