下出部町内漫遊記

月芝

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031 火事と喧嘩は江戸の花

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「この野郎、よくもやりやがったな!」
「うるせぇ! このトウヘンボクが」
「なにおぅ!」
「なんだぁ!」

 売り言葉に買い言葉。
 掴み合いの取っ組み合い。
 しまいにはポカポカと殴り合う。
 とはいえ、威勢のいいてんぷら屋の店主はひとりにて、破落戸どもには仲間がいる。
 このままでは一方的に袋叩きにされちゃう。
 かとおもいきや、近くの屋台の店主らが加勢した。
 どうやら彼らも横暴な破落戸どもに、すっかり腹を立てていたらしい。
 だが、騒動はこれだけに留まらない。

「いいぞ、もっとやれ」「ほれ、そこだ」「がんばれ負けるな」

 やんやと囃し立てていた野次馬たち。
 彼らまでもが興奮し、「てやんでぃ、ばろう」「あたぼうよ」「こんちくしょうめ」と腕まくりにてケンカの輪に参加する。

 江戸っ子といえば……粋でいなせで、さっぱりしており、歯切れよく、宵越しの銭は持たないと有名だけど。
 その反面、見栄っ張りの意地っ張りで頑固一徹、短気でせっかちでケンカっぱやいなんて特徴もある。

 ここ下出部映画村の世界観は、お江戸をベースにしているっぽい。
 だからであろうか? 騒ぎはおさまるどころかますますヒートアップするばかり。
 ついには一帯をも巻き込んでは押し合いへし合い、盛大なケンカ祭りへと発展する。

 そんな喧騒のさなかのことだ。
 てんぷら屋の店先に吊るされていた三枚目の絵馬が、はじき飛ばされてしまった!
 絵馬の行方をわたしたちは懸命に目で追う。
 あっちに飛んで行ったとおもったら、誰かの頭にコツンと当たり「あ痛っ! って何だいこりゃあ? え~となになに『喧嘩は駄目よ、みんな仲良く人類みな兄弟。尾白』だと。けっ、しゃらくせえ」と怒らせて、彼方に放り投げられる。
 こっちに飛んで行ったとおもったら、そこにいた者より「ええい、邪魔だ」とポイっと捨てられる。
 そうやって方々をぴょんぴょん、ぴょんぴょん、行きつ戻りつをするうちに絵馬はぽとりと地面に落ちた。

 わたしは「しめた!」とすぐに拾おうとするも、あとちょっとというところで、誰かの足にコツンと絵馬が蹴られてしまい「あぁーっ!」
 ジンさんとカクさんも必死に確保しようとするも、周囲の状況がそれを許さない。
 なおウグイスの一枝さんは身の危険を感じて、さっさと上空に避難していた。

  〇

 怒号渦巻き熱を帯びるケンカ祭り。
 それが最高潮に達しようかという頃合いに異変は起きた。
 発端は、誰かの叫び声。

「か、火事だぁあぁぁーっ!」

 そりゃあこんな屋台が集まる場所で好き勝手に暴れたら、小火(ぼや)のひとつやふたつ発生したとてしょうがない。
 とはいえ――じつはこのケンカも火事も本当のことじゃない。
 すべてはお芝居だ。なにせここは映画村なもので。

 ライトアップされた空が赤色に染まる。
 スモークがガンガン焚かれ、それっぽい焦げた匂いが漂う。
 火事が発生したことを告げる半鐘がカンカンと打ち鳴らされている。

 演出により、がぜん火事場っぽくなってきたところで、「おら、どいたどいた。火元はどこだ?」とあらわれたのは、そろいの半纏を羽織った姿が勇ましい男たち――火消しだ。
 め組の印のはいった旗印の纏(まとい)、火の粉を払う大団扇、柱や壁などを引き裂く鳶口(とびぐち)、重い物を倒すのに使う刺股(さすまた)、打ち壊し用の木槌(きづち)、屋根にのぼるのに使うはしご、水を運ぶ桶などの道具を手に、颯爽と登場する。
 火消しは江戸の町のヒーロー。
 彼らが登場したとたんに周囲よりドッと歓声が沸き起こった。

 さっそく消火活動を始める火消したち。
 するとさっきまでケンカをしていたみんなは争いをやめて、すっかりそちらに首ったけ。
 その隙に、わたしはどうにか三枚目の絵馬をゲットすることに成功した。

「やった!」
「ふぅ、ようやくこれで猪鹿蝶がそろったねえ」
「でかしたぞミユウ、あとはゴールするだけだな」
「ならば長居は無用じゃな。とっとと向かおう」

 この第二の試練、ゴールは映画村の北端にある大橋を渡った先にあるお城の門前。
 そこに置かれた目安箱とやらに絵馬を奉納すればクリアとなる。
 わたしたち一行は目立たぬようにこっそり火事場から離れ、ゴール地点目がけて駆け出した。


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