下出部町内漫遊記

月芝

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028 絵馬、三枚目

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 カランコロン、カランコロン、カランコロン……

 ベルの音が鳴った。
 どうやらジンさんとカクさんが二枚目の絵馬を手に入れるのに成功したらしい。
 わたしはそれを報せるベルの音を牢のなかで聞いている。
 あー、うん、そうなの。また捕まっちゃった、テヘ。
 いや~、まさかあそこでアレが登場するとはおもわなかったもので。度肝を抜かれてポカンとしているところに、バサッと網をかけられちゃった。
 なお今度は一枝さんもいっしょに捕まったんだけど、網の目が大きかったおかげで、小鳥はスルリと抜けて「チチチチ」羽ばたき自分だけサッサと逃げた。

 ちなみにアレとは白馬にまたがったバカ殿もとい暴れん坊な将軍さまである。手綱を握っては「はいよー」パカラパカラっとやってきたのだけれども。
 そのお馬さんが本物じゃなくて、張り子の馬を人が担いでいる作り物であった。歌舞伎とかで見かけるやつだ。
 馬のディテールは甘くデキ映えもイマイチ、でもなかの人――前脚と後ろ脚の役のふたりは異様にムキムキだった。なぜだか白の短パンとランニングシャツといういでたちにて。
 脚だけやたらと立派な白馬がドドドド、猛然と土煙をあげながら駆けてきたもので、わたしはゲラゲラと腹を抱えて大笑いしてしまう。ヒィヒィと動けなくなったところをあえなく御用となってしまったのである。

 カランコロンカラン……

 牢屋のなかでベルの音を聞きながら、お茶をぐびりと飲み菓子にパクつく。
 前回捕まったときにはイモ羊かんだったけど、今回のお茶請けはカステラであった。底にザラメがついたタイプだ。
 捕まるたびに簀巻きにされてはワッショイ運ばれ、ここに放り込まれるのは腹立たしいけれども、甘味を振る舞われるサービスだけは評価してやってもいい。

 でも前回とちがうのはお茶請けだけではなかった。
 尾白の姿がない。

『ちょっとコインランドリーに行ってくる』

 とのメモ書きが残されてあった。おそらくわたしの濡れた服を乾かしにいってくれたのだろう。
 代わりに番屋にいたのは黒子である。
 彼らは基本的にしゃべらない。あくまで裏方に徹するようで、どれだけ話しかけてもウンともスンとも言いやしない。ただ黙々とお世話をしてくれるばかり。でも無視されているようで、ちょっとさみしい。

  〇

 モグモグ、ごっくん。
 最後のひと口を茶で胃に流し込む。
 おかわりしたカステラをペロリとたいらげた。
 ずっと逃げ回ってばかりいるから、消耗したエネルギー分をしっかり補給する。
 食べ終えたタイミングで釈放となった。
 番屋から出たわたしが「うぅ、シャバはまぶしすぎるぜ」と、お天道さまに目を細めていたら。

「チャッチャッチャッ」

 聞こえてきたのはウグイスのさえずり声。
 もちろん一枝さんである。
 最寄りの家屋の軒先にとまって、わたしが解き放たれるのを待っていたらしい。

「ほら、グズグズしない。すぐにあいつらと合流するよ」

 言うなり飛び立つ。

「またこのパターンなの? 次こそは囮役を替わって欲しいんだけど」

 わたしはぶつくさ、ぼやきながらも一枝さんについていく。
 そうしたら高度を下げて、並走するように飛びながら一枝さんが言った。

「いやいや、あっちはあっちでけっこうたいへんだったよ」

 二枚目の絵馬は、海夕が予想したように時の鐘の鐘楼のところに確かにあった。
 ただし、鐘楼の一番高いところに!
 鐘楼は木造の物見櫓(ものみやぐら)にて、のぼるには地面より垂直にのびたハシゴを使うしかない。なお高さは二十メートルほど。命綱や安全マットなんてものもない。
 二十メートルといえば、奈良は東大寺の大仏さまや札幌の観光名所である時計台ほどもある。
 時計台に関しては、実際に行ってみたら「なんだか小さくてガッカリした」なんて話をよく耳にするけれども、それはかんちがい。周囲の地形や建物のせいでそう感じるだけで、実際にはとても立派である。

 一枝さんによれば、ハシゴをのぼったのはジャンケンに負けたジンさん。
 だが、下に残ったカクさんものんびりとはしていられなかった。
 なにせ白昼に盗人姿の人体模型が「ひょえぇぇぇ」とへっぴり腰で、鐘楼にあがっているのだ。
 どうしたって目立つ。
 じきに捕り方連中に発見されて、わらわら集まってきたんだとか。
 そこからはハシゴを死守すべくカクさんも大忙し。
 ジンさんが絵馬を手に入れて地上に戻ってからは、ふたりでなんとか囲みを破って逃げられたものの、なかなかの騒動になったそうな。

 わたしが牢屋でのんびりお茶を飲んでいる裏で、そんなことが起きていようとは……
 話を聞いて、わたしはちょびっと留飲を下げた。
 なお二枚目の絵馬の図柄は花札の鹿、願い事には『みんなに優しい社会でありますように。尾白』と書いてあったそうな。
 う~ん、やはりハチワレの尾白はいい人なのかしらん。
 わたしは小首をかしげつつも、三枚目の絵馬を手に入れるべく仲間たちとの合流を急ぐ。


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