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029 置いてけ掘
しおりを挟む一枝さんに案内されたのは、とある掘っ立て小屋であった。
ごちゃごちゃといろんなものが放り込まれており、障子戸は破れ、土壁にも傷みが目立つ。それこそちょっと強い風が吹いたら、たやすく倒壊しちゃいそうなボロ具合だ。
そんな小屋の奥で、ジンさんとカクさんは藁(わら)の筵(むしろ)にくるまり身を隠していた。
再会したところで、さっそく第三のナゾナゾについて話し合う。
『かならず『ら』を添える料理はな~んだ?』
添えるというのは、付け加えるという意味だ。
ということは、名前に『ら』がつく料理ということだろう。
みんな大好きラーメン、イタリア料理のラザニア、羊のあばら骨付き背肉のラムチョップ、牛の腰からお尻と腿あたりのお肉を使ったランプステーキ、沖縄の角煮であるラフテー、パスタ生地にひき肉などを挟んだラビオリ、インド料理のスープであるラッサム、お米をバンズ代わりにしたライスバーガーなどなど。
ざっと思いつくだけでもこれだけある。
おそらくはもっとたくさんあるのだろう。
「頭文字(かしらもじ)だけとはかぎらんぞ。例えば……」
ジンさんが指折り数える。
からあげ、きんぴら、てんぷら、あら汁、サラダ、オムライス、エビフライ、グラタン、ピラフ、ドライカレー、フライドチキン、あらびきソーセージ、にらたま、カルボナーラ、ティラミス……はデザートだから除外してもいいだろう。
「存外たくさんあるのぉ。じゃがここは映画村だ。そのことを考えれば、とりあえず洋食の類ははずしてもいいじゃろう。となれば残るのは……」
きんぴら、てんぷら、あら汁。
いまあげた候補のなかからカクさんが絞る。
その上で元武士であるカクさんがもっとも可能性が高いとしたのは、てんぷらであった。
なぜなら江戸時代には、てんぷらの屋台がすでにあったから。
てんぷらのネタとしては穴子、芝海老、コハダ、貝柱、するめなどが人気で、オカズというよりかはオヤツ感覚で気軽に食べられていたんだと。
「ふ~ん、なるほどねえ。だったら三枚目の絵馬はてんぷらの屋台のところにあるということか。でも、そんなのあったっけかなぁ」
わりとあちこち逃げ回っていたが、わたしはとんと見かけていない。
ジンさんとカクさんも同じらしく「はて?」「さて?」
そうしたら一枝さんが「あー、それらしいのなら、さっき見かけたかも」と言い出した。
番屋にしょっぴかれたわたしのところへパタパタ飛んで向かっている途中に、それっぽい担ぎ屋台を見たそうな。
ちなみに担ぎ屋台というのは、その名のとおり担いで移動する小ぶりな屋台のことである。
好都合なことに、その担ぎ屋台が向かっていたのが、ちょうどいま自分たちが潜伏している隣の地区だという。
だとすれば、近くで商売をしているかもしれない。
わたしたちはさっそくそちらへ向かうことにした。
〇
横着をして近道をしようと考えたのが悪かったのか。
気づけば一行は、奇妙な場所に迷い込んでいた。
周辺に人の姿がない、気配もしない。
エキストラがまったくいない。あれほど活気があった映画村の喧騒が遠い。
まるでゴーストタウンだ。
しぃんと静まり返っているなか、聞こえてくるのはカラカラカラ……
回る風車の音ばかり。
閑散とした路地のそこかしこにいくつも風車が差してある。
緑色に濁った水がむぅんと臭う。
掘沿いの道を進む。
すこしひらけたところに出たとおもったら、わたしたちはギョッ。
出現した白壁、そこにずらりと飾られていたのは大量の狐の面たち。
異様な光景を前にして、わたしはおもわず息を呑んだ。
なるべく仮面から目をそらし、わたしたちは足早やにその場を離れた。
じきに桟橋のある舟着き場へと差し掛かった。
周囲には土蔵が建ち並んでいる。
ここで荷下ろしをして蔵に運び込むのだろう。
それらを横目に先を急ごうとしたときにことであった。
ひゅるりと生温かい風が吹いたとおもったら……
「置いてけ~、置いてけ~」
不気味な声がどこからともなく聞こえてくるではないか!
びっくりして立ち止まっていると、さらに声はこう言った。
「置いてけ~、絵馬を置いてけ~」と。
冗談じゃない!
散々に苦労して手に入れた絵馬を渡してなるものか。
なので、わたしたちは無視してサッサと行こうとするも――
急にお掘の水面がブクブクと泡立ち、ザバーッと水柱が立つ。
あらわれたのは………………屋根ほどもある大きな首長竜!
置いてけ堀に首長竜???
あまりの脈絡のなさに思考がついていけない。わたしたちはあんぐり見上げるばかり。
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