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033 大捕り物
しおりを挟むガラガラガラガラ……
猛然と大橋へと向かって行くのは酒樽を積んだ大八車。
一台で八人分の仕事をするからそう呼ばれている荷車、昔のリアカーみたいなものだ。
これを押すのはジンさんとカクさんである。
本来ならば牽引して使用する大八車を、あえて押し、お尻の方を前にして走らせているのは、このまま捕り物に乱入するため。
わたしたちはあれこれ相談したものの妙案は浮かばず。
あんまりグズグズしていたら追っ手もくるだろう。橋の上で挟み討ちなんぞにされては万事休すにて。
こうなってはもはや強行突破するしかない。
との結論に至ったところで、どうせ避けようがないのならば竜胆に加勢することにした。
乱入の横槍にて現場をより混乱させる。突破の成功率を少しでもあげておこうとの魂胆だ。
ガラガラガラガラガラガラ……
「うぉおぉぉぉぉーっ」
「どりゃあぁぁぁーっ」
ジンさんとカクさんが雄叫びをあげた。
橋へと乗り上げたところで、大八車の車輪が跳ねてガタンと音がする。
「いったい何事だ?」
こっちを見た捕り方の者どもは、ギョッ! 突っ込んでくる大八車を避けるべく、泡を喰って逃げ出し蜘蛛の子を散らす。
でもここは橋の上なので、互いが邪魔になってうまく避けられない。
結果、まろびころびつ。不運な者は撥ね飛ばされる。ばかりか欄干(らんかん)をも越えて川にぼちゃんと落っこちる者まで。
そうして周りにいた捕り方連中を蹴散らし、竜胆のもとまでひと息に突っ切ったところで、ジンさんはおもむろに綱をほどき、続けて荷台に飛び乗ったカクさんが「どりゃあ~」と積まれていた樽の山を蹴飛ばす。
これにより解き放たれた酒樽たちを、一斉にガランゴロンと転がしたもので、周囲にいた者らはキャアキャア逃げ惑う。
突然の乱入により現場は大混乱に陥った。
〇
竜胆に加勢してジンさんとカクさんが暴れているのを尻目に……
パコンと開いたのは、とある酒樽のフタ。
なかから「うぅ、目が回る」「うぷっ、気持ち悪い」と這い出してきたのは、わたしと一枝さんだ。
じつは荷台に積まれていた酒樽のうちのひとつに身を潜めていたのである。
すべて計算の上でジンさんが大八車の方角を調整し、カクさんは樽の山を崩す。こうすることで、わたしは捕り方連中に気づかれることなく先へと進めるという算段であった。
狙い通りにて、周囲の目は竜胆たちに集まっており、転がっていた酒樽に注意を払う者はいない。
想定していたよりも目が回ったのは失敗だったけれども、うれしい誤算もあった。
それはおもいのほか樽が景気よくコロコロ転がったこと。
現場から少しでも遠くに離れられたらいいかなぐらいの考えだったが、樽から外に出てわたしはびっくり。
だって、ほぼ橋を渡り切るぐらいほども距離を稼げていたんだもの。ゴールの目安箱はもうすぐそこだ。
懐にしまってある三枚の絵馬、ちゃんとあることを確認してからわたしはよろよろ歩き出す。
橋を渡り切った。
城門前に設置されてある目安箱までは、あと五メートルほど。
でもわたしはここで足を止める。箱のうしろに誰かが座っていることに気がついたからだ。
のそりと小山が動くかのようにして立ち上がったのは、猫耳な頭巾姿にて高下駄をはき、薙刀を手にした大男――僧兵だ。
僧兵はぎろりとこちらをにらみ言った。
「我は武蔵坊弁慶なり。もしもこの先に進みたくばそれがしを倒すか、もしくは懐の絵馬を置いていけ」
怪力無双の荒法師が登場。
しかもよくよく見てみたら、持っている薙刀の刃の部分がおかしい。墨のたっぷり染み込んだ筆になっているではないか。
どうやらあれでべちゃりとやられるっぽい。
ラスボスとして立ちはだかる弁慶にわたしは「えー」
春から中学校にあがる乙女にずいぶんと無茶を言う。
それにこういうのの相手はカクさんの役目なのに。
チラッと後方を見れば、あっちはあっちで大捕り物の真っ最中。とてもではないが、こちらにまでは手が回りそうにない。
こうなったら自分でどうにか切り抜けるしかない。
覚悟を決めたわたしは一枝さんに「危ないから離れてて」と告げた。
かくして単身、弁慶と対峙することになったわたし。気分はまさに五条大橋で彼と戦った義経……なわけないじゃない!
だってわたしはか弱い女の子だもの。
というわけで、わたしは「いざ、尋常に勝負!」と宣言した舌の根も乾かないうちに、「えいや」と投げつけたのは握りしめていた砂である。さっきこっそり拾っておいたもの。
鈴山海夕の目つぶしが炸裂!
まさかの攻撃を顔に受けて、弁慶がよろめき「おのれ卑怯な」とうめく。
わたしは「勝てば官軍!」と言い放ち、さっさと彼の脇を抜けて目安箱へとまっしぐら。
バスケのダンクシュートのように、三枚の絵馬をまとめてガッコン!
思い切り箱へと叩き込んだ。
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