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030 首長竜と赤河童
しおりを挟む下出部映画村の置いてけ掘に首長竜が出現した!
あぁ、もちろん本物じゃないよ。造り物である。
それから置いてけ堀の話ならばわたしでも知っている。それぐらい有名だということだ。
江戸時代の怪談で、その内容は……
よく釣れるという穴場の掘があって、行ってみたらたしかによく釣れた。釣果の入った魚籠(びく)にホクホク顔で帰ろうとすると、どこからともなく聞こえてきたのが「置いてけ」という恐ろしい声。
怖くなって逃げ帰るも、魚籠のなかをのぞいてみれば魚が一匹もいなくなっていた。
という怪談話。
いまどきの過激な都市伝説とかと比べるとヌルイ内容にて、現代っ子の感想としては「だから何なの?」程度のものである。
まぁ、それはともかくとして。
「ねえ、江戸時代に恐竜っていたの?」
わたしがたずねたら「おらんぞ。ゾウやラクダにヒクイドリとかならば見世物として海の向こうから運ばれてきておったが……。
とくにラクダのやつはえらい人気じゃったぞ。人気のあまりアレのしょんべんを呑んだら、くたばりぞこないの老人もぴんぴん元気になるとか云われておったな。ガハハハ」とカクさん。
この話にわたしは顔をしかめつつ、ジンさんにもたずねると彼も首を横に振る。
「首長竜がいたのは中生代三畳後期からジュラ紀、白亜紀までだ。当然ながら江戸時代の日本にいるわけがない」
……でしょうね。
わたしもそうだとおもってた。
つまりこの首長竜の造り物は、完全にミスマッチなオブジェだということ。
ここにきて映画村の世界観が崩れた。
そのことをちょっとざんねんがっている自分がいることに、わたし自身もびっくりしている。
「いや、ミユウ。それはいささか早計だろう。映画村を名乗っているだけあって、特撮繋がりならばアリなのでは?」
ジンさんの言葉に、わたしは「なるほど」ポンと手を打つ。
たしかにその通りである。本物の映画村の方でも、特撮ヒーローショウとかやっているし。
時代劇ばかりが前面に押し出された舞台セットゆえに、てっきりそれ専用なのかと思い込んでいたが、ハチワレの尾白はひと言もそんなことは口にしていない。
「とはいえ、やっぱり周囲から浮いてる感が否めない」とわたし。
「……だな」とジンさん。
「であるな」とカクさん。
「おっ、背中になんかのってるぞ」と一枝さん。
だからみんなで見てみたら赤い河童がいた。
やや小ぶりだが、凶悪な面構えをしている。
これはアリなのかもしらん?
三人と一羽は揃って「う~ん」と大きく首を傾げた。
その間にも続いている「置いてけ~、置いてけ~」という声。
よくよく耳を澄ませて出所を探ってみたら、それは首長竜の口の中にあるスピーカーから聞こえていた。
あと声音を変えているけど、たぶんコレ、尾白の声だ。
「絵馬を置いてけ~」
それだけにて、待てどもこれ以上は何も起こりそうにない。
いわゆる出オチというやつだ。
なので、わたしたちは無言でその場を立ち去った。
〇
土蔵と土蔵の間の細い道を抜けると、いっきに活気が戻ってきた。
往来の両脇に連なるのはいくつもの屋台たち。
うどんやそばなどの定番のものから、お寿司、ところてん、葛まんじゅう、だんご、冷水、真桑瓜(まくわうり)、せんべえ、枝豆、うなぎ、丼物、焼き魚、酒、茶などなど。
いろんな品を扱っている店がずらりと並んでおり、そこかしこから良い匂いがする。
これを目当てに大勢の客たちがひしめき合って、通りは大盛況だ。
わたしたちはキョロキョロ、人混みにまぎれて目当てのてんぷらの屋台を探す。
とはいえ油を使った商いゆえに、匂いを辿って行けばわりと簡単に見つけられた。
なにせ江戸のてんぷらはごま油を使っているもので。独特の香ばしさがあるから、すぐにわかる。
ちなみに一枝さんによれば、関西では菜種油を使っていたそうな。
ついにお目当てのてんぷらの担ぎ屋台を発見した。
その店先にあるのぼり旗の先に、絵馬が吊るされているのも確認する。
わたしたちはすぐにそれを確保しようと、屋台に近づいていくも、その時のことであった。
急に付近がざわつきだして、人混みが割れた。
肩で風切り歩くは、破落戸(ごろつき)の集団である。
方々の屋台の店主にたかっては「所場代をよこせ」と迫っている。
破落戸どもはじきに、てんぷらの屋台のところにまでやってきた。
しかし、てんぷら屋の店主は「おまえたちにくれてやる銭なんぞねえ! これでも喰らえ!」と熱々の油をピピピと飛ばしたものだから、さぁ、たいへん!
取っ組み合いのケンカが始まり、たちまち周辺が喧騒に包まれ、大事な絵馬もそれに巻き込まれてしまった。
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